「結婚=ハッピーエンド」じゃない 映画『お嬢さん乾杯!』(1949)ラストネタバレあり
お嬢さん乾杯!(1949年製作の映画)
製作国:日本 / 上映時間:90分
ジャンル:ドラマ
このお嬢さん、怖い。。。
『寝ても覚めても』の朝子のような
『本気のしるし』の浮世のようなキャラですね。
自分という怪物に襲われて怪物になっちゃった人のよう。
ただこのお嬢さんの恐ろしさは、自分というものの無さ。。
空っぽ。
それは上流家庭で箱入り娘として育てられた上に
婚約者が死んで
さらに家が没落したことにより
金持ちと結婚することが自分の役割とされてしまったことによる、空っぽさ。
自分なんてものがあったら邪魔だし
そもそも自分を持とうなんていう教育を受けてこなかった人。
ピアノもバレエもできるし
英語もフランス語もできる上品な特大美女だが
金持ちと結婚することでしか役に立てないと思わされている。
**
お嬢様女優、原節子を使ってこんな怪物を描くなんて、、
もう!木下惠介ったら!
「金と結婚」の話。。。
結構入り組んだ格差カップルの恋愛模様というよりかは、「金と結婚」の話。。。
全然ロマンチックじゃないですよね。。
超絶美男美女だし、
当時からしたらオシャレで上品な衣装や文化を次から次へと見せていくし、
なんとなくロマンチックな雰囲気ある風だけど、
前述のとおり原節子はだいぶサイコパスだし、、
淡々と「金と結婚」の話を第三者みたいな空気で喋るのが面白い。
結婚話が進んでいくのに周りのテンションがどんどん下がっていく。
結婚が決まった時の祖母と母の会話が面白い。
祖母「あの子は不幸せな子ですよ」
母「これからは幸せになりますわ」
祖母「そうでしょうか…」
恋愛映画なのに
「結婚=ハッピーエンド」じゃないことを示唆しちゃってる。
もう!木下惠介ったら!
そして、すごいラスト。
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』を思い出しました。。。
ラストネタバレは以下に。
※『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』のラストにも触れますので、ご注意を。
ネタバレ
1949年。
戦後の焼け野原から復興した東京の街並みが眩しい。
自動車工場に勤める34歳の男やもめと
金持ちの家の26歳の美しいお嬢さん。
上流家庭だったが
戦後に父が騙されて詐欺に加担させられ逮捕されてしまう。
そこから家は没落。
自動車もピアノも売り、もう売れるものは何もない。
よく見ると家具もボロくなっている。
家も抵当に入っている。
お嬢さんには婚約者もいたが破談に。
そこで、商売が上手くいってる圭三にお嬢さんとの見合い話が生まれ、
圭三は美しく上品なお嬢さんの惹かれる。
圭三はお嬢さんの誕生日にピアノをプレゼントをする。
圭三は良いところ見せようしたのだが
お嬢さんとその家族は微妙な表情。
人に恵んでもらったことなどない一家は
そのピアノを見て
自分たちが没落したことを改めて思い知らされてしまう。
**
父「金のために結婚するなんてことはあってはならない。お前は本当にその人に愛情が持てるのか」
お嬢さん「私一人ならお金がなくても、働いてもいいですし、でも、祖母や母に貧乏をさせるわけには……」
圭三「世の中金だ!金がなければ何もできない。」
**
圭三「あなたは僕を愛していない!こんな結婚じゃあなたが不幸になる」
お嬢さん「あなたのようにお金があって親切な人と結婚できる私が不幸なわけありません。世の中お金だって言ったのはあなたです」
**
お嬢さんは元の婚約者が死んだことで自分の中に愛情(感情)が消えてしまったことを
圭三に告白する。
お嬢さん「私がお金に執着してしまうのは、家のせいであって私の心とは全く関係ないことでございます」
圭三「僕はあなたに愛されたいんだ!」
話が噛み合わないまま、圭三はお嬢さんを家まで送る。
映画のプロマイドのような形式ばった笑顔で振り向くお嬢さん。
意を決して圭三に近寄り、キスするかと思いきや、圭三の手袋にキスして、家の中に走り込み、大胆に転ぶ。
**
お嬢さん、刑務所の父に報告。
「結婚することにしました。あの方と結婚すれば家の抵当も片付きますし、私もあの方を好きになってきました。」
どういう流れかわかんないけど二人は結婚することに。
祖母「あの子は不幸せな子ですよ」
母「これからは幸せになりますわ」
祖母「そうでしょうか…」
圭三「泰子さん(お嬢さん)はそんなに寂しそうですか…」
祖母「昔は良かったですね。私は涙が出ますよ」
圭三は打ちひしがれて退室。
「もうダメだ…」
圭三は帰宅。
吾郎に自分の車をプレゼント。
圭三は吾郎の結婚を反対していたが、急に応援することにする。
吾郎「わ〜い!」
二人は抱き合う。
圭三「幸せになるんだぞ!」
**
圭三はお嬢さんに手紙を送る。
借金は肩代わりにする。
でも結婚はナシにする旨が書かれてる。
お嬢さんは圭三との思い出をフラッシュバックし、涙する。
**
圭三は10日ほど田舎(高知)に帰ることを決める。
用意していた婚約指輪を見つめて、なぜか舌舐めずり。。
圭三、駅へ向かう。
お嬢さん、圭三を探しに圭三の行きつけの飲み屋を訪れる。
しかし圭三はいない。
女将「圭三さんはあんたに振られて田舎に帰るって!」
お嬢さん「わたくし、あの方を愛していますわ」
女将「愛してますわなんてお上品な言葉じゃ惚れてることは伝わらないよ」
お嬢さん「惚れてます」
お嬢さん、吾郎の車に乗って圭三のいる駅へ向かう。
車が大通りを走る後ろ姿。
おわり
**
これが『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』だったならば
ここで
編集部のシーンに変わって
編集長「え?2人は再会してキスして終わりじゃないの?」
っつって
著者「は?要ります?そんなシーン。」
編集長「いるだろ、観客はそれを望んでるんだよ。美男美女が立ちはだかる壁を乗り越えて最終的に結ばれる。観客はそうなることを知っててもそれが観たいんだよ」
著者「そのラストにするなら私の条件を飲んでください」
編集長「わかったよ。君の条件を飲もう!」
で、さっきのシーンに戻る。
お嬢さん、駅に到着。
今まさに列車に乗り込もうとする圭三がお嬢さんに気づく。
しかし、圭三はそのまま乗り込む。
え、どゆこと?とパニックになるお嬢さん。
列車はゆっくり走り出す。
圭三の横顔。
まっすぐ前を見てお嬢さんの方を見ない。
お嬢さん、ハイヒールを脱ぎ、裸足で列車を追う。
窓を叩きながら
「あなたに惚れてます!」と叫ぶ。
圭三、ハッとして席を立ち、扉をこじ開け、ホームに飛び降りる。
抱き合う2人。
キス。
おわり
編集部のシーン。
著者「これでいいですか?」
編集長「もちろんだ」
著者「条件、聞いてもらいますからね」
編集長「まったくしたたかなヤツだ!ハハハ!」
おわり
**
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』だったら
「男女が出会って結ばれました!あー良かったね!ってラスト、もうよくね?」
っていうのを
こんなにもわかりやすく表現してたけど、
『お嬢さん乾杯!』では
サッと終わっちゃうことでのみ表現したわけね。
ま、たぶん全然意図は伝わらなかっただろうけど、
な〜んとなく観客はモヤッとしつつも
男女がキスして終わるという閉じられたラストではない
開かれたラストに、自由さを感じたかも知れないですね。