【短歌ノウハウ】短歌トレーニングのための「歌集まるごと本歌取り」って実際どうやっているの?
こんにちは。即詠が超苦手なヒト、深水英一郎です。基本じっくり詠しかできないんですが、なんとかしたかとです。
というわけで、先日は短歌歴8ヶ月で1200首詠んだ美郷さんにインタビューし、短歌上達のためにどんな練習をしているのかをききました。
そのときはふむふむふむとわかったような顔できいていたんですが、あとでよく考えるとよくわからないことがでてきました。
「歌集まるごと本歌取りで一首から複数短歌を詠んでいく」ってところです。
いや、言ってることはわかるんですが、もうちょっと具体的にどんな風につくっていくのかみてみたい。そもそも一首の即詠も苦労しているのに、「複数短歌を詠んでいく」って。
それができなくて苦労してるんですよっ!
というわけで、例によって早速美郷さんに連絡し、具体的どうやってるのが実例を挙げながらみせてもらうことになりました。
実例の元となる短歌ですが、超自由に利用可、コピーしようが転載しようがOKとしてサイトに掲載している私自身の短歌を例として、本歌取りしてみてもらうことにしました。
美郷さんと相談して選んだのがこちらの短歌。
この駅で降りればありふれた日々がドアが閉まれば旅がはじまる/深水英一郎
これを本歌として、本歌取りしてもらいます。
――それではよろしくお願いします!
美郷:
はい、とりあえず歌を考えますね(^^)
あくまでわたしも初心者ですので、質は問わず練習のやり方の参考程度ということでみていただければと思います。
――わかりました、あくまで即詠の練習の実例ということで、やり方を教えていただければと思います。
(その後…あっという間に美郷さんから5首送られてきました)
美郷:
とりあえずこんな感じで5首くらいいつも考えます。
(1)平凡な日常を乗せて列車は進むちょっぴり未来のほうへ
(2)古びたる最寄り駅からも始まるたった一度のこの旅のごと
(3)ありふれた毎日を愛おしみながら珈琲を挽く見慣れた背中
(4)飽きもせず昨日と同じ今日が来てつまらぬ日々にさよなら、飛ぼう
(5)乗客を吐き出し飲み込むラッシュアワー ひとりひとりに人生がある
――はやっ! どういうふうに発想していった、とか教えてもらえると嬉しいです。
美郷:
はい、作る過程や着眼点などは歌を見ながら説明するほうがいいかと思い、まず歌を先に送りました。ひとつずつ説明していきますね。
――ありがとうございます!
美郷:
本歌はこちらです。
(1)平凡な日常を乗せて列車は進むちょっぴり未来のほうへ
まずひとつめは「ありふれた日々」「電車」という本歌のキーワードから連想しました。毎日おなじ列車、同じ路線でも、全く同じなわけではなく少しづつ未来の方に進んでいるんだ、と明るい歌にしたくて作りました。
(2)古びたる最寄り駅からも始まるたった一度のこの旅のごと
ふたつめはまず古い田舎の駅舎をイメージしました。なんのドラマもないようないつもそこにある駅舎にも、そこから旅を始めるようなストーリーがあるだろう、だから平凡なものなんてなにもないという気持ちで作った歌です。
(3)ありふれた毎日を愛おしみながら珈琲を挽く見慣れた背中
次に3つめ。場面がまったく変わりますが、これも日常についての歌で、これまではそれでも日々変わるものがある、新しいものがあると詠んできましたが、ここではありふれている毎日を一旦受け止めようと思いました。変わりない毎日にも楽しさはある、そういう景を詠みたくてこうなりました。
(4)飽きもせず昨日と同じ今日が来てつまらぬ日々にさよなら、飛ぼう
4つめはこれまでとは一転して、ありふれた日々をつまらないものとしてとらえる主体の歌にしようと思ってひねり出しました。日常に飽き飽きとしている主体が「飛ぼう」と手を差し出してくるような景を想像してもらえるとうれしいです。
(5)乗客を吐き出し飲み込むラッシュアワー ひとりひとりに人生がある
最後にまた電車に帰ってきます。これまでは、主体の「未来へ向かう気持ち」「平凡であっても慈しむべき日常」「飽き飽きするつまらない毎日」を描きましたが、最後はそれがひとりひとりすべての人にとって同じ、ということが言いたいなと思って作りました。
――本歌取りする上で気をつけている点はありますか?
気をつけていることは、
体言止めは五首のうち一度だけ(連作でもこれ以上するとくどいかなと思っています)
できるだけ区切りはバラバラにする(ついつい同じ句で区切ってしまうので)
景を変える(逆に同じ景だけで5首とかもおもしろそうですが)
同じ言葉をできるだけ使わない(自分の語彙への挑戦です……とはいえ類語辞典なども使います)
これぐらいでしょうか。
――最初の連想のパターンがいろいろでてくるところがまずすごいなと思います。それは、本歌をみていて、自然と連想されるものですか? それとも連想のパターンのようなものがあって、それにしたがって発想するみたいな形でしょうか?
美郷:
連想のパターンは特に決まっていません。本歌に応じて自由に詠んでいるつもりです。
――使っているツールとして類語辞典が出てきましたが、短歌を詠む際その他何か使っているものはありますか?
美郷:
類語辞典といっても私の場合、紙の辞典ではなくネット上のフリーのものを使っています。
文語を使いたい時には古語辞典を使うこともあります。これもネット上のフリーのものを使っています。あとは題詠やいちごつみのときなどはコロケーションを調べる時もあります。
――コロケーションを調べるというのは、ネット検索でその言葉を調べて関連しそうなものを調べるということですか?
美郷:
コロケーション辞典というのがありまして、たとえば「海」というお題の時、「を渡る」「で泳ぐ」「がたゆたう」など海にまつわる言葉がたくさん出てきます。景が思いつかない時にその補助として主に使っています。景がはっきりしているときはあまり使いません。
――例えばこんなサイトでしょうか?
日本語コロケーション辞典
https://collocation.hyogen.info
美郷:
そういったものです。挙げられたサイトのは青空文庫の表現からとったものなので、多少注意は必要ですが、表現が思いつかない時の参考にしています。
――短歌は紙に記録しますか?それともスマホでしょうか?
美郷:
詠むときはスマホが近くにあればスマホのメモへ、パソコンが開いていればExcelへ、紙のノートがあればそこへ書きます。特にこだわりは無いですが、たぶんPCで作るのがいちばん早いですね。その次がスマホ、ノートの順だと思います。最終的にはすべて記録のためExcelに落とし込みます。
――完成した作品は最終的に全部Excelで保存しているんですね。基本時系列で記録しているのでしょうか。短歌以外に保存している情報ってありますか?
美郷:
はい、基本的に時系列です。どこに発表したか、いちごつみならその相手を記録してますね。推敲したあとのものもExcelに書いています。
――推敲した後、古いものもExcelに残してるんですね。
作品増えてくるとバージョン管理が大変になってきますけど、そのあたりどうされてるのかなというところにも興味あります。
美郷:
私の場合、推敲前のバージョンも残しています。あとで見た時やっぱり初期ロットがいちばんいい…と思うこともあるので念の為に。
助詞を変えるとか少しの推敲の場合は上書きしちゃいますが、順序を変えたり表現を付け足したり、逆に消したりするものは残しています。
いまのところ即詠が多いので、そもそも推敲自体する数が少ないためできることかもしれません。
――ありがとうございます。今回もたいへん参考になりました。また疑問がでてきたら質問させてください!