高値安定?デフレ脱却?
資源エネルギー庁石油情報センターが発表した11月8日現在のレギュラーガソリンの全国平均小売価格は1リッターあたり169.0円。10週連続の値上がりで7年3ヵ月ぶりの高値水準です。また日本銀行が11日に発表した10月の国内企業物価指数は前年同月比8.0%上昇と40年ぶりの伸び率になりました。原因は原油価格の上昇や円安の進行ということですが、じわりじわりと消費者物価にも響いてくるのでしょう。
サウジアラビアが主導するOPEC(石油輸出国機構)とロシアなどの主な産油国で作るOPECプラスが、このまま減産を維持し価格の高止まりが続けば、日本の消費者物価も徐々に上がり高止まりする可能性も出てきます。これってインフレ?ということはデフレ脱却なのでは?違うのでしょうか?
「デフレ脱却」とはどういう意味か?ネット検索した「知恵蔵」の解説によると「デフレ脱却とは、継続的に物価が下落していく状況を抜け、再度そのような状況に陥らないと見通せること(一部抜粋)」なんて書いてあります。OPECに頑張って貰えばデフレは脱却できるのでしょうか?多分、違うのでしょう。
評論家の中野剛志さんは、ダイヤモンド・オンラインで、
https://diamond.jp/articles/-/230841?page=4
「デフレとは「需要不足/供給過剰」の状態ですから、人々が消費や投資を増やして、需要を増やせばいい。そうすれば、デフレから脱却して、景気はよくなって、経済成長が始まります。」「デフレ下では、節約するのが経済合理的ですから誰も消費・投資をしないので、需要と供給の差(デフレ・ギャップ)は絶対に埋まりません。だから、デフレなのに、とんでもない金額のおカネを使う「大バカ者」が登場して、デフレ・ギャップを埋めてあげなければいけない。その「大バカ者」を「政府」というんです。」と話しています。デフレのときには支出を増やし、インフレのときには支出を減らすことで、経済を調整するのが政府の役割と言います。
ただ昔と違ってモノが溢れ、既に所有しているから買いたいモノがあまり無い。もうお腹いっぱいの状態で、少しずつ持っているものを新しいものに買い替えていくだけで十分だという消費者が増えているとしたら、無理に政府が支出を増やしても、一時的な需要が増えるだけで、根本的な「需要不足/供給過剰」は変わらない。つまりデフレ脱却にはならないと思うのですが、間違っているでしょうか。
少し古いレポートですが「生活経済政策2013年11月号」で経済学者の柴田徳太郎さんは「なぜ日本でデフレが起きたのか。その原因は内需不足にある。では、なぜ内需が不足するのか。格差が拡大しているからである。所得が富裕層に偏ると社会全体の消費性向は低下する。」と言い、「望ましいデフレ対策は次の2つである。[1]正規雇用の拡大と賃上げにより、労働分配率の上昇を実現すること。[2]消費税は生活必需品に軽減税率を採用し、所得税は累進性を高めるなど、財政の所得再分配機能を復活させること。」と結んでいます。
しかし、所得で低所得者、高所得者を分けた場合、「持っている、持っていない」の違いはどの程度あるでしょうか。携帯電話、パソコン、テレビ、洗濯機、冷蔵庫、自動車などなど低所得だから買えないというケースは少ないのではないでしょうか。確かに高所得者は高機能のiPhoneを使い、高級車に乗っているかもしれません。しかし、スマートフォンの個人保有率は20代、30代は90%以上です。自動車にしても年々所有率が下がっているのは若者のクルマ離れが一因と言われています。高度経済成長時代の皆が物に憧れた時代から、低成長時代の物に縛られないライフスタイルへの変化が需要不足を招いているとは考えられないでしょうか。
自動車の価格は、2014年頃から急激に上昇しています。これは他の自動車や歩行者などに衝突する危険性を察知して自動的にブレーキをかける運転支援システムなど、安全装備の充実が影響していると思われます。かつてはカーステレオやエアコンなど快適機能で付加価値を付けていましたが、今は安全装備の充実や運転の自動化などで付加価値を付け、利益を高めています。
トヨタ自動車が4日に発表した中間決算(国際会計基準)は、売上高は前年同期比36・1%増の15兆4812億円、純利益が前年同期の2・4倍超の1兆5244億円。中間決算としていずれも過去最高です。海外では今も新車需要は根強く、自動車価格の上昇がどれだけ好決算に寄与しているかはわかりません。ただ、物が売れない時代には、必要な人に付加価値をつけた高価格なものを提供する。物価は上がっていきますが、企業は利益をしっかりと確保し、労働者の所得を上げることで、モノの買い替え時には付加価値の付いた高価格なモノを購入してもらう。こうした循環が、デフレ脱却への道になると考えるのですが、的外れの議論なのでしょうか。