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図書館のお仕事紹介(13)修理製本

昔から書籍修理には興味があり、製本教室に通ってみたことがあるのですが、そこでわかったのは「自分は不器用過ぎて製本家になれない」ということでした。
専門知識以前に「定規にカッターをあててまっすぐ切る」「紙に糊を塗って貼り付ける」といった工作の基本がまともにできないのですね。もともとモノはつくるより壊すほうが得意で、家電なども触っただけで壊すので「手から破壊のビームが出ている」疑惑もあり、家人からデストロイヤーと呼ばれる私です。図書館で必要に迫られたときに簡単な修理はしますが、今回の内容はもっぱら手先が器用で実質的に修理担当となっている同僚からの受け売りです。

図書館で修理するのはどんなときか

そもそも「業者に頼む」という選択もあります。
総革装の十七世紀刊本、みたいな貴重書は、司書といえども素人の手に負えないので専門の修復家に依頼します。
数が多いとまとめて製本会社に出すこともあります。ただこの場合は一括でよくあるクロース装の同じ装幀になってしまうので、もとの表紙を生かすことができなくなります。
また破損がひどい場合、コストをかけて修理するより同じ本を新しく買い替えたり、あきらめて除籍する判断になることもあります。

図書館で修理するのは、ある程度簡単に修理可能だとか、絶版などで買い替えることが難しく、かつ図書館としては所蔵しておきたい本、オリジナルの装幀を生かしたい場合などです。

よくある症状と治療法

ページの破れ

これは簡単な部類で、和紙と糊を使って破れた箇所を貼り合わせます。図書館用品ではページ修復用の糊つき和紙もあって便利です。

ページがとれている

糸で綴じないペーパーバック版でよくありますが、ページが1枚ポロっとはずれてしまうことがあります。時間がないときは簡単にボンドでちょんちょんと貼ったり、前出の糊つき和紙で貼りこんだりしますが、接合部分に厚みが出てきれいに仕上がらないようです。
何ページもとれているような場合は、ホットメルトシートというアイロンを使って背を固められる接着剤があるので、もともとの接着剤をはがして背を固めなおすこともあります。

背が壊れている

本は背に指をひっかけて棚から出すとどうしても背表紙が壊れやすいです。
もともとの背表紙を慎重にはがして裏打ちし、本と背のあいだにクータという筒状の紙を入れて貼り直す、というめんどうな作業になります。

完全に崩壊

表紙がはずれて本文と完全に分離、綴じてある糸も切れてバラバラになる寸前、みたいな場合は「全部ばらして糸で綴じ直し、見返しを新しくして表紙を付け直す」という大手術になります。
修理だけをやっているならいいですが、通常業務と並行してだとなかなかここまでのことはできないですね…。

予防が大切

図書館製本

そもそも最初から壊れにくい本を買う、という手があります。
新着本を見ていると「どうしてもっと丈夫に作ってくれないんだ!」と叫びたくなることがありますが、版元は図書館だけを相手に商売しているわけではないので仕方ないですね…。やはり糸で綴じていなくていいかげんな接着剤で固めているだけで一度読んだだけで壊れてしまったり、紙も粗悪ですぐに変色したり、というものもあります。
そのため「図書館製本」といって、カバーが無くても汚れにくい素材の表紙で、接合部分も頑丈にできている本があります。図書館向けの児童書などに多いです。

鎧を着せる

いかにも壊れそうな本は、先手を打って最初から保存容器に入れて書架に出すこともあります。専用の素材で箱やファイル、ブックカバーを作って鎧にするわけです。

保存環境

本の大敵はカビ・害虫・紫外線・埃・火などですが、なかでもカビとの闘いは多くの図書館で重要課題です。
書庫に除湿機を入れて湿度管理する、定期的に見回って早期発見に努める、出入口にマットを敷いて靴を消毒、などの地味な対策しかないですが、そもそもカビが多発する図書館は建物の設計上問題があることも多く「せめて出入口が二重扉だとか、書架が外壁に接しない構造だったら…」と思うこともありますが、一介の図書館員にはどうにもならないです。

紙の本は意外としぶといです

以前「全焼した図書館から掘り出された本」の画像を見せてもらったことがあります。
むろん真っ黒焦げなのですが、表紙・裏表紙・背・小口がぐるっと焦げているだけで、開いた画像ではなかのページは無事で、読める状態でした。火が燃えるには酸素が必要なため、閉じている本の内部までは燃えなかったようです。貴重な本なので、ページをばらして焦げた部分を裁ち落とし、洗浄して綴じ直す修復作業が行われるということでした。
歴史上では権力者が気に入らない本を燃やす焚書というのもありましたが、あれは見せしめ的な効果であって、ある本を現実に一冊残らずまったく読めない状態まで燃やし尽くす、というのはなかなか難しそうです。
図書館では紙が酸化してミイラの包帯みたいになり、蔵書点検のたびにパラパラ粉が落ちて肝を冷やす本もありますが、それだって書かれた文字を読むことは可能です。
津波で水没した貴重資料を、図書館員が必至の努力で再生させた事例もあります。
まして上質な素材で無事に保管されていたら、数百年前の本でも昨日印刷されたような顔をしていたりします。
デジタルの情報は消失したら絶対に読めません。

破れても貼り直され、バラバラになっても綴じ直され、水に落ちても乾かして復活し、炎の中から不死鳥のごとくよみがえる紙の本。

書物を愛し、記録を遺そうという人間の意志がある限りのことですが。


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