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高校生時代の探究が将来につながる 福島のマイプロジェクト

全国の高校生が、探究活動などで活動してきた成果を発表する学びの祭典、全国高校生マイプロジェクトアワード(マイプロジェクト)。全国各地でマイプロジェクトの地域Summit(サミット)が開催されており、福島でも県内の高校生が自分たちの探究を発表し学び合うマイプロジェクトの福島県Summitが開催されています。

マイプロジェクトを企画しているNPO法人カタリバの横山和毅さんとふたば未来学園高校の卒業生で、高校時代にマイプロジェクトの全国Summitに出場した志賀俊希としきさんに、マイプロジェクトは高校生にとってどんな機会となっているかや探究学習を進めるポイントについて伺いました。



震災からの復興から始まったマイプロジェクト

マイプロジェクトの第1回は2013年に岩手県で開催されました。もともとは東日本大震災の復興に携わりたいと考えていた高校生がプロジェクトを発表するところからスタートし、当初参加した生徒は18人でした。その後、高校で「探究」の授業などが始まったことで全国に広がり、2023年度は全国10万人の生徒がマイプロジェクトを実践しています。

福島県Summitには毎回福島県各地から40~50プロジェクトが集まり、自分たちで取り組んだプロジェクトについてオンラインで発表します。小グループで行われる発表には大人が「サポーター」として参加し、高校生のプロジェクトを通じた得た気づきに対して、対話や助言を行います。全国Summitを目指す高校生は福島県Summitの後の動画選考に参加し、全国Summitに出場するプロジェクトが選ばれます。

横山さんは「福島県Summitに参加した生徒は、ほかの高校生の発表から学んだり、近いテーマの仲間ができたり、サポーターから応援されることで次に自分たちでやるべきことを見つけたりしています。このような経験は、生徒たちの自信やモチベーションにつながっています」と話します。

福島県Summitの運営には、高校時代にマイプロジェクトに出場したことのある学生が運営に関わっています。横山さんは、「マイプロジェクトを経験した高校生が、卒業後にマイプロジェクトに関わってきてくれるのは嬉しい。高校生も先輩の姿を見て刺激を受けている」と横山さんは話します。

マイプロジェクトを通して見つけた、自らの進む道

ふたば未来学園高校の卒業生で、故郷の大熊町で町役場の職員として働いている志賀俊希さんは、高校3年生だった2019年、「防災」をテーマに取り組んだ探究をマイプロジェクトの全国Summitで発表し、「ベストオーナーシップ賞」を受賞しました。

志賀さんは関東の大学に進学した後、「防災」に携わるため故郷の大熊町の役場職員となり、そして現在も地域の防災に関するお仕事をしています。

志賀さんが高校時代に取り組んでいた探究活動のテーマは「全国に防災意識を広める」。志賀さんが防災をテーマに取り組んだきっかけは、小学校4年生の時に経験した東日本大震災でした。激しい揺れに襲われ、避難には想定の3倍時間がかかりました。震災で友人のご家族が亡くなったという知らせに、志賀さんは胸を痛めました。「このような思いを他の誰にもしてほしくない」この経験が志賀さんの探究の原点でした。
志賀さんはまず自身が通っている高校の生徒約300名に「自分の故郷の避難経路を知っているか」というアンケートを取りました。結果、半数以上が「避難経路を知らない」と答えました。「人々が避難経路を知らない」という課題を見つけた志賀さんは、解決案として「避難訓練」に目を付けました。

志賀さん自身も震災の前は、避難訓練に消極的で、「必要だけれどつまらない、面倒だ」というマイナスのイメージを持っていました。志賀さんは、「避難訓練」に何か楽しいことを組み合わせることができれば、「避難経路」をより理解できるのではないかと考えました。

そこで目を付けたのが「祭り」や「遠足」。震災の影響で行われなくなった祭りの復活に取り組む地元の大人たちと話し合ったり、地元の小学校の遠足で避難経路を歩くことを小学校に提案しました。しかし、「祭り」では避難経路の説明ができず、小学校に依頼した時には電話ではOKをいただいたのかと思いきや、実際に訪問してみると「OKは出していない」と言われてしまいました。

その後幼稚園に散歩コースで避難経路を歩いてもらうことを提案し、幼稚園児に避難経路を歩いてもらい、防災に関するお話をすることができました。

この過程をマイプロジェクトで発表し、全国Summitに出場した志賀さん。全国Summitでは、各地域の課題や他の高校生の視点に触れることで、自分の視野が大きく広がったといいます。「多くの方から応援をいただき、自分の活動をもっと広めたい、防災についてさらに学びたいという思いが強くなりました」と話します。

探究がうまくいかなかった経験からの学び

探究がうまくいかなかった経験について志賀さんは「自分がやりたいことを成し遂げるためには1人ではできず、誰かの協力を得るためにはコミュニケーションが重要だと痛感しました」と話します。相手の気持ちをくみ取るにはどうするか、協力的な関係性を築くには何が必要か…志賀さんはコミュニケーション力を高めたいという思いから大学に進学したいと思うようになりました。

高校入学当初は地元就職を考えていた志賀さんでしたが、コミュニケーション力を高めて教員となり防災教育を行おうと考え、関東の大学に進学して「スポーツコミュニケーション」を学びました。

それから3年。大学卒業後の進路を考えていた志賀さんは、福島を離れて関東の大学で学ぶ中で「自分のふるさとである福島、特に大熊町に貢献したい」という思いが強くなりました。

教員となって防災教育を伝えるよりも直接的に防災に関わることができるのは地元の大熊町役場で働くことではないか。そう考えた志賀さんは故郷に戻り、役場職員として防災を担当しています。大熊町では移住者も多いため、移住者が安全に避難できるようなルートや対応を考えるといった地域防災に力を入れたいと話しています。

探究活動での経験やマイプロジェクトでの発表は自分の進路への考え方に影響を与え、自身の人生が大きく変わるきっかけだったという志賀さん。大学時代に高校生の探究活動のサポートも行った経験を持つ志賀さんは、「まずは好きなことを探究してほしい。好きなことなら続けられると思いますし、あきらめないと思います。私は、マイプロジェクトに出場したことで人生が変わりました。そういったコンテストにもぜひチャレンジして、自分が『楽しい』と思ったことを発表してみてください」と話しました。

「まずは小さな一歩から始めよう」

記事の最初でご紹介した横山さんは、「ふたば未来学園中学・高等学校」でも探究学習のコーディネーターを務めており、志賀さんの後輩たちの探究活動に関わってきました。そんな横山さんに、探究活動を進めるうえでのアドバイスを聞きました。

横山さんは探究がうまく進まない中学生・高校生に対して、「気になっていること」、「最近モヤモヤしていること」、「社会の中で感じる違和感」から考えてみよう、と伝えています。多くの中高生と接する中で、探究のテーマや、やりたいことをスムーズに見つけるのが難しい高校生もいると感じているからです。

もう1つ高校生におすすめしているのは、気になるテーマについて調べたり、誰かに話を聞いたりするなど、「1週間でできる小さなアクションを設定する」というものです。

横山さんは、「まずは、小さなことから行動してみること。やりながらモチベーションが高まって探究がどんどん進むこともありますし、逆に何か違うなと思って方向を修正することもあります。実際に大人でも小さな行動と改善を繰り返してプロジェクトを進めているので、まずは一歩踏み出してみること、ちょこっとマイプロジェクトをしてみることをおすすめしています」と話します。


◆探究キーワード「防災」

2011年の東日本大震災、2019年の令和元年東日本台風をはじめとする豪雨災害など、近年福島県は多くの災害に見舞われています。災害や防災をテーマに探究を行う場合、特に近年の災害については記録がまとめられており、インターネットや本でその記録を見ることができます。

東日本大震災の記録については、国立国会図書館のデータベース「東日本大震災 ひなぎく 被災地の記憶」をみてみましょう。福島県や県内各自治体の記録誌をWEBで読むことができます。

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