黛灰の活動終了
先日、私が最も大好きで、唯一デビュー当時から追っていて、私が見たいVTuberの理想像の一つを体現してくれていたにじさんじの黛灰が活動終了を決めました。
活動終了の理由については「俺とANYCOLORの間で方向性の違いを感じたから」だと明言していますが、告知動画だけの内容では分からないことも多く、その真意については憶測が広がっている状態になっています。
動画説明に「あとで文章でもまとめたりもする予定。」とも書いていますし、もう少し待てば詳細な説明をしてくれるかもと思いますが…
以前の動画で「今日色々した話をいつかちゃんと話せるときに覚えてて欲しい、お願いをするなら」とも話していたので、その辺りを整理してみようかな、というのが本文の趣旨です。
黛灰であれば、彼自身の語った言葉からなら、推測することを彼は許してくれると思うので…狂人の独り言、あるいは彼が執り行う生前葬の、参列者による鎮魂歌、故人のエピソードトークだとでも思ってください。
黛灰の方向性について
方向性の変化
黛灰自身がVTuber活動の方向性として定めているものは何か。これは難しいところですが、元々の配信の方向性という意味であれば、
①雑談
②インディーズゲーム
③リスナー参加型企画
この三つに焦点を当てるのが一つであると思います。
何故ならこれらは去年7月の配信において、黛灰自身がこれまでに行ってきた黛灰らしい配信として今後の配信スタイルに定めたものでした。
「黛灰とANYCOLORの方向性との違いが生じた」と活動終了を表明した動画で語っていましたが、この元々の配信スタイルと、それが変化したことについては、活動終了の表明前である今年5月の動画の中で色々と語っています。
つまり、雑談、インディーズゲーム、リスナー参加型企画という、元々定めていた三つの方向性の配信を維持することが、少しずつ難しくなってしまったのでしょう。
最近の黛灰の配信に増えていたAPEXやVALORANTなどについては、元々は以下のような意見でした。
もちろん、黛灰にとって最近のVTuber活動が嫌だったのかというとそうではなく、「配信、ゲーム、雑談とかもやりたくてやってた」とも語っていますし、「リスナーのことが嫌になったわけじゃない」とも「方向性の変わった黛を見て好きになった新規のリスナーが場違いだと言いたいわけじゃない」とも明言しています。元々大会に参加するようになった理由も「自分が企画するにあたって人の企画や大会から学べることを学びたい」というポジティブなものでした。「『あの伝』というAPEXで参加したチームに対する思い入れ」も、嘘ではないと思います。
方向性の軸
結局、雑談やインディーズゲーム配信、リスナー参加型企画などを通じた、
①黛灰というキャラクターに合った配信をしていく
②他者(特にリスナー)と一緒にコンテンツやコミュニティを築き上げていく
③ニッチなジャンルや斬新な切り口の配信を開拓して、広めていく
という軸がブレてきてしまっていた、ということなのだと思います。
①の部分に関しては彼自身の口から明言されています。
また、黛灰というキャラクターの設定と物語を、今なお捨て去ってはいないことからも、言えるかもしれません。
②の部分に関しては、リスナー参加型企画などにおいて顕著でした。
「SF人狼」「AmongUs」「無言人狼」といったゲーム配信に加え、「叩いてみた音声」「安価でDbD縛りプレイ」「自信がない物真似」「人格矯正枠」「100均コス大会」「グルメスパイザー選手権」といった企画、活動終了前の予定に入っている「リスナーBUSAIKU」もそのうちの一つです。
界隈や立場の垣根を超えた、様々な人との関わりによって面白いものを発掘しよう、生み出していこうという彼の方向性は、これまでにコラボした相手の多様さからも分かりますし、以下の発言などからも意識していることが読み取れます。
③の部分に関しては、黛灰が活動終了にあたって設定した外部のコラボ先であるゆる言語学ラジオさんや精神科医の名越先生、にじクイの制作協力であるQuizKnockさん自身にも近いことが言えるのではないかと思っており、このコラボ自体が黛灰自身のVTuber活動の方向性を体現しています。
まぁこのように説明しなくとも、今まで黛灰の配信を見てきた人からすればその活動のニッチさ、特殊さは十分に承知している部分です。
雑談配信ですら「切り抜き風雑談」「振り返りの振り返り雑談」「同窓会雑談」「伝書鳩雑談」「全てに杞憂するマイクラ雑談」「俺同時視聴枠」とバリエーションに富み、他にも「0人凸待ち」「謝罪(あやまりざい)配信」「虚無実況」「ゲーム風新衣装お披露目」「コラボ風一人桃鉄」など、普通にやれるはずの動画にも趣向を凝らしています。
ともかく、こうした配信を維持出来なくなっていき「義務感を感じる配信内容になっていること」に対する自覚や、「身の入っていない中途半端な活動を長く続けてもそれはそれで、身の回りのすべてに失礼だと感じた」 「これからじわじわと今までの自分を時間をかけて裏切っていくのだと思うとそれが怖くて、耐えられなかった」 という本人の説明が活動を終了する理由の全てなのだと思います。
黛灰が方向性を維持出来なくなった理由
ANYCOLORとの食い違い
これは少し込み入った話になりますが、まずは活動終了の告知動画が基本ではあると思います。
契約内容に関しては、どうあがいても知ることが出来ない情報です。
初期のVTuberと後期のVtuberでは契約内容が異なり、自由度が異なるのでは、ANYCOLOR側が提案する配信の方がANYCOLORに入る収益が多く、それが提案に繋がっているのでは、などとも考えてしまいますが…
提案内容に関してもにじさんじライバー全体の活動から推測するしかなく、「歌、3Dライブ、グッズ、ボイス、大会、公式配信、メジャーゲーム」などのような具体的なものかもしれませんし、「より再生数や登録者数を稼げる配信」というような抽象的な方向性なのかもしれません。こう考えると「ニッチなジャンルの配信」という方向性と合わなかった、というような気もしますが…
結局どちらも真相は闇の中で、結局は全て確証のない憶測になります。ANYCOLORの提案内容が前章で説明したような黛灰のVTuber活動の方向性に沿わないものだった、というのは確かだと思いますが。
確認不可能な情報が多いので、ここでは周辺情報を拾いながら黛灰が方向性を維持出来なくなった理由について考えていきたいと思います。事の発端であると語った去年11月周辺に起きた出来事について、もう少し深掘りしてみます。
去年6月、黛灰はTwitterの投票によって進退を決めるという非常に斬新な配信を行ったのち、7月には今後の配信スタイルについての雑談配信を行いました。
そこでは本業(ハッカーの仕事を減らす)ということを説明しています。
本業を減らした理由に関しても、しっかり説明がなされています。
本業を減らしたことで、やりたい配信スタイルの時間は取れるはずでした。しかしそれ出来なくなった理由が、去年11月におけるANYCOLORの提案内容に繋がってくるのでしょう。
この辺りについて整理すると、
①仕事であるハッカー
②趣味としてのVTuber活動
③その他の趣味
の両立が出来なくなり、①を削って②を優先しようとした所で
④仕事としてのVTuber活動
が増えてきて逆に②を圧迫してしまったということになると思います。
本来増やすつもりだった「趣味としてのVTuber活動」の割合がじわじわと浸食されていく過程は、以下のように表現されています。
ただ黛灰の方向性を維持出来なくなった理由を、ANYCOLORの方向性によるものだけで説明するには、不十分であると考えます。
そう考えるには、黛灰の配信の方向性が維持できなくなっていく、以下のような理由があるからです。
①ニッチな配信の継続によるメジャー化と枯渇
②突発的な配信の難化と確実性の問題
③権利関係の確認が必要、あるいはグレーな配信の難化
④影響力の増加による責任の肥大化
①ニッチな配信の継続によるメジャー化と枯渇
ある斬新な商品が普及した結果、登場時は非常に斬新で革命的であったはずなのに、それが存在することが当たり前になってしまい、目新しさが失われてしまう、というのはあらゆるものに共通することです。自動車、テレビ、iPhoneなど、例を挙げればキリがありません。VTuberという存在に関しても、同じように導入期と発展期を経て、現在は成熟期に入ったと言えます。
もちろんこれは悪い話ではないのですが、成熟したコンテンツの提供は、「ニッチなジャンルや斬新な切り口の配信を開拓して、広めていく」という軸からは完全に矛盾してしまうものになっています。
今までのVTuber界隈で成熟したコンテンツと言えば、彼自身の手による「にじクイ」などは完全にメジャー化したと言えますし、その他のVTuberによるゲーム大会も、回数を重ねることで伝統となってきました。そもそも、黛灰というキャラクターとその配信の方向性自体が、もはや成熟期に入ってしまった、とすら言えるかもしれません。
また、ニッチな配信の枯渇という問題も重大です。彼の配信の方向性である一風変わった雑談配信や、リスナー参加型企画、インディーズゲームには、一度きり、一発ネタのような性質が共通しています。
そうなると、今までやったものとは違う新たなコンテンツを常に発掘し、アイデアを出していかなければなりません。
この作業には、相当の時間をかけて考えていく必要があるでしょう。そこにANYCOLORによって提案される仕事としてのライバー配信が加わり、時間を取られてしまうことが、どれだけの痛手であるか分かるでしょうか。
彼自身も、リスナー参加型企画の頻度に関して、以下のように語っています。
なお、この辺りの問題に関しては、彼の活動終了までに行う「TRPG配信」というのが一つの解答であったのかもしれません。
全てが一回きりのシナリオ、黛灰というキャラクターにあった配信、シナリオの制作者さんだけでなく、彼自身がプレイヤーとなって双方向でコンテンツを作り上げていくという性質は、彼の配信の方向性にも合ったものであると言えるからです。
②突発的な配信の難化と確実性の問題
突発的な配信内容の減少に関しては、いくつか言及があります。
以上のように、突発的に配信の内容を決めて行うということが難しくなってきたことがいくつか言及されています。スケジュール調整の問題、他のVTuberの配信を邪魔するべきでないという空気感、あるいは後に言及する権利関係や立場の問題も含んでいるでしょう。
確実性の問題に関しては以下のような言及があります。
黛灰は、黛灰というコンテンツ自体をリスナーと一緒に築き上げてきた、という部分があります。彼に特徴づけられるタメ口という喋り方に関しては、以下のように言及しています。
また、コミュニティに関する言及も、活動終了表明後における注意事項にて行っています。
ただこうしたキャラクター、コミュニティ、コンテンツに関するものを、リスナーと共に築き上げていくのではなく、黛灰自身が選択して継続することで、確実性を高めていく方向に流れてしまった、ということなのだと思います。
そして、新たなコンテンツを常に発掘し、アイデアを出していかなければならないという不確実性の解決に失敗してしまったのでしょう。
一時期までは運用していたゲームリクエストなど、もう少しリスナーに頼るということも出来たのかもしれませんが…
活動終了までの配信内容を、いっそのことリスナーと話し合って事前に決めていくということも出来たと思うのですが、そうしなかったことも、黛灰の現状を表しているのかもしれません。
③権利関係の確認が必要、あるいはグレーな配信の難化
権利関係の問題は、リスナー参加型企画やインディーズゲームにおいて大きな問題が生じています。
ニコニコ動画に慣れ親しんでいる人間には分かると思いますが、成り立ちからして権利関係がめちゃくちゃ怪しい動画から始まり、現在の動画の中にもめちゃくちゃ権利関係が怪しい動画が結構あります。VTuberの切り抜きや音MADなども、現在は権利関係の問題が解消されたりしていますが、元々は怪しい部分も多いものでした。
しかし、こうした動画はめちゃくちゃ面白いのです。めちゃくちゃニッチなジャンルなのに、めちゃくちゃ時間と労力をかけてバカみたいな動画を作る。そして視聴者であるはずのコメントと共に動画の面白さを作り上げていく。
これは、黛灰の配信の方向性にも共通する、むしろその根底に流れているものであると言えます。ニコニコ動画に対する思い入れは、何度か言及しています。
しかし、ANYCOLORが企業として存在し大きくなっていくことを考えると、こうしたアングラな文化はリスクでしかありません。この点で、黛灰の配信の方向性と、真っ向から対立する内容になってしまいます。
権利関係の確認作業は、出来る限り無いほうが楽で、コストの面で考えても無駄が多いです。そうなると、インディーズゲーム配信やリスナー参加型企画のような、視聴者数も、配信出来るかも怪しいコンテンツにいちいち確認作業を行うよりは、既に権利関係の確認が済んだ、視聴者数の期待できるメジャーゲームの配信、あるいは完全に自社で行う公式配信の方が、ANYCOLORにとってやりたいことになってしまうのでしょう。
もちろんこれは企業である以上仕方のないことなのです。黛灰自身も、何度も対話を重ねた上で、決裂に至ったことを説明しています。
企業としてやらなければいけないこと、黛灰がやりたいこと、その折衷が出来なかった、ただそれだけで、どちらが悪者だとかそういう話ではないのでしょう。
④影響力の増加による責任の肥大化
黛灰は、この記事の投稿時点でチャンネル登録者数57.9万人、Twitterのフォロワー数は78.7万人と、決して少なくない影響力をもっています。大いなる力には大いなる責任が伴う、これは黛灰にとっても例外ではありません。
彼は、自分が「にじさんじの黛灰」であると同時に「にじさんじにお邪魔させて貰っている人間」だということを強く意識していると語っています。
黛灰の活動は、黛灰自身のコンテンツだけではなく、にじさんじというコンテンツにも影響してしまいます。にじさんじは、ANYCOLOR株式会社、そしてにじさんじVTuberの先輩方が築いてきたコンテンツです。そして、これからも多数の人間が関わって築いていくコンテンツなのでしょう。
だからこそ、黛灰の活動によって、にじさんじというコンテンツに良い影響を与えられるように、また悪い影響を与えないようにというのは、ずっと意識してきたのではないかと思います。
こうした意識が、ニッチな配信、突発的な配信、権利関係の問題など、配信の方向性に関して調整を試みたこと、また上手く調整出来なかった理由、活動終了に際して注意深く説明を試みたこと、活動終了を決めた原因としてANYCOLOR株式会社を挙げたにも関わらず、悪者にしなかった理由にも繋がってくるのでしょう。
黛灰がにじさんじという箱を尊重していることを、リスナーもまた尊重すべきなのであると、私は思います。
締めと感想
長くて乱雑な文章を読んでいただきありがとうございました。
この分析はあくまでいちリスナーの見方であり、実態とは異なるかもしれません。単純に鵜呑みにはせず、話半分という感じで認識して貰えるとありがたいです。黛灰もこう言ってます。
一応、まだいくつか疑問に残っていることはあります。黛灰が活動終了を決めたのは具体的にいつなのか、などです。
今年5月の同窓会配信では、これからの展望についてもいくらか語っており、取り掛かってはいたのか、出来ないことが分かっていたのか、辞めることが決まった上で言っていたのか、これはもはや明かされないことなのかもしれません。
ただ、黛灰が活動終了に際して用意した配信が、出来なかったことの代わりというか、はなむけというか、香典というか…なんかそういうものなんでしょう多分。故人側だけど。
さて、この記事の投稿、彼の用意してくれた配信を最後まで見ることにより、私自身の人知れず長期間に渡る、推し活の締めくくりにしようと思います。
思えば、自分の見たい配信と黛灰の配信の方向性が違ってきたときに、少し離れてしまった時期があったのが心残りです。
一応、黛灰がこの記事を見てくれる僅かな可能性も考えて、彼に対する言葉をせっかくなので残してからこの記事の執筆を終えます。同窓会配信で言っていた通り、こういう言葉にも多分向き合ってくれるのでしょう。
辞めるな!活動終了撤回しろ!
追記➀:生前葬について
この記事の執筆後の雑談配信で、活動終了を前にした黛灰を見るリスナーのスタンスについて、以下のように語っていました。
というわけで、記事のタイトルは【鎮魂歌】に変えて【慰霊祭】という言葉を含めておくことにしました。笑いあり、涙あり、スタンスは人それぞれですが、少しでも盛大な祭りであるといいですね。
追記➁:活動終了
黛灰は全ての配信を終えました。辞めるまでの一ヵ月間、最後にとても黛灰らしい配信が見られて嬉しかったです。ありがとうございました。
(トップの動画が振り返り動画に変更されており、キャッシュを更新すると振り返りにきた時に振り返り動画を目にするようになってるの、黛灰らしく細かくてすきです)