大学教授のように小説を読む方法[増補新版], トーマス・C・フォスター
あれもこれも象徴
少年が食パンを買いに行く。それは聖杯探索のクエストだ。ティーンの吸血鬼が血を吸う。それは性行為かもしれない。溺れた主人公は精神的に生まれ変わるし、雨の中転んで泥まみれになれば堕落する。英雄の隣に立つモブはすぐ死ぬ。13人目の仲間?裏切ってくれと言ってるようなものじゃないか。盲目のキャラクタは誰にも見えない真実を見通すし、傴僂男は類稀な美しい心を持っているか、真っ黒い邪悪な心を持っているかのどちらかだ (少なくとも20世紀以前の文学では)。兄弟の確執? ああ、カインとアベルか。道を下り河を渡り……冥界下りだね。寝取られて喧嘩、はイーリアスかもしれない。子どもたちが道に迷うのはヘンゼルとグレーテル。穴に落ちるのは不思議の国のアリス。底辺からの一発逆転、シンデレラストーリーというやつだね。
えっ、こじつけっぽい? 穿ちすぎ? ただの妄想?
高校レベルから
米国でロングセラーの本書は高校の課題図書として指定されることがよくあるらしい。「小説 (に限らずあらゆる創作物) をもうちょっと深く読みたいけれど、文学理論とかよくわからないし」というレベルにぴったりだ。いきなりテリー・イーグルトンの『文学とは何か』を勧められても困る、そんなときはこれ。何事も適切な階梯が、すなわち適切なレベルから一歩一歩登るのが大切。本書は高校国語と大学教養レベルの橋渡しにあたる。
フォスター先生、わかりやすい上に、ユーモアに溢れているので読んでいてなにより楽しい。
本を読んで(あるいは映画や漫画を鑑賞して)、面白い/面白くないの情動レベルの反応から一段階ステップアップして、ストーリーの要素に注目して分析できるようになる。
「ジョジョのセッコとチョコラータって、カリガリ博士のモチーフ入ってるよね」とか、まぁ要するにそういうことだ。
フォスター教授の専門と研究対象の関係で、例示されるテキストは多くは20世紀および21世紀英・米・アイルランド文学の作品。また、作品の分析は「象徴性」と「間テクスト性」に重きをおいて行われる。著者いわく、本書はノースロップ・フライ『批評の解剖』を水で薄めて読みやすくしたもの。
27章「テストケース」ではキャサリン・マンスフィールドの「ガーデン・パーティ」をお題に、練習問題と解答例がついている。
やってみると目から鱗が落ちる (新約, 使徒行伝9章18節)。
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