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#9【1記事¥100】Forget me Blue 【連載小説】
【会社員×両性具有の管理人】寂れた商店街の一角にある駐車場の管理人であるイチは、ある日訪れた時間貸しの客、佐村と出会いすぐに惹かれていく。しかしどこか陰のある彼には悲しい過去があって——。
明くる日の日曜は、午後三時からイチが入院する予定だったから、佐村はガブちゃんの絵画教室を休んだ。
「さてさて、お粥出来ましたよ〜」
「おお、ありがとう。しっかし、七分粥だけだと腹減るな……」
手術の前前日の夕食から七分粥を食べ、整腸剤と下剤を飲むように指示されていた。朝の八時過ぎ、佐村の運んで来た丼を受け取ってそう言ったら、彼は眉を寄せて「俺だけ普通のご飯食べてごめんね……」と謝った。
「サムさんは俺のチアリーダーだからな。しっかり食べて元気に応援して貰わんと」
「あはは! ポンポン持って踊らないとね!」
「想像したら、ちょっと凄い図だな……」
佐村がチアリーダーのユニフォームを着てダンスする様子を想像してしまい、イチは微妙な顔になった。結構似合いそうだからかえって笑えない。
「それじゃあ俺は、味噌汁にご飯と沢庵、それから目玉焼きをいただきますよ〜」
「何かいつもよりシンプルだな」
「食べるのが自分だけなら手抜きでOK!」
「はは、何だそれ」
イチは粥を匙で掬いながら笑ったが、いつも自分のために頑張ってくれているんだな、と思って感謝した。だから素直に「いつも美味しいご飯作ってくれてありがとう、サムさん」と言った。
「良いの、良いの。俺の楽しみでもあるからね、イチにご飯作るの。美味しい美味しいって食べてくれる人が居るの、最高だよ」
「はは。来年の春には、食べる係が二人に増えるしな。そうちゃんは暫くはおっぱいだけど」
「そうそう、そのためにも頑張ろう! って、イチばっかり大変だけど……」
言葉の途中からしょんぼりした佐村を見て微笑むと、イチは優しい声で言った。
「サムさんが待っててくれると思ったら、手術も怖くないぜ。それに、お腹にはそうちゃんが居るしな。一人じゃない」
「そうだね! イチだけじゃなくてそうちゃんも頑張るんだった! パパだけ楽してる……」
「そんなことないぜ。パパには手術の後、しっかり看病して貰うつもりだからな」
「はい! お任せ下さい!」
イチの言葉に佐村はきりっとした表情で敬礼したから、あははと声を上げて笑った……。
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