「もともとコンプレックスの塊だった」カウンセラー・福崎達也さんに聞く、「自分を変える方法」
「自分を変えて、もっと人生を楽しみたい」
そう願いながらも、長年染みついた考え方や行動を変えるのは難しいものです。
今回インタビューしたのは、殻を破って主体的に生きたい人のためのコミュニティ「WaReKaRaゼミ」を運営し、生きづらさを抱える方のサポートをされている福崎達也さん。
彼は、中学生からの約10年間、自分の視線に罪悪感を覚える“脇見恐怖症”に悩まされてきたといいます。
長年の症状を克服し、自分らしく生きる福崎さんに「自分を変える方法」や、WaReKaRaゼミの活動で意識していることなどをお聞きしました。
人のターニングポイントになりたい。脇見恐怖の葛藤を越えて独立
福崎さん:
学生時代から、視線恐怖症の一種である“脇見恐怖症”の症状に悩んできたことがきっかけです。
視線恐怖症では一般的に「人から見られるのが怖い」という悩みを持つ方が多いですが、脇見恐怖症の場合は「自分が人を見る」もしくは「視界に人が入ってくる」状況に不安を感じたり、罪悪感を覚えたりします。
たとえば、電車に乗ると向かい側の席の人が視界に入ってきますよね。その人が少しでもイライラしていると「自分の視線が伝わってイライラしているのではないか」と、加害者意識を持ってしまうんです。
当時は「自分の視線で相手に迷惑や圧迫感を与えていないか」とつねに考えて、生きづらさを抱えていました。
特に、浪人して予備校に通っていた1年間は、人生のどん底のようなしんどさでした。脇見恐怖症は、近くに人がたくさんいるなかで授業を受けるのがすごく辛いんですよね。
福崎さん:
大学に行くためには勉強しないといけないという葛藤のなかで、心理学や哲学、人との出会いに救われ、少しずつ自分の考え方が変化していったんです。
予備校で出会った哲学の先生が、悩みとの向き合い方や生き方を教えてくれたこともあり、人のターニングポイントになれる人になりたいと思うようになりました。
福崎さん:
一方で、就活ではカウンセリングや心の健康に関わることをしたいと思いながらも、症状があまり出ずに働ける販売の会社を選びました。自分と向き合うのが怖かったんです。
でも、しばらく働くうちに「自分の人生を生きていないな」という感覚を覚えたことで、コーチングを受けるようになりました。そこで、やはり人の支援をする仕事が自分の理想だと気づき、カウンセラーとして独立しようと決めました。
人生の目的は悩みの解決ではなく、その先にどう生きたいか描くこと
福崎さん:
自分と向き合うのって、すごく大変でしんどいことだと僕は思うんですよね。だからこそ、その先にどうなりたいのかを描くのが大事だと思っています。
僕自身、「悩みを何とかしないと」と思って行動して、余計にその悩みを強く考えてしまったことがありました。そこで、悩みを抱えながらも目標や理想を思い描き、どう行動していくかというアプローチにしてみたんです。
たとえば、僕の場合は留学やホームステイをしたり、海外ボランティアの団体に所属してみたりしました。
そうしたらもう…英語を話したり生活したりするだけで必死で! 悩みに囚われている時間が少なくなったんです。「自分が心から望むことをやっていたら、悩みがあっても生活できるんだ」と自信がつきました。
自分の人生って、悩みを解決することだけが目的じゃない。その先に、絶対にしたいことがあるはずなんです。悩みを越えた先の未来を思い描くと、新しい選択肢に気づけるようになります。
福崎さん:
自己否定をしてしまう人は、まずは一度自己受容していくのが大事ですね。
心理学に、自分を友だちのように扱う“セルフコンパッション”という考え方があります。
自分が悩んでいることと同じような悩みを持っている友だちがいると仮定して、どう声をかけるか、どう接してあげるかを考え、そこで出てきた言葉を自分自身にかけてあげる方法です。
人は、自分以外の人にだったら優しくできる、ということがあるんですよね。
福崎さん:
「理想」って何だか高いところにあるように思ってしまうから、まずは理想を細分化することから始めるといいと思います。
海外に行ってみたいという理想があるけれど、現実的には人混みや電車が怖いなら、まずは家でイメージする、駅のホームに行くなど、「できるかも」と思えるように小さく考えてみる。理想を少し下げることで一歩を踏み出しやすくなると思います。
変わるには「悩みにくい環境で解釈を柔軟にする」
福崎さん:
人は、環境によって変わるところがすごくあると思っていて。
たとえば、アメリカで育つと自己主張ができるけれど、日本だと控えめになりやすくなるように。悩みやすい環境にいると悩みやすくなるので、まずは環境をつくることが大事です。
より近い距離感でいられる場所で、同じように悩んでいる人や共感しあえそうな人たちがいると安心感があるし、人の姿を見て「自分も変われるかもしれない」と希望を見出せると思うんですよね。
僕自身も脇見恐怖症の人たちの集まりやオフ会で自信を持てるようになったので、そういう居場所があったらいいなとコミュニティをつくりました。
福崎さん:
本当にそう思います。僕も自分1人で何とかしようとしていたときがあったのですが、どこに悩んでいるのかを自分では客観的に見られないことに気づいたんです。
脇見恐怖症は、大体が自分が迷惑をかけているという思い込みからくるものです。その思い込みに対して、第三者からのフィードバックや会話を通して、「迷惑をかけていない」と実感することで、自分に対する解釈は変わっていきます。
思い込みは1人で悶々と悩んでいるだけでは気がつけないので、第三者の視点や支援が必要です。他者と一緒にワークに取り組むことで、人によって捉え方が違うことを知り、解釈が柔軟になっていけるんですよね。
福崎さん:
たとえば、心理学に“ABC理論”という考え方があります。なにかできごとがあったとき、人は「悲しい」や「嬉しい」といった感情をもちますが、そこには必ず解釈があります。
自分が駄目だと自己否定すると辛くなってしまうけれど、成長のきっかけになるならがんばろうと思えますよね。
感情の前段階の解釈をまず柔軟にして、物事を柔軟な視点で見ていくのがとても大切なんです。具体的な方法としては、認知行動療法などの心理療法によるワークや、カメラを使ったビデオフィードバックなどがあります。
僕たちは解釈製造機みたいなもので、いろいろな物事を自分の捉え方で見ています。「自分で固定してしまった解釈」を認識するだけでも、悩みのループから少し外れることができると思います。
人生の主人公は自分。あらゆることが変わるきっかけになる
福崎さん:
ただ心理学を勉強するだけではおもしろくないので、みんなが楽しみつつも変われたらいいなと思ってプログラムをつくっています。とはいえ、なぜ変わったり、自信になったりするのか理屈がわからなければ、みなさんも行動しづらいと思うので、きちんと論理立てて説明することも意識していますね。
演劇ワークは、コミュニケーションに苦手意識を持っている人の練習にも役立つと感じています。
ユーモアコミュニケーションワークは人を笑わせる体験によって自信がつくかもしれませんし、おもしろさの種類を知れば正解はひとつじゃないという視点も得られますよね。
講座で変わってほしいというのはなくて、何かしらの要素がその人にハマって変わるきっかけになればいいと思っています。
福崎さん:
僕が好きな言葉に、「自分は人生の主人公である」「望めば何にでもなれる」があります。
僕自身も昔はたくさん悩んできて、もう本当に希望がないな…と思っていました。けれども、自分は他人のために生きているわけではないので、自分の心に問いかけて浮かんだことには少しでもいいのでチャレンジしてみてほしいと思います。
あとはやはり1人だと難しいので、家族や友達、WaReKaRaのようなコミュニティや趣味の集まりでもいいので、少しでも人と繋がって、悩んだら周りに相談してほしいですね。
違う視点を得ながら、一歩ずつ踏み出してみてください。
・・・
脇見恐怖症の辛い経験を乗り越え、自分らしい人生を選択した福崎さん。
自分と向き合って変わることは本当に大変ですが、私もチャレンジを続けようと勇気づけられました。
福崎さんが運営している『WaReKaRaゼミ』は、対人恐怖や人間関係に悩む方たちが、「殻を破って主体的に生きられる」ようになるためのコミュニティです。
本記事が、変わりたいと願うあなたの一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
\ 福崎さんのご著書 /
『世界一やさしい 脇見恐怖症大全: 心理カウンセラーが教える脇見恐怖症の治し方』
症状やその原因、克服法などを網羅的かつ多角的なアプローチで解説した、“脇見恐怖症”書籍の決定版。自身や多数のクライアントと向き合うなかで得た知見を、多数の具体例を交えて紹介しています。
〈取材・文=福田成美(@ofukunaru)/編集=いしかわゆき(@milkprincess17)〉