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全身麻酔手術を受けたら精神と時の部屋に放り込まれた挙句、遺言状を書きたくなった話(長文)


前フリ

この夏、変形股関節症の治療のため、人工股関節への置換手術を受けた。

置換手術は大腿部を20センチほど切開し、股関節を切断し人工股関節と取り換えるというガチの改造手術で、手術時間はおよそ1時間半。
当然ながら全身麻酔で行われる。

手術自体は帝王切開を2回やっているので、なんとなくイメージはついていたが、全身麻酔手術は今回が初めて。知識としては

・寝ている間に終わる
・術後は痛い

ぐらいしかない(雑だな)
とはいえ二度腹切ってるんだし大丈夫でしょ、ぐらいの気持ちで手術に臨んだ。

手術は朝9時開始予定で、8時半過ぎに病室を出た。
手術室には看護師さんと一緒に歩いて入り、自分でストレッチャーにあがる。手術室にはひと昔前のポップスが流れており、緊張感や緊迫感はほぼなし。オールステンレスで食品工場っぽい雰囲気もある。いやむしろ屠s(やめなさい

手術室のスタッフもみなさんにこやかで、こちらの緊張をほぐすためか和やかにお話してくださる。
その間に手際よく点滴や何やらが取りつけられ、口に酸素マスクが乗った。
「では麻酔にむけて呼吸の練習をするので、深呼吸してくださーい」
へー練習なんかするんだ。帝王切開の時は背中から麻酔だったからそんなのなかったな…

精神と時の部屋へようこそ

病室のベッドの周りのカーテン、開けていたはずだったのに全部閉じていた。
窓の外は明るい。
喉と唇がガッサガサで、手術予定の太ももがめっちゃ痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い。そして何かで固定されていて動かない。
ベッドの横に血圧と脈を測る機械が鎮座している。反対側には点滴のパックがぶらさがっている。

おやこれは…??

ほどなく看護師さんがやってきて、手術が終わったことを教えてくれた。
早っ。
とりあえず、とてもとても痛い旨を伝える。
想定内だったのか、サクッと痛み止めの処置をしてくれたあと、預けていたスマホを手渡してくれて
「ゆっくり休んでくださいね、何かあったら呼んでください」
にこやかに笑む。天使どころではなく神である。
背中を見送ってスマホの時計を見た。12時半。 

おーい4時間ちょっとどこに消えた。すごいな全身麻酔。
しかし思いのほか動けないな。寝返りも打てないのでスマホ長時間見るのもキツイ。

人工股関節置換手術は予定手術なので、予後が正確に予測されており、患者にも伝えられている。
術後翌日には車椅子での移動ができるし、朝ご飯(7時30分)も食べられる。
つまりこの寝たきり状態は17時間30分限定なのだ。
痛み止めが効いてきて、頭もぼんやりしている。
これは寝てワープするのが得策やね。

自分で言うのもなんだが、私は「おやすみ3秒」のアビリティ持ちである。
ホットヨガの仰向けのポーズの途中で寝落ちもするし、路線バスで寝過ごして車庫まで運ばれそうになったこともある。
そんな寝落ちのスペシャリスト所以、術後もこのアビリティは問題なく発揮され、すぐ眠りに落ちた。

咳き込んで目が覚めた。
時計を見る。12時40分。

え??????

まだ水は飲めないので、気を取り直してもう一度目を閉じる。
アビリティ発動。

咳き込んで目が覚めた。
時計を見る。12時50分。

再度トライ。アビリティ発動。
13時。

懲りずにトラ(以下同文)
13時15分。

ん? ここは精神と時の部屋ですか??
もしくはタチの悪いデバフですか?

悪魔に縋ったが愚かな夢と散った

今更であるが、身動きができない状態で眠れない、というのはかなり詰んだ状態である。
しかも!

・酸素マスク
・血圧/脈拍計測のコード(時々ピーピー騒ぐ)
・点滴
・麻酔の管(背中)
・酸素飽和度チェック(指先)
・血液循環させるためのポンプ(両足)※常に騒がしい
・排液ドレーン(手術した個所)
・尿管

なんかいっぱいついてて、非常に邪魔くさい。そして装着感だったり駆動音だったりがジワジワと不快。不快指数★★★★☆☆☆☆☆☆ ぐらい。

幸い上半身は動くので、スマホは触れるのだが
動画を見続ける、漫画を読み続けるなどの体力はないようで、続かない。

じゃあ音楽を聴こう!弱ってるときは己の原点に帰るに限る。聖飢魔Ⅱ!!
ヘヴィメタルは赤ちゃんをも安眠に導く癒しの音楽です!!

でででっでーーーーーーん(シンバル)
でっでー でっでーででででー でっでー でででーん

何百回聞いたかわからない創世記のイントロ半ばでアビリティ発動。
閣下殿下和尚参謀代官長官おやすみなさい…

しゅーーーーーーくふくーーーーーをぉーーーーーーあたーーーーーえよーーーーーー
おぉおおぉおぉぉおーーーーー
※↑の大教典(アルバムのようなもの)は全編英語のセルフカバー版で実際は英歌詞です

えっ?まだダミアン陛下のお誕生祝い??(=2曲目終盤)
時計を見る。 13時半。

なんというゼウスの妨害でしょう。
医療的金縛り解放予定まで あと16時間。


さらに向こうに?

とりあえず大教典は1枚全部拝聴した。
だいたい1曲目のサビに入る前に入眠し、2曲目の終盤(ギターソロ終わったへん)で目が覚めるパターンを踏んだ。
眠りが維持できない原因は、咳き込みと喉の渇き。全身麻酔のあとは乾くらしい、を知ったのは回復してからの話。

しかしまだ14時すぎ。時間経つの遅すぎである。
何とか睡眠ワープをキメたい。
そうだ、入眠に特化したプログラムを聞こう!!

ということで、フリートライアル中のオーディブルアプリを開く。
入眠ド定番の、羊を数えるが見つかった!
人気声優さんが数えてくれるらしい。

最近の声優さん、あんまり知らないのだけど
山下大輝さん、この人は知ってる。ヒロアカのデクくんの人だ!

デクくんが羊を数えてくれるのは4分間ぐらい。
頼むよデクくん、さらに向こうに連れてって。プルスウルトラだよ…!!

ひつじがいっぴき…ひつじがにひき…

アビリティ発動。
おそらく目が覚めたタイミングでデクくんはいない(=再生終了している)はず。

ひつじがにじゅうさんびき… ひつじが…

いるんかい!!!!!
チンタラ数えてるんじゃねえこのクソナードがあああ!!!
※リピートがONになってただけなので、完全に言いがかりです。デクくんすまんかった。

時計を見る。 14時半。
医療的金縛り解放予定まで あと15時間


寝落ちワープが少し進化

手術直後ということで、ナースコールを押さなくても看護師さんが頻繁に来てくれる。
およそ1時間ごとで来てくれるな…と来訪ペースを掴んだころ、腸が動き始めたとの診断で、水分の摂取がOKになった。
「喉乾いて辛かったですよね~」
白衣の天使ならぬ神が手渡してくれたストロー付きキャップをつけたペットボトル(あらかじめ冷蔵庫に用意)受け取る。
いつの間にか病室には西日が深く差し込んでいた。時刻は16時半。

飲む。
沁みる~~~~~~~
五臓六腑に染み渡るぅ~~~~~~~~!!

これで喉乾かなくなるから、ぐっすり寝れるよね…
期待しつつアビリティ発動に身を任せる。

足についているポンプが稼働する感覚で目が覚めた。喉もしっかり乾いている。
時計を見る。16時50分。

いやいやいや!!若干伸びたけど!!

とはいえショートワープが10分おき→15分~20分おきに進化したのは、気持ち的に少し楽になったのも事実で。
一方でアビリティの再発動(リキャスト?)には時間がかかるようになったため、オーディブルでコンテンツを片っ端から探す。
大教典とデクくんで
・時間の経過がわかるものは、その遅さに瞬時に絶望してしまうのでよくない

ということを学んだので、全く知らないファンタジー小説の朗読を試してみることにした。
主人公と主人公の父親とお付きの者が峠を越えてどこかを目指すところからスタート。
2人のバックグラウンドがぽつぽつ語られ始めた(貴族かお金持ちっぽい?)ところでアビリティ発動。

機械のピーピー鳴る音で目が覚めると、お付きの者はパーティーを抜けようとしていた。
行き先が呪われた土地っぽいから、らしい。
時計を見る。17時20分。
お付きの者、冒険開始から30分弱でリタイアである。NPCにしてもかなり早い離脱だ。
先が気になるのでそのまま聞き続ける。親子は旅を続行するらしい…がんばれー。私もがんばる。

世間様はゴールデンタイムですが

いい匂い。
大きなワゴンが音を立てて廊下を進むのが聞こえる。
私は術後絶食なので関係ないが、病棟的には夕食の時間らしい。
この次ワゴンが来たタイミングで、この医療的金縛りは終了する。
あと13時間ちょっと!!    遠いなぁ…

点滴が入っているし栄養的に絶食でも問題はないはずで
実際特に空腹ではなかった。しかしエンタメとしてご飯は食べたい。
人間が1日3食食べるのは心身の栄養補給のためなんだな、と今更ながらに気づく。
だいぶぬるくなった水を飲む。まぁないよりはいい。

その水も600mlのペットボトル1本しかなかったので、途中で枯渇することを恐れていたが
白衣の天使ならぬ神に依頼をすると、病棟内のウォーターサーバから汲んできてくれることが判明したので安堵した。
相変わらず20分おきに咳き込みやら体についている装置の影響で目は覚めるものの、水の残量を気にせず飲めることは、お気持ち的に幾分楽である。

夕食も終わりいわゆるゴールデンタイムに突入したようだ。
真夏ということもあり、感染対策ということもあり、病室の扉は開放されていて
周辺の病室からテレビの音や会話する声が近く遠く聞こえてくる。
隣室の若者は、夕食の豚丼の肉が薄くてカッサカサだったことが大層お気に召さなかったらしい。
そうだよね…豚丼なんて献立名にするから期待値上がっちゃったんだよね…
朗読に少し飽きてきたので、それらを聞くともなしに聞きつつ短い眠りを繰り返す。

あーーーーー暇だなーーーー動きたいなーあと朝まで何時間だっけ…(答え:約12時間)

この状況は将来的に全力でお断りしたい

病棟の夜は早い。21時半には真っ暗になり、静けさに包まれる。
消灯前に看護師さんが来て痛み止めの点滴を入れてくれたおかげで、それほど痛みはない。
各種機械の挙動と、自身の動きが制限されているせいで地味に不快なのは続いている。
これもあと12時間を切った。もう一息!(一息か?

しかし!ここにきて昼間さんざんうとうとしていたせいでおやすみ3秒が発動しなくなってきた。
仕方ない、Xのタイムラインでも見るか… と思った瞬間

スマホが床に落下した。

もちろん自力では絶対に回収できないので、看護師さんに依頼するしかないのだが、この用件でナースコールを押すのは私的にはナシであった。
だって体には何も影響ないからね…

昼と同じスケジュールなら、1時間後にはやってくるはず。
しばらく待とう。
待ってる間本当に何もすることがないので「もし有り余る金があってインフラの行き届いた自分だけの無人島を整備するとしたら」のお題で住まいの建築計画やテナントの出店計画を妄想する。

昔は絶対ケンタッキー外せないって思ってたんだけど、今はコメダ珈琲の方がいいかな
温水プールとホットヨガスタジオが欲しいな
お部屋からダイレクトインできる露天風呂があるといいよね… 
※ディテールがつくづく庶民

だいぶ妄想した。
どのぐらい経ったんだろ? いま何時?
知るすべがない。
せめてコチコチ音のする掛け時計でもあればいいのだが、そんなものもない。
自分の現在地が測れない、先の見通しが立たない、そして身体が微妙に不快な状況であるにも関わらず自力で動かせない という状況に焦る。

1時間以内に看護師さんは来る、そして翌朝には動けるようになることは確定しており
この状況は極めて一時的なものなのだが、それでも不安!!
や~~どうしよう、呼んじゃうか、でもなぁ…

「痛いとこないですか??」
きたーーーーーーーーーー!!!!
どうやら近所の部屋の方がナースコールで召喚→術後すぐなので立ち寄って下さったらしい!ありがとう隣人。
無事にスマホを拾ってもらえたので、二度と同じ轍は踏むまいと首からストラップをかける。
世界を測るすべと明かりとエンタメが私の手に戻ってきた!!!

安堵しながら考えた。
いやこれさ、動けなくて、体になんかいっぱいついてて地味に不快で、妄想するしかないっていう状況
期間限定ってわかっててもこんなにしんどいのに
延命治療とかで終わりが見えない状況でずーーーーっとってわりに最悪じゃない?
いや、終末期だと体の状態今より悪いだろうし、切実に痛いとか気持ち悪いがマシマシかもしれない。
まぁ眠っちゃってるのかもしれないけど、もし眠れてなかったら?

ないわー ほんとないわー
そりゃさ、災害で土砂に生き埋めとかでもあり得るけどさ
ほとんどの人間は病院で生まれて病院で死ぬわけで。
であれば今回の虚無に類似する(というかおそらくはそれの上位互換。ヤな方の)終末期医療は絶対に受けたくないことない??

そもそも両親と姑を見送った経緯から、いわゆる延命治療には否定的だったが、自分事として「全力でお断りします」と心底思った。いやマジで嫌なので。語彙力なくてアレだが理屈でなく体験ベースでヤだ。
これは夫氏と娘たちと弟にしっかり伝えないと……!!

手元に戻ってきたスマホで「延命治療 拒否 書き方」などをポチポチ検索。
なるほど、公正証書で残す方法とか尊厳死の協会とかがあるのね。

落ち着いたら詳しく読もっと。
安心したのか、急に眠くなってきた。このままおやすみ3秒して朝まで眠れるといいな。
喉が渇かないようにお水を飲んで…

アビリティ発動。

唇がカッサカサで目が覚めた。
時計を見る。22時30分。

…やっぱそううまくはいかないよね!!!

医療的金縛り解放予定まで あと9時間。
なっが!! クソなっが!!!

長い夜はまだまだ続く…。(おわる

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