世界は「広かった」─『ペンギン・ハイウェイ』

毎日学んだことをノートに記録している勉強家の小学4年生アオヤマ君は、通っている歯医者のお姉さんと仲良し。お姉さんも、ちょっと生意気で大人びたアオヤマ君をかわいがっていた。ある日、彼らの暮らす街に突然ペンギンが現れる。海もないただの住宅地になぜペンギンが現れたのか。アオヤマ君は謎を解くべく研究を始めるが、そんな折、お姉さんが投げ捨てたコーラの缶がペンギンに変身するところを目撃する。

久しぶりに映画館に馳せ参じて映画を観たのである.
あわせて今話題の『カメラを止めるな!』も観たのだが,そちらは語られ尽くしていることだろうから,個人的には同じくらいに楽しめた『ペンギン・ハイウェイ』について書いてみる.


ちょっとのファンタジーと

スタジオコロリドの作品をちゃんと観たのは『台風のノルダ』以来だ.

文化祭前日、島に観測史上最大の台風が接近するなか、幼い頃から続けていた野球を辞めたことがきっかけで親友の西条とケンカした東は、突然現れた赤い目をした少女ノルダと出会う。

両作品ともに共通するのは,ファンタジー成分とリアリティのバランスなのだが(と言っても『台風のノルダ』は人外,『ペンギン・ハイウェイ』ではタイトル通りペンギンが現れるという荒唐無稽さはある),その舞台設定は子どもの頃,私たちが現実と非現実を曖昧に捉えていた時空間を巧みに切り取って設定されている.

『台風のノルダ』は大きな台風が訪れる学校が舞台であり,それはもちろん現実にもあり得ることなのだが,「台風によりいつもと同じことができない」ということは子どもの頃の私たちになんだかよくわからないワクワク感を与えていた.
つまるところ,「日常の中の非日常」と言おうか.そんな不思議な磁場のある時間空間が子どもの頃にはあった.それを舞台にすることでこの作品では,起こっていることは異常なのだけど,リアリティを感じてしまう.

一方,本作ではより親しみの深い「夏休み」が舞台となる.
それはもちろんのこと毎年のようにくるのだが,「長い休み」という,普段は学校に縛られる子どもたちにとっては,解放され「何かが起こるのではないか」という期待を抱かせる不思議な時空間になっているのではないだろうか.「夏休み」もまた「日常の中の非日常」と言えるのかもしれない.
「一夏の冒険」なんていうとありふれたキャッチフレーズだが,本作はたとえば『ジュブナイル』や『打ち上げ花火,下から見るか? 横から見るか?』のような名作にも引けを取らない,SFジュブナイル作品に仕上げられていた.


世界は謎に満ちている

起きていることはとんでもないことなのだけれど,子どもの頃の私たちにとってそれと同じくらい起きることあらゆることすべては謎に満ちていた.

人よりかなり好奇心と探究心の強い主人公のアオヤマ君は世の中のあらゆることにことについて「なぜ?」「なぜ?」を突きつける.
気になるお姉さん(のおっぱい)に心を揺り動かされてしまう自分を省みて,

おっぱいはどうして自分を引き付けるのだろうか?
お姉さんの顔はどうして遺伝レベルで僕の心をあったかくさせるのだろう?

と思っていた日々の矢先に突如街に現れたペンギン.
お姉さんにペンギンの調査を頼まれた僕は街のあらゆる場所を探索して,こんなことを思ったりする.

この川は世界の果てに続いているんじゃないだろうか?

まだ限られた世界しか持ち得ていない「少年」は,日常にあるそれらを通して「世界の謎」を見出す.

子どもの頃を思い出してみると,今から見てみればどうってこともない水路を辿ってみたり,近所の裏山にある廃墟に忍び込んでみたり,自分たちにしか見つけられなかった(と思われる)風景たちを発見してしまった時に,自分は「世界の謎」に触れてしまったんじゃないか,とドキドキしてしまう.

まあ,この作品では本当に「世界の謎」に触れてしまうのですが.
自分の足で歩いて見て得た情報をノートに書いてみたり,まとめてみたりして,何かが見えてしまった(と感じた時の)「エウレカ!」というアオヤマ君の気持ちはとても尊いもので,それを思い出させてくれるような尊い作品なのでした.

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