『ビジュアル・シンカーの脳 「絵」で考える人々の世界』【読書記録】
引っ越しやら旅行準備やらでバタバタと過ごしている毎日です。
最近、お仕事で、長年ファンだった漫画家panpanyaさんにインタビューした記事が出たのですが、Xの反応を見る限り、色々な人に楽しく読んでもらっているようで安心しました。panpanyaさんのブログでも紹介してもらって感無量です。
『ビジュアル・シンカーの脳 「絵」で考える人々の世界』(テンプル・グランディン 著、 中尾 ゆかり 訳、NHK出版、2023年)
フィクションの作品などによく「写真のように細部まで過去の記憶を保持し続けている特殊能力を持った人」というキャラクターが出てくるが(現実にもそういう人はいるらしい)、本書のタイトルである「ビジュアルシンカー」はそうした特殊能力の話ではない。
本書では、人びとの思考タイプは「言語思考者」と「視覚思考者」に分けられ、それぞれから見えている世界が大いに異なることについて、実例を交えながら解説していく。
「言語思考者」は言葉通り、言語を伴って思考するタイプの人たちのことを指す。「言語思考タイプは一般的な概念を理解するのが得意で、時間の感覚に優れているが、方向感覚は必ずしもいいとは言えない。……メールをさっと書き、そつなくプレゼンをこなす。小さいときからよくしゃべる。」(21頁)という。一方で、視覚思考者は「画像で考える」。視覚思考者である著者は自身に見えている世界を下記のように説明する。
視覚思考者は「一般に地図や絵画、迷路が好きで、道案内がまったく不要なこともよくある。一度しか行ったことのない場所を簡単に見つける人もいる。頭の中のGPSが目印を記録しているのだ。」(21頁)という。
言語思考者にとって視覚思考者に見えている世界は、言葉で説明されてもなんだか分かるようで分からない。なぜなら言葉で考えるからだ。両者のタイプは分かり合う・分かり合えないという以前の話なのである。
本書では、そうした綻びが見える、あるあるな例として「営業 vs 現場」が挙げられている。
それぞれの立場から見て重要なことはあるのだが、そもそもの思考タイプが異なるため、相手の見えている世界を想像することが難しい。
IKEAの組み立て家具の説明書はイラストが多用されており、しばしば「分かりやすい」「分かりにくい」という風に評価が二分されることがある。
IKEAの創業者は、文字の読み書きに困難がある学習障害「ディスレクシア」だったことから、言葉より絵を優先したという。つまり、視覚思考者にとって分かりやすくつくられているのが、この説明書なのだ。それを言語思考者が手に取った時、先述したような評価の二分が生まれてしまうというわけだ。
ここまで、「言語思考者」「視覚思考者」という区分けで説明してきたが、視覚思考者には、さらに「物体視覚思考者」と「空間視覚思考者」という二つのグループがあるという。
「物体視覚思考者」は具体的で詳細なイメージで物事を考える。装置を組み立てたり、機械の詳細な仕組みを設計する人びとに多い。
「空間視覚思考者」はいくつかの者や数字の関係からパターン・法則を導き出すのが得意だという。
それぞれの特徴をまとめると、以下のようになる。
言語思考者
物事を言葉によって順序立てて理解する。
視覚思考者
物体視覚思考者
写真のように正確なイメージでまわりの世界を見る。
グラフィック・デザイナーや画家、建築家、発明家、機械工学士、設計士などに多い。
空間視覚思考者
パターンと抽象的な概念でまわりの世界を見る。
音楽や数学が得意。統計学者、科学者、電気技師、コンピュータープログラマーに多い。
世の中にはこうした思考タイプの違いが存在している。しかし、現代社会は言語思考者を中心に組み立てられているという。
例えば、学校のテストは言葉で回答し点数を評価するスタイルが一般的だが、それは言語思考者にとって高い点を取りやすい方式になっている。また、ビジネスにおいても口が達者で、プレゼンも上手くこなすタイプが出世することが多い。
しかしながら、言語思考者の方が優れているというのかというと、そういうわけではない。そもそも(現代で流通している)テストで高い点を取れたからと言って、社会で活躍できるわけではないということは、誰もが分かっていることだろう。また、私たちの生活を便利にするあらゆる機械の多くは物体視覚思考者の特徴を備えている人たちによって発明されているという。
宣伝文で挙げられているアインシュタインやイーロン・マスク、スピルバーグも視覚思考者だという。
現代の社会のひとつの課題は、こうした視覚思考者の得意な部分を発掘しにくい仕組みになっていることにある。先のテストもそうだし、企業における採用の仕組みも、基本的には言語思考者にとって有利な仕組みとなっている。こうした仕組みのままでは、本当は活躍できたはずの視覚思考者にスポットライトが当たる可能性が減ってしまう。
だからこそ、思考タイプにはこうした種類が存在しているということをまず知るということが重要になる。そうすることで、コラボレーションによって大きな価値をもたらせる可能性も上がる。
例えば著者は、種々の観察から、建築において、建築家は物体視覚思考者が多く、建築エンジニアは空間視覚思考者が多いのではないかと分析し、両者のコラボレーションによって大きく成功した例を紹介する。
世の中には思考タイプが異なる人たちが存在する。
他者との話し合いや協働を行うとき、まずはこのことを意識する必要がある。そうした思考タイプの違いを意識することで、各々が得意なことを掛け合わせることができるようになる。相手の見えている世界を想像しきるのは難しいが、「そういう思考タイプがあって、そういう風に世界が見えている」という事実を知っているのと知らないのとでは、大いに視点が変わるだろう。
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