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『話題書』児童書と思ってあなどるな!『ふしぎ駄菓子屋・銭天堂・』廣嶋玲子・作、jyajya・絵、あらすじ

型ぬき人魚グミ

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 真由美はプールが大嫌いだった。明日からの体育は水泳になるのだ。そのことを考えると冷汗が止まらなくなる。
 プールのことを考えてのろのろと帰り道を歩いていると、商店街の中に一軒の駄菓子屋を見つける。そこはいつも通っている商店街なのに、その駄菓子屋を見たのは初めてだった。
 変だと思いつつも、真由美は吸い寄せられるように駄菓子屋に入った。その「銭天堂」という駄菓子屋は一般的な駄菓子は売っていなかった。その代わりに、駄菓子に似せて作ってはいるが中身は全く違うもの、ほかのとは違う、特別な力を秘めたものが売っていた
  ネコ目飴、妖怪ガムガム、べっこう亀飴、コウモリせんべいなどなど。
 「いらっしゃい。ここは銭天堂。幸運を求める幸運な人だけが見つけられる店でござんす。幸運なお客さんのお望みはこの「紅子」がきっと叶えて差し上げましょう。
 小銭の柄の着物をどっしりと太っている女性が言った。
「何がお望みでござんすか。」
「あたし、泳げるようになりたいの。」
「それなら、この『型ぬき人魚グミ』がうってつけでござんす。」
それを見たとたん真由美は雷に打たれたみたいな衝撃を受けた。
「いくらですか。」
「10円です。10円玉、お持ちですよね。」
真由美が10円を差し出すと、紅子は満足そうにうなずいた。
「昭和42年の10円。ありがとうございます。最後に、このお菓子の中には紙が入っています。それをよく読んでくださんせ。よう、ござんすね」
「はい。」
真由美は夢うつつのままうなずいた。そして、気づいた時には自分の家に帰っていた。その手には型ぬき人魚グミが握られていた。

「夢じゃない!」
 真由美は中に入っている紙を読んでみた。グミの作り方が書いてあった。
「グミの粉を水に混ぜて、型にはめる。一時間して固まったら、食べる。」
あとにもいろいろ書いてあったが、真由美はその部分をすっ飛ばした。早くグミを食べたくて仕方がなかったのだ。
 グミを食べてみると、とてもおいしかった。その夜、真由美は人魚となって、深く澄んだ海を泳ぎ回る夢を見た。

 次の日、真由美はひどく喉が渇いた。その渇きが気になって、プールのことを忘れていた。そして体育の時間が来た。

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真由美はプールに飛び込んだ!どうしてもプールに入りたかったのだ。 体育の時間が終わっても、真由美はプールから出たくなかった。しぶしぶプールから上がると、ひどい喉の渇きを覚えた。身体が干からびていくみたいだった。
 そして、昼休みになると体から鱗が生えてきた。真由美は急いで家に帰って、お風呂に水を張って浸かった。
「泳げるようになりたかったけど、こんな風にはなりたくなかった。」
その時、真由美は紅子の言葉を思い出した。
「このお菓子の中には紙が入っています。それをよく読んでくださんせ。よう、ござんすね」
紙をもう一度読んでみると、
「注意事項、グミを食べ終わったら塩水を飲んでください。そうしないと、人魚化してしまいます。もし、塩水を飲み忘れたら、同封されている人間型グミを作り、食べてください。ただし、完全に人魚化してしまった場合は効果がありません。」
 真由美は急いで人間型グミを作った。また一時間待たなくてはいけない。しかし、あと三分で完成するというときに母が帰ってきた。
「まずい、お母さんに見られてしまう。」
真由美はグミを食べてしまった。すると、鱗が取れて人間の足になっていった。

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 それから、真由美は水が怖くなくなった。そればかりか泳ぐのが大好きになった。「型ぬき人魚グミ」の効果が少し残ったらしい。人間型グミの時間が足りなかったせいかもしれない。
 彼女は将来水泳選手になることを、この時の真由美はまだ知らない。

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