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映画の感想「靴ひものロンド」

「靴ひものロンド」というイタリア映画を観る。
イタリアのナポリに住む、高齢夫婦アルドとヴァンダ。
夫アルドはかつて妻ヴァンダ以外の女性と関係を持ち、それがきっかけとなりヴァンダは精神的に追い詰められ命さえ失いかけた。それでもアルドは長らくヴァンダと子ども(アンナとサンドロ)の元に戻ることはなかった。
そんな過去を持ちながらも共に暮らす2人。
ある時2人がバカンスから戻ると家の中が荒らされ飼い猫まで行方不明になっていた。
ショックのあまり呆然となる2人。
バカンスへ出かける直前に荷物を配達に来た若い女性をヴァンダは疑った。
(アルドがその女性に気を許し代金を多めに払ったことを苦々しく思っていた)
警察に通報したものの犯人はわからない。飼い猫がいなくなったのも発情のせいだとされてしまう。
しかし映画の終盤になって、部屋を荒らした思いもよらない人物が明らかになる。......
.......そんなストーリーだった。
過去と現在が交錯しながら話が進む。これは最後にどうなるのか。
もしかしてよくあるような、最後の最後に家族愛が復活してそれぞれがいかにも過去の苦しみから解放されたかような結末が待っているのだろうか。
そんな思いで観ていたら、なんという痛快な結末。
老いた両親の家の中を荒らすという行為(飼い猫も連れ去ってしまう)は非常識極りないし、あまりに酷い仕打ちではないか。
どんな親でもショックのあまり泣いてしまうのではないかと思う。
しかしその行為はわたしには痛快だった。痛快という言葉は適切ではないかもしれないが、それ以外の言葉が今のところ思いつかない。
靴ひもは何を意味するのか。
(アンナは靴ひもは家族を縛り付けるひもだと言う)
息子のサンドロが靴ひもが上手く結べないとアルドに言う。
アルドは靴ひもを結んでみせるが、やっぱりサンドロは上手く結べない。教えなかったか?とこともな気に言うアルド。
わたしも靴ひもの結び方を親から教えてもらった記憶がほとんどない。
教えてもらったような気もするし、見よう見まねで自ら覚えたような気もする。
何だか記憶が曖昧だが、サンドロのようにわたしも上手くは結べなかった。
靴ひもの結び方を教えなかったからといって親失格とは言えないだろう。
しかし子どもからすれば、それくらいはちゃんと教えて欲しかったという気持ちになる。
大人になったアンナとサンドロもそんな気持ちになったのではなかろうか。
親から教わったのは子どもを持つなということ、というようなアンナの台詞があった。
憎しみ合い崩壊寸前の夫婦関係を見せられて育ったアンナとサンドロが、どんなふうに成長しどんな大人になったのか。それも2人の会話からとなく想像ができる。
子どもの頃の家庭環境は、その後の人生に良くも悪くも影響を与えるものだと思う。
親元から独立しても親子関係は続く。たとえ親がこの世からいなくなっても、その関係は形を変えて続いていくような気がする。良くも悪くも。
アンナとサンドロはいつも両親の顔色をうかがい気を使いながら成長したのではなかろうか。そんな2人に反抗期が遅れてやって来たのだ。
息苦しかった過去なんてめちゃくちゃになってしまえばいい。
すべてぶっ壊れてしまえばいい。
そんな2人の叫びが聞こえてきそうだった。
親孝行とか家族愛だとか家族の絆といったものが踏みにじられるようなシーン。
後ろめたさは感じつつも、やっぱり痛快だ。
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