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職業としての図書館員(5)Q&A

Q1.図書館で働くにはどうすればいいですか?

A.雇用形態別図書館員いろいろの項でもご紹介しましたが、働きかたによって異なります。スタンダードに自治体の採用試験を受けるなら、HPや広報誌に情報が出ると思います。また日本図書館協会の求人情報を見る人も多いです。ただ、こうした公に出ている求人は、たとえ薄給の非正規であっても高倍率を覚悟しなければなりません。直接雇用でない派遣などの求人は、別途民間企業の求人ページを見ることになりますが、そうした情報をまとめたサイトもいろいろあります。また普通にハローワークで求人を出しているところもあります。
公に求人を出さない図書館もけっこうあります。小規模なところでは通常業務だけで手いっぱいなので、大量の応募が来ても対応できないのが理由です。なので、「知り合いに司書の資格持ってる人いない?」といういたってアナログな求人方法を取っていたりします。私の知人には「お百度参り」みたいにして担当者に履歴書を預かってもらうことに成功し、欠員が出たときに声をかけられた人もいます(状況によっては迷惑かもしれないのでおすすめかどうかわかりませんが)。
大学図書館で司書課程のあるところなら、卒業を控えた学生に声がかかることもあります。在学中に図書館でアルバイトしていて卒業後も引き続き働くケースもあるでしょう。

Q2.司書の資格は必要ですか?

A.求人には司書資格要件がついていることがあるので、資格があれば選択肢は広がります。ただし報酬面の見返りはあまり期待できません。資格手当がまったくないか、あっても雀の涙、ということが多いからです。私の職場でも資格の有無で賃金に差は出ません。
そんな状況なので、そもそも司書資格の存在意義を疑問視する人もいます。実際資格がなくても優秀な図書館員はいるので一概には言えませんが、私は司書資格によって守られている価値はあると考えています。データベースや目録システムは年々変化するので、資格取得時に習った知識など現場では使いものにならないことも多いのですが、そうではない理念的な部分で、資格取得時に継承したことを資格のないスタッフにも伝えていけるからです。「図書館員の倫理綱領」や「図書館の自由に関する宣言」などは普段の仕事では関係ないかもしれませんが、想定外の事態が起こった時に判断するよりどころにはなるのです。
現実問題としては、対外的に数字を出すときに司書有資格者率が高いほうが体裁が良い、ということもあるとは思います。

Q3.図書館の人はどうしてエプロンをしているの?

A.実際にあった質問です。別に法律で義務付けられているわけではないですが…。私の職場でもしている人としていない人がいます。単純に糊や埃で汚れるのと、ポケットが多くて便利、という理由もありますが、身分証を下げているだけだと他部署の職員と区別がつかないので、利用者に対して図書館員であることをアピールする意味もあります。ちなみに「エプロン否定派」で「そんなことだから司書が低く見られるんだ!ちゃんとスーツを着るべきだ!」という人もいます。これは図書館員をどういうイメージで捉えるかによるので、キャリア官僚とかコンシェルジュ的なものを目指す人なのでしょう。私は職人的な立ち位置でいたいと思うので、エプロンをしています。

Q4.職業としての図書館員に必要な要素とは?

A.家族の理解と、(できれば)経済的支援ではないかと思います。
「専門的スキルとかじゃないのかよ!」と突っこまれそうな気がしますが、前述のとおり専門的スキルがあっても賃金面では報われません(だからといってスキルを磨かなくてよいという意味ではありませんが)。私が今のところ困窮していないのはただ運が良かっただけであり、駅でホームレスを見かけるたびに他人事ではないと思っています。図書館員を志したばかりに困窮してしまっては大変なので、低賃金や雇止めに耐えられる財政基盤は必要です。男女を問わず定収入のあるパートナーを持って共稼ぎ前提でパートナーの仕事をサポートする、実家で親と同居する、といったことですね。もちろん家族の援助が期待できない場合もあると思うので、別の仕事である程度資産を作ってから図書館に転職するとか、副業で稼ぐという手もあります(ダブルワークしている人もいます)。
「そんな家族に依存するなんて、離婚したり、親が倒れたらどうなる?」という指摘もあるかと思いますが、正社員で就職してもリストラされたりうつで働けなくなるリスクもありますし、一生夫婦円満であったり両親が高齢になるまでそこそこ健康で介護期間も長期に渡らず亡くなる確率も考えれば、そこまで不合理な選択とは言えないと思います。非正規であってもフルタイム・社会保険加入で長期に働きつづければ、家族にもそれなりの経済的メリットを提供できます。まあ家族からは物好きにしか見えないでしょうから、「自分にとって図書館で働くことがどれほど大切か」「図書館が社会にとってどんな意義があるか」をプレゼンして理解を広めるのも仕事のうちです。

Q5.図書館員に向いているのはどんな人?

A.これもいろんな人がいるので一概には言えませんが…。
私の職場でもそれぞれ得意分野があり、システムに強い人、語学が堪能な人、手先が器用で修理製本やものづくりがうまい人、コミュニケーション能力の高い人、とさまざまです。ただ昔の図書館のイメージで、「人嫌いな本の虫」的な人はあまりいないような気がします。私も対人能力が高いほうではないのでえらそうなことは言えませんが、窓口業務ではクレーム対応も必須ですし、営業マンタイプである必要はないですが、「人に喜んでもらいたい」「人の役に立てれば嬉しい」くらいの通常のホスピタリティがないと仕事になりません。
あとは「範囲を限定しない好奇心」のようなものでしょうか。図書館は「自分の専門分野じゃないから関係ない」というのが許されない世界でして、私も毎日が「世の中にはこんなに私の知らないことがあるのか!」ということの連続で、わからないことを調べるのに追われています。
なんにしても傍から見るよりハードな仕事ではあるようで、以前高齢の男性が求人に応募してきたのですが、詳しい業務内容を説明すると「そんな大変な仕事だと思わなかった」と直前になって断ってきたことがありました。「定年後の暇つぶし&ボケ防止」くらいに考えていたらとんでもなかった、という感じでしょうか。図書館によっては面接時に体力に自信はあるか聞くところもあります。お小遣い稼ぎとしたらほかにもっと効率のいいバイトがあるでしょうし、やはり好きでないとやっていられない職業ではあるようです。


※今回で「職業としての図書館員」シリーズはいったん完結です。また機会があれば書きたいと思います。おつきあいくださった皆様、本当にありがとうございます。来週からは通常のテーマに戻りますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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