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うさつむりちゃんといっしょ(kiris_kirimura)

うさつむりちゃんは めを さましました。
うずまきのからのなかが あかるいのです。
たいようのひかりがすけて まぶしい はる!
あたたかな だいすきな はるがきたのです。
うさつむりちゃんは いそ いそ!と、
からのなかから ぴょこん!と かたみみを、
それからもうかたほうの おみみも、
ぴょこん!と げんきいっぱい だしました。
はるの においが かぎたくて、
ぴくぴくおはなも だしました。
おひさま、おはな、くさ、じめん。
ぜんぶのいいにおいがまざった いいくうき!
うさつむりちゃんは うれしくなりました。
そうしてげんきいっぱいに、おかおをだして
にこにこえがおで いいました。
はるですよう!
はるが きましたよう!!


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かたぎは纏いつく粘液で目を覚ました。滲み出た滑りが白い毛の生えた腹や後ろ足までをもどっぷりと濡らしている。上半身には必要だろうが下半身には無用の体液、しかし躰をくねらせたところ尻尾までもが重たく粘る。どうやら長く寝過ぎたようだ。角を振ると確かに微かな頭痛を覚える。それにしても腹が酷く空いている。体長が40センチ近くあるだけにそこらの草では間に合わない。おまけにやたらと晴れた日だ。雨なら叢に紛れだらりどろりと滑り進めば済むものを、こんな穏やかな風の日は人目に付いてしまいかねない。そんな悠長な春の散歩をしていたら即座に打ち殺されてしまうだろう。しかし、腹が減った。かたぎには食べ物を運んでくれる仲間などいない。他の蝸牛達は自分の尾よりも遥かに小さいのに、自分はそこら一面の食料を喰らい尽くしてしまう、共に生きられる訳がない。だが理由は他にもある。殻を失って生まれたかたぎであるのになぜか殻を作る為の石灰質を欲して、コンクリートや昆虫も喰らう。そして、確かにそれを含んだ蝸牛たちの死骸の殻をも。生きるための食欲には抗えない、生きるための仲間など必要ない、他とは違うこの肉躰を引き摺りながら独りで進み往くだけだ。


ああ、おなかが すいたなあ!
まずはおみずを のもうっと!
うさつむりちゃんは まえあしを ぴっ!と
のばして、おがわでおみずを のみました。
はるの おみずは よい おみず!
それから しろつめくさを みつけては、
もぐもぐ くいくい たべました。
しろつめくさは うさぎの しっぽみたい!
うさつむりちゃんには ないけれど、
だいすきなおかあさんには ありました。
「うさつむりちゃん、あなたには ほんとうは
おにいさん…おねえさんが いるのよ…」
おかあさんの さいごの やさしいこえ。
うさつむりちゃんには ゆめがあります。
いつか おにいさんとおねえさんとあって、
いっしょにおいしいにんじんを たべたいな…
きっと とってもおいしいに ちがいありません。

腹が減った腹が減った腹が減った腹が減った。こうしていても始まらない、しかし角出し槍出し頭を出しつつこの緩慢な体躯を重く引き摺って出かけてゆくのは億劫だ。そう考えてかたぎは角を地に向け身を引き絞りどろりとした粘液を垂らしながら高く跳躍した、そして地響きとともに着地した。春の陽は繰り返されるその跡すらも目映く照らした、薄気味の悪い重たい音は一跳び毎に風と消えた。


うさつむりちゃんは なかまのうさぎたちと
おかのむこうの にんじんばたけにいくのです。
みんなは うさつむりちゃんを だいすきで、
うさつむりちゃんも みんなが だいすき!
みんなはまえあしとうしろあしを つかって、
ぴょん!ぴょん!と はやく とべるけれど、
すこーしだけ ゆっくりはしってくれます。
そしてうさつむりちゃんは だれよりも、
おいしいにんじんをみわけるのが とくいです。
みんなが うさつむりちゃんを さそいます。
ねえ、きょうも いっしょにいこうよ!
うんどうしたぶん、ごはんは おいしいし、
きょうはとっても あたたかくて、
すてきな はるのひ なのですから。

かたぎは木陰の多い昏い森を抜けて或る場所を目指している、それはこの一帯で最も大きな農家の土地だ。出荷する畑とは別に自分達が食べるための作物を育てている畑がある、それだってなかなかの面積だ。そこで兎達が人参を分けて貰うと前に噂で聞いたのだ。自分だって下半身だけなら御覧の通りの兎なのだ、少しぐらい貰おうが罰は当たるまい。そしてかたぎは閃いた。いいや自分は誰よりも多く食べ早く成長し子を成すのだ。自分は雌雄同体なのだ、家族を創ればこの姿で生まれ来た不快な気分も紛れるか?顔も体も歪めて笑う。自分の親が一体誰かそんなことはもうどうでもいい、柔らかな感傷に浸る甘い時代はもう過ぎたのだ。うさつむりちゃんは めを かがやかせました。みえてきたのです!ひろい ひろーい にんじんばたけ!おいしそうな にんじんたち!なかまたちと えがおを かわし、ますます はりきって すすみます。びちゃり、びちゃりと口中を満たす唾が涎となり体液と混ざる、絡み付き滴り落ちる粘液の音が時速60キロで春の穏やかな人参畑に近付いてくる。





うさつむりちゃんといっしょ-邂逅 前編
うさつむりちゃんといっしょ-邂逅 後編


さく・え @kiris_kirimura うさぎとかたつむりのことが好き。






  


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