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里親の話|自分を守る力|私の夢
今回は、施設に行くことになった時の話から、里親と一時的に過ごした話、今に至るまでの話をしようとおもいます☻
施設へ行くことが決まったのは、小学三年生の冬のことです。
母から「しばらく別々に暮らすことになるから」と告げられた時、私の心は混乱と恐怖でいっぱいになった。
何が起きているのか、どうしてそんなことになったのかが小さい私には到底理解できなかったのです。
ただ母の顔はいつも疲れていて寂しげで、それでも何かを決断したかのような固い表情をしていたことだけは今でもはっきり覚えています。
その日から私の世界は大きく変わりました。
母の手を離れて見知らぬ人に見知らぬ場所へと連れて来られた私は、児童養護施設で暮らすことになりました。
施設の建物は広くて、たくさんの子どもたちの笑い声や泣き声が聞こえてきたけれど、やっぱり私にとってはどこか冷たくて居場所がないように感じました。
母と一緒に過ごしていた古い小さなアパートの、狭いけれど暖かい空間が恋しくて無意識に考えてしまう時間が増えました。
最初の夜、これからどうなっちゃうんだろうな〜って考えてたら不安で、ただ不安で、鬱陶しくも私は布団の中でずっと泣いていました。
隣のベッドの子が「どうしたの?」と声をかけてくれたけれど、未熟な私にはうまく言葉にすることすらも出来なかった。
母と別れてから自分の胸の中に大きな穴が空いたようで、それが何をしても埋まらなかった。
食堂で出されるご飯は温かくておいしいはずなのに味がしなかったし、みんなと一緒に遊ぶ時間もただ流されるように過ごしていました。
そんな私にも少しずつ変化が訪れて、施設の先生たちは親身に話を聞いてくれるし、私が泣いているとそっと抱き締めてくれた。
ある先生が「何があっても、ここではみんながふうかちゃんの味方だからね」と言ってくれた時に、思わず我慢してた涙がまたたくさん溢れました。
その言葉は、私が求めていた『安心感』そのものだったんです。
施設では同じ境遇の友達とも出会いました。
みんなと話す中で、それぞれいろんな事情や悲しみを抱えていることを知りました。
ある子は「ここに来た時は、私もずっと泣いてたよ」と、きっと悲しい気持ちは消えてないのに私のために笑いながら話してくれて、それを聞いた時に私だけが辛いわけじゃないんだと心が軽くなったのを覚えています。
けれど最後まで、ここが私の家だと思える日はやはり一度も来なかったです。
どんなに慣れても施設の部屋やベッドは自分のものには感じられなかったし、ただ一時的に身を置いている場所という感覚が消えなかった。
夜になると、布団の中で母のことを思い出しては、泣きながら「早くここを出て自分だけの場所を作る」って言い聞かせました。
児童養護施設での生活は、私という人間を大きく変えました。
自分が何者なのかを問い続け、どう生きていけばいいのかを模索する日々だった。
楽しいこともあったけれど、私の心の中には常に戻れない場所へ未練と進むしかない未来が待っていて、それがまだ小さかった私にとっての唯一の現実だったんですよね。
中学二年生の春、施設の先生に個室へ呼ばれました。
「ふうかを迎えたいっていう里親候補の方がいらっしゃる」と言われ、心の中で小さな期待がふくらみました。
里親という言葉に、私はどこか憧れを抱いていた部分があります。
テレビや本で見るような普通の家庭の暮らしが自分にも訪れるのかもしれない。
お父さんとお母さんがいる温かい家があって、家族でご飯を囲むような、そんな日常が手に入るかもしれない。
そんな期待から、すごく心臓がドキドキしていました。
顔合わせの日、施設の応接室に来てくれたのは穏やかな雰囲気のご夫婦でした。
奥さんはすごく優しそうな笑顔を浮かべていて、明るい花柄のワンピースがよく似合ってた。旦那さんはスーツ姿で、胸にはきらりと光るバッジが付いていました。物静かだけれど、笑いながら丁寧に挨拶をしてくれました。
初めての対面で緊張していた私に、奥さんが「ふうかちゃんよろしくね」と優しく声をかけてくれて、その声に心がほぐれてやっと少しだけ笑えました。
その後はご夫婦と何度か顔を合わせる機会があって、施設の外で一緒に食事をしたり、大きな公園を散歩したりする中で、少しずつふたりのことを知っていきました。
奥さんはとても明るくて気遣いのできる方で、「ふうかちゃんが何が好きなのか教えてほしいな」と何度も尋ねてくれた。
そのたびに、自分のことをちゃんと知りたいと思ってくれる人がいることが嬉しくて、心が温かくなった。
一方で旦那さんは、あまり自分の多くを語らない人でした。口数が少なくて、時折じっと私を見つめるその視線に少し戸惑いを感じていました。
けれど、「人見知りな男性ってこういうものなのかもしれない」と自分に言い聞かせてた部分もあります。
彼が奥さんに向ける態度は穏やかで、ふたりが仲良く話す様子を見ていると、理想の夫婦像のように思えて羨ましかったです。
ある日、ご夫婦が「ふうかちゃんを私たちの家に迎えたい」と話してくれたとき、胸がじんわりと熱くなった。
長い間夢見ていた家族の一員になれるのかもしれない。
その一方で、不安も大きかったです。本当にうまくやっていけるのか、また失望することになるんじゃないかって考えばかりで頭がいっぱいでした。
でも奥さんの優しい笑顔を見ると、この人たちなら信じられるかもしれないと、心の中ですごく喜んでいる自分がいました。
一度くらい自分の人生に期待しても良いのかなと…。
それから数週間後に、ふたりのお家を訪れることになりました。
玄関に足を踏み入れた瞬間、ふわっとした甘い香りが漂ってきて、聞いたら奥さんが焼いたクッキーの匂いでした。
「ふうかちゃんのために焼いてみたよ」と嬉しそうに微笑む奥さんにお礼を言う私は、きっとぎこちなかったと今では思います。
広いリビングには温かみのある家具が並んでて、窓からあったかい日差しが入り込む家は、私が描いていた普通の家庭に近い理想そのものでした。
ここまで来ても、私の心の奥には小さな違和感が残っていました。
旦那さんの沈黙だったり、時折感じる冷たい視線が私の胸の中でくすぶっていて、でもそんな気持ちは自分の考えすぎだと押し込めることにしました。
私は新しい生活に希望を持とうとしていたし、何より家族を手に入れたいという願いをどうしても諦めたくなかった。
あの時に里親のご夫婦と出会ったことは、私の人生の大きな転機でした。
希望と不安が混在する複雑な感情を抱えながら、私は新しい生活を受け入れる準備をしました。けれど心の奥でくすぶる小さな違和感が、この後の私の人生に影響を与えることになるとは、このときの私はまだ思いもしなかったです。
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