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🎖️ ピリカグランプリ すまスパ賞|ショートショート|誰モガ・フィンガー・オン・ユア・トリガー

「私がピストルの引金を引くのは上司に頼まれたからなの。決して私自身が好き好んでではなく……」と彼女は呟き、静かに水を飲んだ。 「それが役割ですから」と僕は返したが、自分でも気の利かない発言だなと思いゲンナリした。それで慌てて付け加えた。「あなたのおかげで、静止した世界が動き出すんです。その先には喜びも悲しみもあるけれど、それはあなたのせいじゃない。まずは誇りを持たないと」  彼女と僕は仕事仲間だ。だから彼女の苦悩も分かるつもり。上からの指示をこなす日々に嫌気がさすこともある

🎖️ ヤマハ発動機 HATSUDO 〈夏、トキメキが発動した瞬間〉 入選|詩|入道雲にはもう手が届かない

たぶんあの時、小4で夏真っ盛り 町民プールへと続く坂道を汗だくで上っていたら、先に上りきった入道雲が頂上から応援してくれた 20年経ったあの場所、入道雲はどこかへ、木々が伸びて空の形も違っている でも悪い気はしなかった

🎖️ note編集部 ピックアップ|ショートショート|ハロー・グッバイ・ハロー・グッバイ

 走ること自体も楽しいが、走りながら黙々と自分の世界に浸るのがより好きかもしれない。……ちょっと大人ぶってるかな。僕は中学生で陸上部に所属している。専門は長距離走だ。  朝の澄んだ空気の中で行う自主練は至福だ。世界を独り占めしたかのよう。走るのはいつもこの砂浜。2つ理由がある。  1つは、砂に足をとられて走りにくいため、むしろこれが良い負荷になって、脚力を鍛えるのにピッタリだから。アスリートもこのトレーニングは採用しているらしく、模倣するだけでなんだか僕も一流になった気分。

🎖️ 青ブラ文学部 優秀賞|ショートショート|愛も変わらず

 遠足を翌日に控えた小学生のようにワクワクしている。似たようなものだな。僕の場合、明日は待ちに待ったデートだ。仕事の都合で僕だけ海外に住んでおり、同棲や結婚はまだ難しく、デートもたまにしかできない。だからすごく貴重。  それなのにこの遠距離恋愛が6年も続いているのはありがたいことだ。きっと彼女と相性が良いのだろう。  お気に入りの服はクリーニングに出しピカピカでシワの1つもない状態にし、クローゼットでスタンバイさせてある。靴も洗った。髪は3日前に美容師に切ってもらい、眉毛と

🎖️ 『毎週ショートショートnote』 ピックアップ|ショートショート|茶道・サ道・鎖道

 僕らは重大な何かを忘れている気がしながら、そしてその懸念すら忘れようと努めながら日々を生きていると思いませんか? 「サウナ——銭湯とかにあるあの暑い部屋のやつね——を存分に楽しむ活動が『茶道』みたいに『サ道』って呼ばれてて人気らしいよ。冗談じゃなくて本当の話」と彼女はハンバーグをナイフで切りながら教えてくれた。 「へえ、活動そのものも面白そうだけど『サ道』って響きがなんだかコミカルで良いね」と僕は和風パスタをフォークで巻きながら返した。ちょっとうまいこと言うじゃないか。

🎖️ #2000字のホラー note×文藝春秋 ピックアップ|ショートショート|団地奇譚

 団地の踊り場の床は死体のように冷たかった。死体に触れた経験はないけれど——  僕は3歳から15歳まで、九州の某県にある団地で暮らしていた。白い外壁に淡い赤の玄関ドア、灰色の共用階段。慈悲深く遊具の設置された広場もある。代表として百科事典に載せてもいいくらい、よくある団地だ。 「住めば都」と一口に言っても住宅の形態や場所によって享受される住み心地は大きく変わるのだろうが、先述の通り物心つく前から団地で暮らしていた僕には比較対象がないため、「こんなもんか」と思いながら過ごして

🎖️ 『小説現代』 ショートショート・コンテスト 氏名掲載|ショートショート|青だけがすべて

 青、青、青。この国のあらゆる人工物は青色でできています。机や椅子も青、車や家も青、国旗は書くまでもなく。服の色はどれも青で、いわゆる流行色も常に青。  少し込み入った話をさせてください。聞いた話ですけれど、アジサイは要素の1つとして土が酸性だと青っぽい見た目に育つということで、人工物ではないですがこの国ではアジサイが咲く場所の土をわざわざ酸性に傾けているそうです。日本もですが何もしなくても土は酸性になりやすいのにです。なぜなら大気中に含まれる二酸化炭素が溶け込むため雨が弱酸