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#12【1記事¥100】Forget me Blue 【連載小説】

【会社員×両性具有の管理人】寂れた商店街の一角にある駐車場の管理人であるイチは、ある日訪れた時間貸しの客、佐村さむらと出会いすぐに惹かれていく。しかしどこか陰のある彼には悲しい過去があって——。

 翌朝、佐村は先週休んだガブちゃんの絵画教室へ行った。彼はイチが心配だから今日も休むと言ったのだが、行けるときに行っときなさいよ、と送り出した。色色あって都合が付かない場合も屢屢しばしばあるから、出来るだけ授業には出た方が良い。
「久しぶりに兄ちゃん独り占め出来る〜」
 語尾に音符マークでも付いていそうな口調で未央がそう言って、イチは眉を寄せた。それからはあ﹅﹅とため息を吐いて言う。
「ハロウィンの衣装作りには取り掛らんで良いんか? まだ日日ひにちはあるけど……」
「兄ちゃんは俺にどんな仮装して欲しい?」
「え? 俺の意見参考にすんのか」
 佐村を見送った後、イチは受付で未央と駄弁だべっていた。彼はイチが退院したのが余程嬉しかったのか、金曜からずっとこの調子である。
「最近のハロウィンって、『地味ハロウィン』っていうジャンルあるだろ。一般人が一般人に仮装するやつ。俺、あれの写真見るの好きなんよな」
「ああ、地味ハロウィン! 面白いよねー。俺のフェイバリットは、何年か前にあった『葬式の買い出しに行って来た人』と『ネットで出会った男とオフ会しに来た女』」
「またマニアックだな……」
 「地味ハロウィン」とは毎年ハロウィンの時期にミニブログのツ◯ッターでバズっている﹅﹅﹅﹅﹅﹅ハッシュタグ(※特定の話題についてツ◯ートするときに付ける目印のこと)だ。よく見かける人(何かをしている人)に仮装﹅﹅するそれは、解説が無いと分からないものも多いが、コア﹅﹅なテーマのものは笑える。
「でも皆が派手ハロウィンの中、地味ハロウィンするんもなあ……」
「せやな。やっぱ、人気のキャラクターとかが良いんじゃね?」
 そうアドバイスすると、未央は腕組みしてうーんと唸った。一方イチは、今年はどんなものが流行ったのだろう、と考えた。けれどもテレビを観ないし、アニメにも興味が無いから全く流行のものを知らない。
「俺の体型から言うと、細身のキャラが良いかな……」
「『ウィーリーを探せ』のウィーリーとか?」
「使い古されたネタじゃん。目新しいのが良いなあ……」
 イチは「そうか?」と首を傾げた。そもそも日本人がハロウィンでお祭り騒ぎをするようになったのはここ数年のことだから、よく知らないのである。
「兄ちゃんは仮装しないん?」
「は!? 仮装してどこ行くんだよ……しかも腹がデカいのに」
 何を言い出すんだ、と呆れていたら、未央はくすくす笑って言う。
「佐村さんが仮装したら面白そうだよね。イケメンキャラクターなら何でも似合いそう」
「何か、学生時代に文化祭で『白馬に乗った王子様』役はやったって、前に言ってたな……。白タイツにカボチャパンツ穿かされたって」
「ギャハハ、何それ!! めっちゃ似合ってそうで笑える!!」
 イチがそう言うと、未央はしばらく腹を抱えて笑っていた。そんなに笑わんでも、と思ったが、ライバル﹅﹅﹅﹅が妙ちきりんな格好をしているところを想像したら楽しいのだろう。
 それからイチは二階のリビングに上がり、手動のコーヒーミルで豆を挽きコーヒーを淹れた。未央と祖父の分も合わせて三杯分だ——小さなトレイに載せると、まず祖父の元へ運ぶ。
「じーちゃん、コーヒーどうぞ」
「おお、ありがとう」
「お茶菓子は何にする? オラオ﹅﹅﹅(ココア味のクリームサンドクッキー)あるけど」
「じゃあそれ貰おうか。でもいっちゃん、こんなのしねぇでゆっくりしててくれよ」
「はは、大丈夫だよ、コーヒー淹れるくらい」
 イチは自分を気遣う祖父に笑ってそう応えると、納戸に菓子を取りに行った。
 そうして未央にもコーヒーを運んだ後、イチは自分のカップを持って祖父の隣に腰を下ろし、スマホを弄り始めた。萌絵と約束したワイヤレスカメラを探すつもりだ。
「お、これ良いな」
 密林ア ゾンのアプリで検索したら、すぐに適当な商品が見つかった。中華製品だが、小型の隠しカメラで夜間も撮影出来る。六千円で、屋外用のワイヤレスカメラは大抵一万円以上するからかなり手頃だ。
「レビューもまあまあだし、これで良いかもな……」
 他にも色色商品を見た後、イチはそう呟いて小型隠しカメラを注文カートに入れた。お早い便﹅﹅﹅﹅にしたから、明後日の午前中には届く。ふうと息を吐くと、萌絵宛てのラ◯ンメッセージにカメラを注文したことをしたため始めた……。

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