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#5 どうしても忘れられない君へ

彼は、小学校からの幼馴染。昔からおちゃらけていて、虫と魚が大好きな男の子だった。普段はすっごく適当なのに、根は優しくて、そんな彼が好きだった小学校時代。
中学校からは同じ部活になって、部活後みんなで帰ったり、たまに遊んだり、勉強したり。いつもすぐそこにいる存在で。大事な友達だった。
関係が変わったきっかけは高校3年のとき。受験勉強に励んでいた時期、進学校に通っていたわたしに「赤本貸して」と連絡が来たのが始まりだった。その日から、連絡を取るようになり、夜に集まっておしゃべりするようになった。場所は、お互いの家から徒歩3分くらいで着く公園。いつも同じベンチに座っておしゃべりした。受験しんどいなーとか、そんな話だったと思う。彼は、いつもすごく緊張していた。そんなことは一言も言わないけれど、手も足もガクガクしていて、喋り方からも緊張が伝わるほど。どうしたのかなーと思っていたら、ある日のLINEで「好きかもしれない、ずっと」とメッセージがきた。なんだか納得した自分がいた。彼は県外の大学への進学が決まっていたので、付き合うとかは考えなかったけれど、すごく嬉しかった。

大学生になって距離が離れても、LINEのやり取りは続いた。半年くらい空くこともあったし、数ヶ月間毎日やり取りする時もあった。彼が帰省すると、地元のみんなで集まることもあった。2人で会おうとよく誘ってくれたけど、大学生時代は適当に理由をつけてほとんど断った。誘ってくる映画もショッピングも興味ないものばっかりだったから(笑)いや本当は、この関係が崩れるのが怖かったりしたからかもしれない。
就活が始まる前に、初めて2人で出掛けた。最初で最後の水族館。どうして誘ってくれたの?と質問したら、「男が女を誘うのに理由なんか一つしかない」と言われた。なんとも不器用な彼らしい返事。何とも思っていないフリをしたけど、本当は、わたしもずっと彼が好きだったと思う。
素直になれなかった学生時代。お互いに彼氏彼女がいたりもしたし、別に干渉もしなかった。

卒業すると、彼は地元で就職した。今度はわたしが上京することになって、タイミングが合わないねと笑い合った。でも結局、半年くらい経って心が壊れ始めたわたしは、地元に戻ることになった。
わたしから、ごはんに誘った。彼はたくさん話を聞いてくれた。その日から、毎日連絡をしてくれて、週に3回くらい会って話を聞いてくれた。もちろん、あの公園で。
彼もものすごく大変な時期だったと思う、しんどいと本音が漏れることもあったけど、それでも毎日頑張っている彼を心から尊敬していた。


ある日、いつものベンチで彼が言った。「中学の時からずっと好きだと思う。」なんていうか、涙が出るほど嬉しかった。初めてわたしも素直になれた。結局付き合おうとはならなかったけど、お互いこのままの関係でお互いの気持ちが知れて満足していたと思う。実際わたしは、とても幸せだった。

それから約1週間後、彼は音信不通になった。
地元の友達もみんな、彼と連絡が取れなくなった。既読がつかない、電話に出ない。
家に行くと、すごく痩せた彼が出て来て、困った笑顔で「俺、今やばいから」とだけ言って戻って行った。
もう3年近く経つ。


受験の時、バイトで悩んでいた時、留学前、失恋した時、就活中、病気の時、わたしの人生でしんどい時にはいつも彼がそばにいてくれた。でも、わたしは彼の苦しみを何も知らない。それが情けなくて、悲しくて、悔しかった。今でも何もできなかった自分に涙が出る。裏切られた気になって、もう何も言えないのに、心の中で彼を責めたりもした。彼は死んじゃったんだと思い込むようにしたりもした。失恋した時とはちょっと違う喪失感。大切な人が何も言わずに目の前から消えてしまって、感情はめちゃくちゃで。3年経っても変わらない。思い出になんて、ならない。1日も忘れることができないし、考えると涙が止まらない。
後悔はたくさんある。あの時、ああ言われても毎日家に行けば良かった。何があっても味方だと言えば良かった。少しでも、彼の話を聞いていたら。そうしたら今頃は違う結果だったかもしれない。
当時は自分に余裕もなく、ショックも大きくて、それに、これが彼が望んでいることならと一歩踏み出せなかった。こんな形で別れるのは、わたしは辛かったけど、彼はどんな気持ちでこの選択をしたんだろう。わたしには、到底分からない。どれだけ特別な存在でも、人の気持ちは分からないのだ。
わたしたちは、子供の時からずっと素直になれなかったんだ。本心をぶつけ合えなかったんだ。ずっとずっと、逃げてきて、今もお互い逃げている。その結果が、これだ。

どこかで、元気にしていますか?
どうかどうか、笑っていますように。
もし、何年後またどこかで会うことがあれば、その時ははじめましてから始めようね。

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