先輩教師⑧
初めて担任した時の学年主任の先生は、当時まだ30代だったが、授業が面白く、生徒たちから絶大な人気があった。その後、どの学校に異動しても人気No.1の授業と評判の社会科教師だった。
彼にはよく叱られた。でも、結婚式の仲人さんをしてもらったほど尊敬していた。彼とは、別々の学校になっても時々お会いして、現況を報告していたが、会って最初に必ず言われたのが、「今月何冊本を読んだ?」だった。彼に会うたびに、あまり本を読んでいなかった私は叱られた。
彼は「岡田武史も西野朗も、彼らの文章を読めば、様々なジャンルの本を読んでいるのがよく分かる。それに引き換え、君は読み心地のいい、好きなサッカーの本しか読んでいない。だから薄っぺらい」と言われた。
ちなみに、私が最後に勤務していた学校の司書さんが教えてくれたのだが、その学校で一番図書館で本を借りていたのは、サッカー部の顧問の体育教師だったそう。彼になぜ読書量が多いのか聞いてみたところ「サッカーばかりしてきて何も知らなかったので、教師になってから読書をするようになった」とのことだった。
私が浦和レッズサッカー塾で指導していた時に、ある親御さんが「コーチ、何かこの子にやらせるとしたら何がいいですか?」と聞いて来たので「読書ですね。語彙が豊富な子は、指導者の話をより多くキャッチできますし」と答えた。その親御さんは、まさかの回答に驚いた様子だったが、その後「うちの子が読書をするようになって嬉しい」と言っていた。
実は、私の実家は本屋だが「本を読め」と親に言われたことはない。でも、本が手元にある恵まれた環境だった。伯父も本屋さんだったが、ある時「もっと漫画を置いたり、売れる本を置いた方がいいのでは」と軽い気持ちで言ったところ、伯父に「儲けるために商売やってんじゃない。本が好きだから本屋をやっているんだ。1人でも『あの本屋にはいい本が置いてある』と言ってもらえるように売れなくてもいい本を置き続けるんだ」と怒鳴られてしまった。そんな伯父が新米ママさんに必ず勧めていた本は『おさるのジョージ』だった。おさるのジョージが様々なことに挑戦して失敗をするのがいいと言っていた。
伯父が亡くなるちょっと前、私が教師になって10数年経った頃、「君の話を聞いていると『千紫万紅』という言葉が浮かぶ。サッカーを教えているのだけど、様々なタイプの生徒さんが育っていて、聞いていてとても面白い」と言われたのが忘れられない。