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長期経営計画のすすめ Ⅳ.長期経営計画の策定 14.事業戦略をつくる


1. ケーススタディ

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明智「本日の会議のアジェンダは事業戦略づくりです。これまで長期経営計画では企業戦略をつくってきました。それを元にここからは事業戦略をつくることになるのですね。」
前山「はい、まずは改めて全体像を確認しておきましょう。」

経営戦略全体像

経営戦略の中に企業戦略、事業戦略、機能戦略があります。そして企業戦略と機能戦略は長期経営計画として5〜10年の間で策定し、事業戦略は中期経営計画として3年間で策定することをお勧めしています。ここまで企業戦略と機能戦略をつくってきましたので、ここから事業戦略をつくることになります。」
専務「これまで検討してきた業績や組織人事、ITに関するテーマが機能戦略だと思いますが、全体像を確認すると事業戦略より先につくったということになりますか?」
前山「全体像としては事業戦略から機能戦略に矢印が向いているのですが、私の経験から企業戦略と機能戦略の関係性は強く重要なため、事業戦略をつくった後に機能戦略をつくるよりも、仮説的に先につくっておく必要があると考えています。しかしながら、事業戦略と機能戦略の繋がりも重要であるため、先につくった機能戦略を意識しながら事業戦略をつくっていく方法をお勧めしています。」
社長「企業戦略と事業戦略の擦り合わせも必要なのかな?」
前山「いえ、ここはトップダウンで落として各事業側に理解・納得いただき、企業戦略に沿って事業戦略をつくってもらう方法が良いと思います。」
社長「確かに、その通りだね。長期経営計画はビジョンに沿って事業ポートフォリオを転換することだから、ここの軸となる企業戦略は落とすべきだね。」
明智「事業戦略として検討すべきテーマは提示すべきですか?」
前山「はい、こちらが事業計画として統一して検討すべきテーマ一覧です。」

事業戦略テーマ一覧

専務「現在、わが社の既存事業は一つで、来期から新たな事業部長を任命する計画です。事業損益計画のすり合わせにおいて、新たな事業部長には先に企業戦略としてつくった損益計画案を提示するべきですか?もしくはまずは自発的に検討させる方がいいですか?」
前山「今回の3ヵ年の事業損益計画は2030年に向けた長期経営計画達成に向けた前半の3ヵ年にあたります。よって昨年対比やこれまでの成長率など過去の推移を意識するよりも、目指す姿を強く意識することになりますので、企業戦略として策定した損益計画案を提示して、それに沿って検討してもらう方法が適切だと考えます。」

(この後も活発な議論が行われ、既存事業は新たな事業部長を社長がサポートしながら事業戦略を策定し、2つの新規事業は専務中心に事業戦略を策定した。)



2. 事業戦略のポイント

事業戦略をつくるの一つ目のポイントは、これから事業戦略を策定していく事業部長や責任者へ企業戦略を丁寧に説明し、理解・納得してもらうことです。

社員や関係者と一緒に実現したい未来は何なのか?(1. 長期ビジョンを決める)、その未来を実現する上で対象とする市場はどこなのか?(2. 企業ドメインを決める)、その市場においてどのような事業を展開するのか?(3. 事業ポートフォリオを決める)、それらの事業を展開していく方法とは?(4. 成長戦略を構想する)という企業戦略の根幹となる部分を、事業責任者の方々が自ら語れるようになるまで伝えることが重要です。

事業責任者は当然、自らの事業拡大、業績計画の達成を目指します。事業運営していると、企業戦略から少し外れても、より事業拡大、計画達成につながる方法を選択する騒動に駆られます。その時に「いや、この選択は企業戦略に沿っていないので辞める。」という意思決定ができるように、企業戦略を理解・納得してもらう必要があります。

また企業戦略に沿って既存事業の現在の戦略を大きく転換することや、時には事業を縮小する事業計画が事業責任者に求められることもあるでしょう。事業責任者にとって、とても辛い取り組みになります。その時には経営者は事業責任者と多くの時間をかけて意見交換し、寄り添いながら事業計画作りを支援することが必要になります。


事業戦略をつくるの二つ目のポイントは、統一したテーマと順番で事業戦略をつくることです。私のこれまでの経験から重要なテーマの一覧を前述のケーススタディにてご紹介しました。一般的な事業計画のテーマとして挙げられる内容と大きく変わらないと思います。このテーマ一覧に業種特性や各企業において重要だと考えるテーマを追加してください。

テーマを統一し、その順番で検討することで、経営者や事業責任者の戦略を組み立てる、思考する流れが共通化されていきます。事業戦略は毎年ローリングしていきますので、その都度、共通化された内容がアップデートされていき、自社のナレッジとして蓄積されていきます。

このような事業戦略をつくらなくても事業が成長し、業績計画を大きく上回る成果が出ることはあります。良い時ほど、経営者は「来期もよろしく」と事業責任者に事業運営を一任し、「よく頑張った」と評価しがちです。そうなると、一転、成長が鈍化し、業績が低迷したときに、その原因がわからなくなり、事業の立て直しに大きな時間と労力を要することになります。また事業戦略策定が事業責任者任せで属人的になると、新たな事業責任者が育たない企業文化になってしまいます。

計画どおり成長できた事業はどのような事業戦略を立てたのか?計画どおり進まない事業の事業戦略は何が誤っていたのか?について振り返りができるように、統一したテーマと順番で事業戦略をつくります。毎年毎年のローリングで事業戦略策定の勘所が経営陣の中で共有され、事業戦略が成功する確率が高まってきます。またこれまでの事業戦略の蓄積が新たな事業責任者を育成する活きた教材になります。


事業戦略をつくる三つ目のポイントは、事業戦略は3年間で作り込むことです。企業戦略は5〜10年間で策定します。企業戦略は実現したい未来に向かって事業ポートフォリオを再構築することであり、多くの場合、3年間で成し遂げることは難しいです。しかしながら、長期的な企業戦略の実現に向かって、それぞれの事業を毎年毎年変化させていく必要があります。よって企業戦略としてのあるべき姿を睨みながら事業戦略を描き、3年間の計画を立て行動していきます。

事業損益計画については、企業戦略の中で事業別の業績計画案は先に立てています。Ⅳ 企業戦略_一次長期計画 7. 長期業績計画をつくる
その業績計画案を事業責任者に提示します。事業責任者はサービスポートフォリオや顧客構成を設計しながら、提示された業績計画案を実現する成長戦略を描けるかどうか熟考した上で、提示された業績計画案を更新し、経営陣と擦り合わせて業績計画を確定させていくことになります。

業種により大小はありますが、事業業績計画と事業要員計画の連携は重要です。自信のある成長戦略を描けても、それを実行する人材が確保できなければ実現が困難になります。企業戦略で策定した「9. 要員計画をつくる」「10.人材確保・育成計画をつくる」に沿って、人材確保を管理部門に任せることなく、事業戦略達成に必要な人物要件、人数と、それを確保する方法を計画していきましょう。

人材の確保には社員年収の向上は必須であり、そのためには付加価値の向上や業務効率化に取り組む必要があります。その手段としてITを積極的に活用していく事業IT計画を立てましょう。企業戦略で策定した「12.IT計画をつくる」に沿って、付加価値を上げる攻めIT計画、効率化のための守りのIT計画を事業戦略として策定していきましょう。


今回は以上となります。次回は「Ⅳ 長期計画の策定 15. ロードマップにまとめる 」について書くつもりです。


【目次(案)】
Ⅰ 方針
1. 目的を決める
2. 期間・更新を決める
3. アウトラインを決める
4. スケジュールを決める
5. 体制を決める 
Column 事例を調査する

Ⅱ 企業戦略の現状分析
1. MVVを振り返る 
2. 事業構成を分析する
3. コア能力を再認識する
4. メガトレンドを調査する
5. 成長市場を調査する
6. 企業会計を分析する
7. 人的資本を分析する
8. 現状分析のまとめ
Column 長期経営計画は企業戦略でつくる

Ⅲ 事業戦略の現状分析
1. 事業業績を分析する
2. 内部環境を分析する
3. 外部環境を分析する
4. 現状分析のまとめ
Column 経営計画の先行研究

Ⅳ 長期経営計画の策定
1. 長期ビジョンを決める
2. 企業ドメインを決める
3. 事業ポートフォリオを決める
4. 成長戦略を構想する
5. 新規事業戦略を決める
6. M&A戦略を決める
7. 業績計画をつくる
8. 投資計画をつくる
9. 要員計画をつくる
10.人材確保・育成計画をつくる
11.組織計画をつくる
12.IT計画をつくる
13.リスク管理計画をつくる   ←今回
14.事業戦略をつくる      ←次回

15. ロードマップにまとめる
16. モニタリング計画をつくる
17. コミュニケーション計画をつくる
18. 長期経営計画のまとめ
Column 社員がワクワクする長期経営計画

最後に私の著書を紹介させてください。(Kindle Unlimited の対象です。)

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