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【創作童話】おいしいから食べてごらん
ボクは小3のユウタ。名古屋に住んでいる。
冬休み、ひさしぶりにおかあさんの生まれた家に遊びにいった。休みに入る前、みんなにそのことを話したら、みんなうらやましそうだった。
「関東って東京があるとこでしょ? ゆうちゃんいいな、東京に行けて」って言うんだ。でもね・・・ちょっと違うんだ。
関東は関東でも、おかあさんの生まれた所は北関東。もちろん関東だけど・・・上に ”北” って付くだけで、優勝と ”準” 優勝くらい東京とは違うんだ。だって、おかあさんの生まれた家の近くにはビルなんて全然ないから。
おかあさんの生まれた家には、おじいちゃんとおばあちゃんとケンおじさんとおばさんとシンジくんが住んでる。ケンおじさんはおかあさんのお兄さん、シンジくんはボクのいとこで2学年上の小5だ。みんな、しんちゃんて呼ぶからボクもそう呼んでる。
ひさしぶりにしんちゃんと会ったとき、ボクは照れて少しモジモジしちゃった。でも、しんちゃんがボクを公園に連れて行ってくれて二人でキャッチボールしたら、いつの間にかモジモジが消えたんだ。ボクも、しんちゃんと同じ野球をやってよかったなって思った。しんちゃんはボクが捕りやすいように、わざと遅いボールを投げてくれたのもうれしかった。ありがとう、しんちゃん。
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そして、しんちゃんといっぱい公園で遊んだ後、しんちゃんの家に帰った。晩ごはんまで時間があったけど二人ともすごくお腹がすいた。そうしたら、しんちゃんが言った。
「ばあちゃん、お腹減った」
「元気に遊んでくりゃあ、おなかすくよ。じゃあ、どっちにする? 塩? それとも味噌?」
「味噌! あっ、ゆうちゃんのも味噌ね」
「ゆうちゃん、ちょっと待っててね」
おばあちゃんは急ぎながら台所に入っていった。
しばらくすると、おばあちゃんがお皿を持って出てきた。それを見てボクはビックリした。塩か味噌って聞くから、ボクは絶対にサッポロ一番だと思ってたんだ。それなのに・・・
「ゆうちゃん、おいしいから食べてごらん」
目の前にお皿を持ってきて、おばあちゃんが言った。
「これ・・・何? きなこ?」
「ハハハ。違うよ、お味噌、味噌おにぎりだよ。えっ? ゆうちゃん、味噌おにぎり、知らないの?」
今度はしんちゃんがビックリした。
「しんちゃん、名古屋の人って、お味噌大好きなんだけど、おにぎりにはしないんだよ」
小さいときからずっと名古屋にいるおとうさんが答えた。
「そうなんだ・・・知らなかった。味噌おにぎりって、日本中で食べてると思ってた」
「ゆうちゃん、今度おかあさんに作ってもらいなよ。おかあさんだって小さいときはよく食べてたんだから」
ケンおじさんが言うと、おかあさんは苦笑いした。
ボクもおとうさんと同じでお味噌の食べ物は好きだよ。味噌カツだって味噌煮込みうどんだって味噌おでんだってどて煮だって、みんな大好きだ。でもね・・・味噌をベトベト塗ったおにぎりなんて、そんなの聞いたことないよ。
本当においしいの? ボクはドキドキしながら挑戦してみた。パク、パクパク、モグ、モグモグ・・・あれっ?
「おいしい!」(あんがいいけるって感じのおいしいだ)
「よかった。ゆうちゃん、名古屋でみんなに広めてよ。新しいお味噌のごちそうだって」
「ねえちょっと、変なこと教えないでよ」
おかあさんはケンおじさんに怒った顔を見せたけど、目は笑ってた。
そうだ。家に帰ったら、味噌おにぎり、おかあさんに作ってもらおう。おばあちゃんのヤツと味くらべするんだ。でも、名古屋のお味噌に合うのかな? まっ、いいか。
おばあちゃん、ありがとう。おいしかったよ!