赤と紺
中学生のとき、家庭科の実習でパジャマをつくる授業がありました。
私は料理は好きですが、裁縫や手芸全般が苦手で、編み棒や裁縫箱を見ただけで「こんなものこうしてやるっ!」とたたきつけたい衝動に駆られる子どもだったので、その授業もまったくやる気がなく「今どきパジャマを手作りするやつがいるもんか」と思いながら作業していました。
隣のサトちゃんはまじめに取り組んでいて、見ると紺の生地に赤色のバイヤステープを合わせているところでした。
サトちゃんとは小学校からのつきあいで、絵の上手な子で一緒に絵本をつくったこともあったので、そのことを思い出して話しかけました。
「サトちゃんて、赤と紺の組み合わせが好きだよね」
するとサトちゃんはパッと顔を輝かせ、
「そうそう、そうなんだよ!」
と言いました。
ただ、それだけの話です。
サトちゃんはその後美術系の高校に進学し、中学卒業後は会うこともなく、今はもう私と同じようにいい歳の女性になっていて、子どもなんかもいるかもしれませんが、今でも赤と紺の組み合わせを見るたびに、彼女を思い出します。そしてなかなか都会的であたたかみのある、いい配色だと思います。
生きているなかで、年齢や性別、学歴や年収、結婚しているかいないか、子どもはいるかいないか、どこに住んでいるか、といったことはあれこれ訊かれても、好きな色というのはそうそう訊かれません。もし私がぽっくり死んでしまい、葬儀社の人が気を利かせて「故人のお好きな色で…」と言ってくれたとしても、たぶん家族はわからないと思います。
まして好きな配色など、まず気づいてもらえません。
あの時のサトちゃんのうれしそうな顔を思うと、あまりにささやかではありますが、私の言葉はちょっとしたギフトだったのかもしれません。