敬老の日2023限定SS「魔除け」
イチが十歳の時、一と離婚した笑美は家を出た。それからは、盆暮れ正月には顔を出していた彼女の実家にも行かなくなった——だから、イチにとって祖父母といえば喜一郎と小さい頃に亡くなった美代子のことなのだ。
「え? じーちゃんとばーちゃん? ええと、最後に会ったのは一昨年の夏位じゃね?」
「ええ、そんなに会ってないんか……こっちに進学したのに」
「来いとは言われてるんだけどさ。勉強が忙しいって断ってる」
「おいおい……」
未央は平日にも駐車場に顔を出すから、火曜の夕方の今もイチと祖父と並んでソファに腰を下ろしていた。期間限定のチョコペイショコラモンブラン味を頬張っていた彼は、イチの質問にあっけらかんと答えた。
「だってじーちゃん家ってケムいんだもん。あの人、若い時からずーっと煙草吸ってて良く肺癌にならないよね」
「まあ、ああいうのは体質だからな……」
話題に上っているのは、兄弟の祖父である正のことだ。彼の妻である祖母は幸子といって、T県西部のちょっとした山奥に住んでいる。母親の笑美と同じで、同じ孫でも彼らは未央だけ気に掛けてイチには連絡して来ない。そして、そんなことには慣れっこになっているイチが彼らの近況を尋ねたのは、生まれて来る聡一の破魔弓や五月人形のことを調べていて、すっかり仕舞い込んでいる自分のものは彼らから貰ったのを思い出したからだ。
「もしかして、じーちゃん達に会いたいん? 兄ちゃん」
「まさか。破魔弓とか五月人形とか、そういえばじーちゃん達がくれたんだなって思い出して」
「おう、いっちゃん。どんなのが良いか今から考えといてくれよ」
「ありがとう、じーちゃん。マンションだし、コンパクトなのが良いな」
イチの言葉に、スマホでSNSのイン◯タグラムを見ていた祖父が顔を上げそう言った(本来は一から貰うものだが、祖父も出資すると申し出た)。それにイチは笑顔で礼を言うと、腕組みをして希望を述べた。一方、未央は然程興味が無い様子で、「まあ、場所取るもんねー」と相槌を打ちながらチョコペイの最後の一欠片を口に放り込んだ。
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