『料理発見』甘糟幸子 〜食の本紹介〜
近所にできた「みんなでつくる本とアートの実験室」ラムリアにてシェア本棚をかりました。そのなかから1冊紹介します。
11.『料理発見』甘糟幸子
静岡県の三島に行く用があり、駅からふらふらと歩いていたら2軒の本屋に出会った。
一つは三島大社そばのginger book &cafe。
もう一軒は一駅はなれた三島田町駅のYACHT BOOK(ヨット)。
どちらも最近開店したばかりだという。二店とも選書に個性があり品揃えから本気をかんじた。
特にYACHT BOOKは食エッセイのコーナーがあって、見たこともない本が並んでいたので興奮してまとめて本を買ってきた。
駅の近くに水辺があって、澄んだ水が流れ、それにくわえて素敵な本屋があるなんて、三島って、いいなぁ。
さて、そうして出会ったのが、甘糟幸子さんの『料理発見』である。
出会い方からして相性のよい本にちがいない!
実際、期待以上だった。
一緒に買った『荒野の食卓』が、誰かと一緒にごはんを食べたくなる本だとしたら、『料理発見』は猛然と料理をつくりたくなる本だ。
「遅れて料理をはじめた幸せ」の章に書いているように、結婚してある時、夫に「とんかつ作ってみない」と誘われてから、「作るとはこういう風に明確で楽しいことなのだ」と目覚めたという。
甘糟さんは1934年生まれなので、インターネットはない時代。作ってみたい料理があると、本を読んだり、友人に聞いたり、親しい肉屋や八百屋に聞いたりしながら、森の茂みにわけいるように探求がはじまる。
不思議なことをわかりたい!と子どものような熱中ぶりで納得するまでハマりつづける。
ある時はタピオカにはまり、ある時は鶏のスジのスープ。
あるいは小籠包、冬瓜、シチュー、タコス、仔羊と幅広い。
甘糟さんのすてきなところは、素人でいることからぶれないスタンスだと思う。
料理が好きでも解説することはなく、素人としてまことに真剣にやってみた、という風でいられるのが、軽やかですてきだ。
たとえば、鹿肉のローストづくりに凝った時は、好奇心が高じて、いとめたばかりの仔鹿を庭でさばくことになった。
しかし、いざ解体してみると、死んだ仔鹿が「ココニイル」と言っていそうで怖くて冷凍庫をあけられない。
これが冷静な文体で語られるのでおかしくて笑ってしまう。
「なにごとにも、ついつい本格的に、さらに構想を大きく、間口を広げてしまうのが悪い癖」だと自分でも書いている。まぁ、なんともチャーミングな方である。
ちなみに、この本は装丁もこだわっている。
黄色の帯とだいだい色の表紙、最初と最後にはさみこまれた赤茶色の厚紙。
その色づかいは食材の組みあわせにも似ていて、ページを閉じたあとにも満足できる。
1986年刊行のエッセイを復刊させたというアノニマスタジオの担当さんと、いい本でした!と握手したくなる。