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都市を味わい尽くす─『MOMENT1:-able City』

MOMENTはあらゆる地域・分野を横断しながら、新しい都市のあり方を探索する人たちのためのトランスローカルマガジンです。

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シンク・アンド・ドゥ・タンク「Re:public」が新しくスタートしたローカルマガジン「MOMENT」を読んだので,軽く雑感を.

「トランスローカル」

MOMENTの目指すところは新しい「都市」のあり方を目指す,ことであるらしい.
創刊にあたって寄せられた文章によると,インターネットやウェブによって世界の距離が縮まった一方,新たなクローズドな「ムラ」が生まれてしまったことへの危惧が語られている.

かつては想像もできなかった量の情報が日々やりとりされる現代。世界各地の多くのものがクリックひとつで好きな場所に届き、決して交わることのなかったであろう人と人との出会いが生まれている。

自分の欲しい情報・サービスがいつでもどこでも提供される便利さと引き換えに、私たちが暮らすことになったのは、同じ意見をもつ人ばかりが集まるムラだった。この無数のムラ同士の見えない隔たりはいまも大きく深く広がり続けている。見慣れた風景が続く村を抜け出して別のどこかへ来たつもりが、どうやら心地よくも奇妙なこのムラから抜け出せなくなってしまったようだ。

いわゆるイーライ・パリサーが言うところの「フィルターバブル」のような状況を指すのだろう.

ちょっと前までの僕なら「本当にかぁ?」みたいな態度だったのだが,最近のTwitterを見ていると,同じ意見を持つ人が集まって大きな声となってしまったり,同調圧力的なものを感じるようになってきた.いよいよ「ムラ」化が世界を覆うようになってきた(日本の状況だけしか見てないが)ように感じて,ちょっと辛い.

そうした状況に対して,本書が唱えるのが「トランスローカル」と言う「実践」であり「考え方」だ.

必要なのはいまここにある技術や資源、文化を新たな見方で読み解き直すことで、このムラ=ローカルを超えたどこかに別のあり方を想像し具現化することだ。MOMENTではこの実践をTrans Local(トランスローカル)と名づけたい。

私たち自身やそれぞれの地域が持っている資源を見直し,そこからスタートすることは極めて誠実な態度であろう.


特集 : エイブルシティ|人類総ユーザー化社会で、私たちはどう生きるのか?

さて,そうした題目を掲げる本書が創刊号で特集するのが「エイブルシティ」.
インターネットなどのテクノロジーは新たな分断を生んだかもしれない.しかし一方で,それらの技術によって私たちができることは膨大に増えた.かつては受動的であった事柄ですら,私たちは主体的に変革をもたらすことができるかもしれない.

都市圏の人口増加やGAFAをはじめとするプラットフォーム企業の台頭が起こるなかで、都市の生態系は大きな変化を迫られています。ーこうした状況の中で、私たちは都市/まちでいかに生き、暮らし、働き、遊ぶのか?

創刊号の特集はエイブルシティ。バルセロナ、アムステルダム、奈良、熊本、各地をめぐって、「人の可能性をひらく都市」のあり方を考えます。いかにしてまちの風土や歴史、リソース、コミュニティを結びつけながら、市民が主体的に暮らしをつくりだしていくのか。一方で、懐古主義に陥らず、新しいテクノロジーとの関わりのなかでいかにしてまちの仕組みを更新し続けるのか。Walk-ableにLiv-able、Play-ableにHack-able……世界の都市が取り組むエイブルなまちのための実践を探ります。

確かにこの時代においてGAFAのようなプラットフォーマーの力は強大かもしれない.しかし,その一方でプラットフォーマーたちがもたらした技術は私たちに新たな「可能性をひらく」余地を与えている.そうしたことを認識し,プラットフォーマーたちが未だ手をつけられない,そして手の届かない「ローカル」な実践と接続することで,まったく新しい可能性が生まれるかもしれない.
本書ではそうした可能性が紹介されている.以下,気になった記事について.


インタビュー:バルセロナ都市生態学庁 ディレクター サルバドール・ルエダ
持続可能な都市への方程式

バルセロナという街は19世紀の都市計画家イルデフォンソ・セルダによる「セルダグリッド」と呼ばれる正方形の街区によって構成されるエリアが存在している.

現在,そのグリッドをハックし公園やイベントスペース,野外シネマなど新たな空間を生み出すグランドプラン「スーパーブロック」が進められている.本インタビューでは,「スーパーブロック」を進めるバルセロナ都市生態学庁の設立者の一人であるサルバドール・ルエダに話を聞いている.

このバルセロナ都市生態学庁の興味深い特徴のひとつは,その組織のあり方だ.2000年にバルセロナ市・県・都市圏域により設立された独立行政コンソーシアムである同組織の資金源は

バルセロナからの出資(15%)+世界中の都市からの要請によるプロジェクトの売り上げ

で賄われている.つまり,行政的な組織でありながらひとつの資金源に依存していないことから,通常の行政組織よりも柔軟,かつスピーディにあらゆるプロジェクトに取り組めるということだろう.
実際,そこで進められているプロジェクトや所属する人物にはユニークな人物が多い.日本人で言えば,建築出身でありながらモビリティやデータサイエンスの分野に取り組んだ吉村有司氏が興味深い.

こうしたプロジェクトに取り組むのはこの組織が都市を包括的に捉えているからだろう.
また,本インタビューで言及されている「リーガル・エンティティ」も興味深い.インタビューによれば,「リーガル・エンティティ」とはあらゆる法的な組織体を指す.こうした包含性のある概念を設定し,生態系として捉えることで,ある種の都市の多様さの評価をすることも可能になるし,理解もしやすい.
バルセロナではこうした「リーガル・エンティティ」の主体性を大切にしている.一方で多くの課題も存在している.そうした課題はあらゆる都市で考えるべきことだろう.

物理的な側面で言えば,「セルダグリッド」という巨大な正方形の街区が効いているのも興味深い.都市の物理的な構造を改めて認識して,そこからスタートすることはとても重要なことだ.
たとえば,名古屋の正方形のグリッドでは,かつて中央に「会所」と呼ばれるコモンスペースが存在しており,「区誌」などを読むと同じ街区に住む人びとにとっての拠り所となっていた.そうした歴史や物理的構造を念頭に置いてアップデートすることも考えられる.「ハッカブル」な都市のアップデートが想像できる.

都市は膨大な情報量を持ち,人間にとっては包み込んでくれる器ともなりうる.一方で,都市が牙を剥くこともあるかもしれない.
これまで人びとは都市に対して受動的だったが,これからの都市には主体的に関わることが必要だと,都市にまつわる思考のきっかけとなるインタビューだった.


 ファブシティと日本の都市がもつ可能性|田中浩也

「ファブシティ」は2014年にトマス・ディアスによって掲げられた構想で,オープンデータが生活基盤となる,自律分散型の都市の姿だ.
バルセロナでは「2054年までに「消費するあらゆるものを生産する都市」を目指す」との宣言が行われ,ファブシティは世界中で試みられている.ファブシティが持つ

「データと知識がグローバルに共有され,生産と消費がローカルに完結する」

という考え方には共感する.
また,本書で田中氏が引用している

「インターネットは私たちの生活を変えたが,私たちの都市やまちはまだ変わっていない」

はまさに.
この文字列から僕が思うのは,インターネットはこれまで「二次元」的な変革だったが,これからは「三次元」的な変革が起こるのだろうということ.僕の勝手な感覚では「ファブシティ」はデジタルファブリケーションが強く結びつくが,田中氏が述べる「あたたかいデジタル」はもっと広いものを扱うのだろう.
つまり,「ファブシティ」の扱う範囲はデジタルファブリケーションなどリアライズするものに限らない,もっと広い「3D」自体の価値が高まってくるのだろう.それはVRやARのようなxRでもいいし,

フォトグラメトリや点群のような3次元の表現なのかもしれない.

そうした「3次元」的な思考の萌芽を今見ているような気が個人的にはする.色々と想像が捗る.


都市は面白い

そのほかにも興味深い記事は色々あるのだが,改めて思うのはやっぱり「都市は面白い」ということ.
かつて卒業制作で,都市の面白さを考えてみたことがある.僕がその時に見ていた都市は都市計画家・石川栄耀が目指していたような清濁併せ持つ渾然とした都市だった.
そして,本書を読むと都市に入力できるパラメータは確実に増えていることが分かる.そうしたパラメータをインストールすることで,より都市を楽しむことができるのだろう.
その時,石川が言っていたような「都市味倒」がエンハンスされて現れる世の中になっていくのだろう.

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