ねむみ

ねむい……( ˘ω˘ )スヤスヤ

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  • 小説・雑記

    創作物のまとめ箱 冒頭小説、掌編、端切れ

最近の記事

大学教授のように小説を読む方法[増補新版], トーマス・C・フォスター

あれもこれも象徴  少年が食パンを買いに行く。それは聖杯探索のクエストだ。ティーンの吸血鬼が血を吸う。それは性行為かもしれない。溺れた主人公は精神的に生まれ変わるし、雨の中転んで泥まみれになれば堕落する。英雄の隣に立つモブはすぐ死ぬ。13人目の仲間?裏切ってくれと言ってるようなものじゃないか。盲目のキャラクタは誰にも見えない真実を見通すし、傴僂男は類稀な美しい心を持っているか、真っ黒い邪悪な心を持っているかのどちらかだ (少なくとも20世紀以前の文学では)。兄弟の確執?

    • サリンジャー 『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる ハプワース16、1924年』

      作品についてホールデンの行方  思春期や青年期に読んで「これは自分のことだ」と思ってしまう、そんな意味では、サリンジャーは太宰に似ているのかもしれない。ホールデン・コールフィールドと彼を取り巻く人々の物語は、多分に私小説的だ。  ライ麦畑の原型たる短編「ぼくはちょっとおかしい」は、1945年12月にコリアーズ誌に掲載された。これはライ麦畑でいえば、ホールデンとスペンサー先生の対話パートにあたる。同じく1945年10月、エスクワイア誌にはホールデンの兄ヴィンセントの物語「こ

      • ルシア・ベルリン 再発見された手引書

        作品について私小説的な読み  家に変えると荷物が届いていた。包みはルシア・ベルリンの三冊目の邦訳書で、私は甘いミルクコーヒーを啜りながら、一晩かけてそれを読んだ。  彼女の最初の邦訳が出たのは、2019年のことで、それはその年の個人的なベストブックになった。『掃除婦のための手引書』の表題作は、今の世にまさにぴったりだと思われた。魂をやすりがけするような労働。バスを乗り継ぎ、金持ちの家に行き、キッチンのタイルや床や磨き、おばあさんの小言を躱し、戸棚から瓶入りの胡麻を盗み、ま

        • ジーン・ウルフ、信頼できない超絶技巧

          作品プリングルズのひげ  ポテチ売り場の棚にプリングルズを見つけるたび思い出す。堂々とした体躯に好々爺然とした顔、そしてあの立派なひげ。Wikipediaで「ジーン・ウルフ」の項にあるネビュラ賞受賞式の写真だ。  SF作家、幻想作家、あるいは推理小説家、ときにはメインストリームの書き手とも紹介されるウルフはプラントエンジニアでもあった。インタビューによれば、プリングルズの製造設備のうち、"加熱調理する部分" を設計したらしい。(NovaExpress, 1998) 

        大学教授のように小説を読む方法[増補新版], トーマス・C・フォスター

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          61本

        記事

          黒猫王の帰還と五つの太陽の再臨

           南米大陸縦断鉄道トルメンタ・デル・ソル号の事件で生き残ったのは二人の子供と一匹黒猫だけだった。ブエノス・アイレスから北へ約百キロ、コンセプシオン・デル・ウルグアイの高架のなかほどで、たった二本の採掘用ダイナマイトのために機関車と十両の客車、四両の貨物車がラ・プラタ河に沈んだ。  アレクセイ・ロマノフは当時八歳の少年だった。彼はのちに死の刹那、すなわち大陸の南端カボ・デ・オルノスの波打ち際でカソリックの狂信者に心臓を貫かれる満月の夜に、皮肉にも同じような月の夜、母の膝の上から

          黒猫王の帰還と五つの太陽の再臨

          Freaks' Country Roads

           僕は先頭の幌馬車の御者台で、ギターを鳴らしてカントリーを唄っていた。隣りに座る腕なしのエルフ、アルダは器用に足で手綱を操りながら、時々なんとなしに鼻歌を僕の節に合わせてきた。僕の七本指は調子よく弦を弾いていた。ナラの林はもう橙色になっていた。  南からはトロルの軍勢が、西からは死霊術師たちが、北からは帝国の山岳部隊が攻め立てているらしいけれど、僕らには戦争というものはあまり関係がなかった。どのみち巡業のフリーク・サーカスとしてあてどなくさまよい続けることに変わりはない。陰

          Freaks' Country Roads

          Re:vengeance Tower

           主幹昇大降機が停止し、太い鉄管のドレンから排蒸気が吹き出した。半径1kmを超える昇降機が、ベースメントフロアからグランドフロアに運んできたのは唯一人、猫頭種の青年だった。詰め襟の黒いコートが熱い霧にたなびいた。上階から掃討機銃を二門そなえた大型のクアッドローター・ドローンが現れ、降下猟兵型シンセティックを投下しながら着陸する。治安維持軍の50体は素早く展開し、青年を包囲した。タングステンのフレシェット弾をフル装填した軽機関銃が50丁、一斉に照準を合わせた。遅れてブルドック頭

          Re:vengeance Tower

          上海ギャングスター

           俺がギャングスタになろうと決めたのは1927年12月、時計塔みたいな江海関が建った年だ。当時の上海は西欧の列強国に共同統治されていた。上海共同租界の時代だ。  上海暗黒街の三大ボス、聞いたことはあるだろう。黄金栄、張嘯林、杜月笙。中でもハゲの杜月笙は、俺達にとっちゃ神みたいな存在だった。  表通りこそ煉瓦造りの派手なビルディングが並んでいたが、ちょっと裏通りに入れば、阿片窟だらけだった。糞やらゲロやら、腐った汚物の塊がぬかるんでいた。  あのとき、俺は14歳だった。華林茶行

          上海ギャングスター

          ふたたび連続殺人事件

          「いい加減に吐いたらどうなんだ」  二子玉川刑事は、机の上に寝転がっている三毛猫に向かって言った。 「なう」猫が鳴いた。  と突然、扉を蹴破るような勢いで相棒の大井町が飛び込んできた。 「現場の体毛とDNAが一致しました」  三毛猫は片目を開けて「毛玉を吐くわけにゃいかんしな」と言い、前足を伸ばしてあくびをした。 「俺がツナを食ったのは去年の冬。一缶だけだ。だから大脳皮質の発達はさほどじゃない。〈タマちゃん総統〉に比べればゴミみたいなもんだ」 「襲撃に参加したと

          ふたたび連続殺人事件

          タイタニア海溝都市

          「おっちゃん、天ぷら蕎麦のコロッケのっけ」「あいよ」  人工重力環境でも立ち食い蕎麦は旨い。三隻の大型植民船とその他雑多な運搬船やらスクラップやらを溶接して建造されたメガストラクチャ、円環状軌道上住居NULL-11でも、良い屋台は少なくない。深緑色の巨大なゴルディロックス惑星NULLを目前にして、我々はまだ足踏みしているが、食うことにゃ飽きちゃいない。 「またコロッケ乗せてんのか、気持ち悪いぞ、それ」苗(ミャオ)が人混みを割り、暖簾をくぐってきた。「棒々鶏のからあげのっけ

          タイタニア海溝都市

          南路遍歴

           おれは泥濘沙漠を越えるキャラバンに加わった。壮年の男が約三十人、それに数人の女とみなしご、親方と呼ばれる老人がひとりいた。ヘコミラクダの背には北の鉱山から出る砂糖水晶や醍醐石、オアシス地帯の夏女椰子の干果、草原の遊牧民が作る馬血酒が積まれていた。おれは鉄貨二十枚を支払った。荷物は毛布が一枚と将軍の遺骨だけだったから、格安ですんだ。  泥濘沙漠を越えるのは簡単ではない。夜間に東の山脈から水が流れ込み、沙漠は泥の海と化すが、日が暮れる頃には乾燥してひび割れた地面に戻る。おれは

          南路遍歴

          【備蓄編】これからの台風のために

           私は零細農家ではあるが、過去の気候データは一応チェックしている。2000年代から異常気象と呼ばれるような、統計的に「ハネた」データが目立つようになり、2010年代に入ってから、もはや異常とは言い切れないほど、最高記録、最低記録の更新が日常茶飯事になってきた。あくまで素人の見立てではあるが、2020年代以降、この傾向はさらに顕著になるだろうと思う。  室戸台風、伊勢湾台風以上の台風は「必ずうちにも来る」と考えておいて損はない。わたしは関西在住であるが、平成30年台風第21号

          【備蓄編】これからの台風のために

          茨の天蓋

           ぼくらが森に入ってから十日は過ぎたと思う。森はただ深く、暗く、ぼくと彼女は、アセチレンランプの弱々しい光をたよりに、黒いイバラをかき分けながらさまよった。彼女の小さな手は、傷だらけになっていた。「まだ、もりはつづくの?」そう繰り返された問いも、もはや聞こえなくなった。手を離さない、弱音をはかない、振り返らない。はじめに交わした約束が、心を支えていた。  どこまでも暗い。足もとがおぼつかない。視界の端にちらつく影、うごめく茂み、はるか頭上で、セコイアと杉と松の間を飛び回る風

          茨の天蓋

          農奴の祭壇

           彼女は一体、何を産もうとしているのか。  わたしはそれが恐ろしかった。  ロストフ家の客間で、わたしは震えていた。  激しい雷雨が、館を殴りつけるように吹き荒れてた。黒ずくめの客間は暗く、ランプと暖炉の炎も、霧のように忍び寄る闇の不穏さを拭えなかった。筆頭執事のアバーエフが端に控えていた。彼は彫像のように身動きひとつしなかった。  葉巻を片手に、黙って床を眺めている田舎紳士たち。額を寄せ合って噂をささやく妻たち。一方で、数人の退役将校は円卓に陣取り、不安をせせら笑うよう

          農奴の祭壇

          逆噴射祭りの再襲撃

           800文字。原稿用紙2枚分。文庫本にしておよそ1ページ。改行を多用したならば2ページほど。ツイッターで5~6ツイート。  物語のセットアップ――主要人物、世界観、目的、謎、事件の提示――に割かれる分量が全体の10~20%であれば、800文字は、20~40枚の掌編、ないし短編の冒頭部だと考えるとちょうど良いのかもしれない。  長編の冒頭800文字となれば、ほとんどエピグラフや描写で終わってしまう。短編と長編では、情報密度、構成、文体、情報密度が異なる。しかしエンターテイメ

          逆噴射祭りの再襲撃

          美しい庭園を包む不愉快な沈黙

           以下は全く個人的な話に過ぎず、  白紙を埋める記号の列以上の意味を持たない。  仕事をリタイヤし田舎に大きな一軒家と美しい庭園を持った夫婦がいる。夫は東京の大きな商社で営業の仕事をしていた。日本の経済的黄金期を支えた人々の一人であった。  夫の退職に伴い、夫婦は東京から夫の故郷に住まいを移した。農家だった古い実家を建て替え、そのすぐとなりにまとまった土地を買った。その土地に小さな菜園と、美しい庭園を作った。夫婦の生きがいは、今やその庭の手入れである。  午前中、夫は定

          美しい庭園を包む不愉快な沈黙