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[読む落語漫才] だくだく(当て書き:ギャロップ)

#オチの直前まで無料

#オチを予想してお楽しみください (6文字)

しゃべくり漫才のうまさは「相槌」で決まる
●漫才における「相槌」はそのときの雰囲気で自然に入れるものなので通常漫才台本には書きませんが,本格的な掛け合いのしゃべくり漫才をイメージできるようあえて細かい「相槌」を書き込んでいます。それが「読む漫才」です。

林:今日は
毛利:はいはい
林:最初に言っておきたいことがありまして
毛:最初に言っておきたいこと?
林:はい
毛:なんでしょう
林:オチ
毛:え?
林:漫才のオチです
毛:あかんやろそれは
林:あかんの?
毛:あたりまえやそんなもん
林:舞台に上がって言いたいことを言う
毛:え?
林:それが漫才やないか
毛:そうやけど
林:そやろ?
毛:漫才の最初にオチを言うのだけはダメに決まってるやろ
林:なんで?
毛:「なんで」て…お前オチって分かってる?
林:分かってますよ。今日の漫才のオチは「うっ…やられた」…
毛:いやそれほんまに言うたらあかんやつやん
林:どうせ言うんやからええやないかいつ言うても
毛:いやいやいや
林:何?
毛:いつ言うのかが大事ですからね
林:今でしょ!
毛:絶対今ちゃうわ!
林:オチは通常最後のほうに言いますけどね
毛:「最後のほう」やなくて一番最後
林:え?
毛:オチは絶対一番最後に言うって決まってんねん
林:一番最後だと
毛:何?
林:一回しか言えないということでしょ?
毛:何が?
林:僕はオチが大好きなんでね
毛:僕もオチ大好きですよ
林:何回も言いたいんですよ
毛:オチを?
林:大好きなサビのメロディーがね
毛:え?
林:
一回しか出てこなかったらがっかりするじゃないですか
毛:それは名曲の話やろ?
林:大好きなオチのメロディーも
毛:「メロディー」って言うな
林:何回も聴きたいと思うんですよお客さんも
毛:漫才の要所要所でオチを言うてもうたら
林:
うん
毛:最後のオチが落ちなくなるでしょ〜
林:それでも落とすのが漫才師やないか
毛:名言っぽく言うてるけど
林:これぞ名言や
毛:「好きだから最初にオチ言いたい」なんてね
林:何?
毛:漫才師として最低やからね
林:最低?
毛:最低ですよ
林:いいオチだったら何回言っても落ちますから
毛:「いいオチ」とかそういう問題ちゃうのよ
林:今日のオチは結構「いいオチ」なんでね
毛:もうほんまにやめて
林:何が?
毛:「今日のオチはいいオチ」とか言うたらほんまにあかんから
林:なんであかんの?
毛:あたりまえやん
林:「ほんまにいいオチを伝えたいな〜」いう思いを抱いて漫才する漫才師なんて素敵やん
毛:思いを抱くのは素敵なことかも知らんけど
林:そうやろ?
毛:それを言うてまう漫才師は最低やねん
林:内に秘めてたほうがええの?
毛:秘めてくれほんまに
林:分かりましたよ
毛:ほんでオチも先に言うてもうたら落ちないから絶対言うたらあかんから
林:分かったて。ちゃんと最後のほうに言うたらええんやろ?
毛:「最後のほう」やなくて一番最後や!
林:一番最後ね
毛:もうあなたそんなにオチが好きなんやったら
林:何?
毛:落語でもやっみたらどうなの?
林:落語?
毛:オチがある話
林:うん
毛:それが落語ですからね
林:実は僕もちょうどねぇ

毛:何?
林:「落語をやりたいなぁ」と思ってましてね
毛:ええやないか
林:今ここで
毛:今ここで!?
林:えぇ
毛:何を言うてんの?
林:何が?
毛:我々こうして二人で出てきてるわけやからね
林:こうなったら

毛:何?
林:二人でやろか?
毛:二人で!?
林:落語を
毛:落語というものはね
林:うん
毛:一人でやるもんですからね
林:分かってんねんそれは

毛:分かってんの?
林:僕は今日ね
毛:うん
林:一人で落語やろう思うてたんですよ
毛:一人で?
林:そしたらお前がここまであとをつけてきてやなぁ
毛:尾行みたいに言うな
林:尾行ちゃうの?
毛:近すぎるやろ尾行にしては
林:「この人尾行下手やな〜」思うたけど
毛:下手とかそういうレベルちゃうやん
林:ちなみに僕が今日やろうと思っていた演目はね
毛:落語の演目?
林:古典落語の
毛:古典落語
林:「だくだく」という演目なんですけどね
毛:だくだく?
林:みなさん知ってます?
毛:牛丼の話ですか?
林:「つゆだく」やそれは

毛:牛丼のつゆが「だくだく」って話じゃないんですか?
林:「古典落語や」言うてるやないか

毛:江戸時代にはもう牛丼ありましたからね
林:「つゆだく」言うてないやろ江戸時代には
毛:ほんなら何が「だくだく」なんですか?
林:血や

毛:血!?
林:血がだくだく出ちゃうというお話
毛:何それ?ホラー?
林:ホラーちゃうわ

毛:ちゃうの
林:「槍で脇腹突かれて血がだくだく出たつもり」という話や
毛:「出たつもり」っておかしいやないか
林:何が?
毛:槍で脇腹突かれたらほんまにだくだく血出ますよねぇ
林:槍で突かれたつもりで

毛:え?
林:血もだくだく出たつもりや
毛:何言うてんの?
林:そういう話やねん
毛:その「つもり」って何?
林:家財道具を全部売ってしまった男が壁一面に白い紙を貼ってやなぁ

毛:「だくだく」の主人公が?
林:そこに豪華な家財道具を描いていい暮らしをしてるつもりになっているというお話なんですけどね
毛:悲しいお話?
林:ある日その男が寝ていると
毛:主人公の男が
林:泥棒がやってきて盗もうとする
毛:家財道具を
林:
どれも壁に描いた絵やから盗みようがない
毛:ほうほう
林:そっちが「あるつもり」で暮らしているのなら
毛:家財道具が「あるつもり」で暮らしているのなら
林:
こっちも「盗んだつもり」になってやろうってことで
毛:泥棒のほうも
林:風呂敷を広げたつもりでそこにいろんなもの入れたつもりで盗んだつもり
毛:盗む物がないからね
林:それに気づいた男は「ずいぶん粋な泥棒だ」ということで
毛:寝ていた主人公の男も
林:泥棒と格闘するつもりで絵に描いた槍を持ったつもりで泥棒の脇腹に突き刺したつもり
毛:ほんで泥棒は
林:うっ…やられた。脇腹から血がだくだく出た…つもり
[拍手]
林:どうもありがとうございます。これを今から二人でやりましょう
毛:もう全部言うてもうたやないか
林:え?

毛:ほんで今オチも言うたやろ?
林:「脇腹から血がだくだく出た…つもり」。これが「だくだく」という演目のオチなんですよ。僕はこのオチが大好きでね

毛:だから「オチは言うな」言うてるやん
林:「だくだく」を「知らない」言うから

毛:僕が?
林:説明するしかないやん
毛:でもこれを今からやるんやろ?
林:やりますよ

毛:これからやるネタのオチを言うてもうたら「落ちない」言うてるやん
林:それは漫才の話やろ?
毛:何が?
林:これは古典落語やから
毛:知ってますよ
林:知ってる人はみんなオチまで知ってんねん
毛:そうかもしらんけど
林:知っているけど知らないつもりで聞く。それが古典落語のマナーですからね
毛:知らないつもりで聞いてくださるお客様のためにも最後までオチを伏せておく。それが漫才師のマナーやないか
林:落語やからこれは
毛:漫才やろこれ自体は
林:古典落語はオチがネタバレしてても落ちんねん
毛:落語はそうやけど
林:ほんならええやないか
毛:漫才のほうが「落ちない」言うてんねん
林:大丈夫や

毛:もしこれで落ちなかったら
林:漫才が?
毛:どうやって漫才終わらせんの?
林:オチがバレてるから落ちなかった場合?
毛:どうやって舞台下りたらええの?
林:謝って帰るしかないん違う?
毛:謝って帰る!?
林:「申し訳ございませんでした」って
毛:「ありがとうございました」やなしに?
林:まぁ大丈夫やから

毛:何が大丈夫やねん
林:それでも落とすのが…漫才師や
毛:カッコつけて言うてるけど,あなたちゃんと謝ってくださいよ
林:万が一落ちなかった場合?
毛:僕は謝りませんよ
林:分かった。お前は謝らなくてええから。とにかくやってみないことには落ちるか落ちないか分からないから

毛:やればいいのね?
林:やりましょう。古典落語 「だくだく」
毛:ほんならここが白い紙を壁一面に貼った部屋のつもりで,家財道具の絵を描くつもりの芝居をすればいいんですか?
林:そこからやると長なるから,もう絵はすでに書いてあるつもりで

毛:うん
林:そこに寝てるつもりの芝居をやってくれればええから
毛:ここで?
林:僕が泥棒になったつもりで入ってくると
毛:はいはい
林:で,最後に
毛:うん
林:壁に描いてあるつもりの槍があるつもりで,その槍で泥棒になったつもりの僕の脇腹を刺したつもりの芝居をすると
毛:「つもり」が多すぎてよう分からんけど,とにかくここで寝てればええんやな
林:寝てる「つもり」やからな

毛:え?
林:ほんまに寝たらあかんで
毛:分かってるわ。「つもりつもり」うるさいねん。ほんまに寝るわけないやろ漫才中に
林:ほんなら盗みに入るよ

毛:盗む「つもり」やからな
林:え?
毛:ほんまに盗むなよ
林:何を盗むねんこの状況で。最近はみんなしっかり戸締りしてるから入るのに一苦労…ん?…この家ドア開けっぱなしやないか。こんな時間やからな。人がいるとしても寝てるやろ。間抜けな奴やな。どれどれっと。ん?なんやあれ?ずいぶんと高そうな家具が並んでるやないか。あっ…案の定寝とるなあいつ

毛:ん?誰や?え?泥棒ちゃう?うわっ…大変…ってこともないか。うちには取られるもんなんてなーんもないからね。家財道具は全部絵やから。それにしても間抜けな泥棒やな。なんもない家に入ってきて何盗むねん。おもろいことになりそやないか。ここは寝たふりをしてと。見物や見物や
林:おっ…ずいぶんとええタンスやないかこれは。ええタンスの中にはええ預金通帳が入ってんねん。どれ。あれ?滑んなぁ。滑ってつかめな…ん?絵ちゃう?これ。壁にタンスを絵描いてんの!? なんやこいつ。どういう趣味してんねん。え?まぁええわ。あそこに金庫がありますからね。しかも開いてんねん。家のドアも開けっぱなし。金庫も開けっぱなし。ほんまダメな奴やな〜。しかし入ってるねぇ現金。え?こんなに持って帰れる?あれ?え?何?つかめないやないか。え?これも描いてんの?なんやねんこれ。何してんねん。ここん家全部絵やないか。「おかしい」思うたんや。金庫の横にこれでもかと金の延べ棒積んで。もしかして…,金(かね)がないもんやから壁に絵描いて「あるつもり」になって暮らしてんの?なんやねんこいつ。え?えらい家に入ってもうたな。最悪や。まぁでも…,手ぶらで帰るのもしゃくやしな〜 「あるつもり」になって暮らしているというのなら,こっちも盗ったつもりでやってやろうやないか。よ〜し。タンスの一番下の引き出しをグイッとあけたつもり。中に風呂敷が入っていたつもり。こいつの端を持ってダァ〜〜〜っと広げたつもり。タンスの三番目の引き出しからええ預金通帳と金目のものを次から次へと風呂敷の中に入れたつもり。金庫の扉を開けて1億5,000万円を風呂敷に入れたつもり。これでもかと積んである金の延べ棒を風呂敷に入れたつもり。風呂敷をグッと縛ってさて逃げようと…思った…けれど…重くて…持ち上がらない…つもり…

毛:何してんねんあいつ。俺が「あるつもり」になって暮らしてるもんやから,盗ったつもりになってるやないか。ずいぶんと粋な泥棒やな。こりゃ寝てる場合やないわ。掛け布団をパッァーンとはねのけたつもり。「やい!泥棒!」と声をかけたつもり
林:「しまった。見つかってもうた」とうろたえたつもり

毛:「警察に連れてくぞ」と腕をつかもうとしたつもり
林:「何すんねん」と腕を振り払い,右ストレートを繰り出したつもり

毛:「殴られてたまるかぁ」と体をかわしてよけたつもり。槍を手にしてビュンビュンとしごいて構えたつもり
林:「こうなったら仕方がない。あれを使うしかない」と,秘密兵器の瞬間移動を繰り出して消えたつもり

毛:「あれ?どこ行きやがった」と見失ったつもり。それでも,「ここか?ここか?」と闇雲に槍を突いているつもり
林:「やめろ。振り回すな。危ないやないか」と怖がっているつもり。あっ…うっ…やられた。脇腹から血がだくだく出た…つもり

毛:……
林:……
毛:どうすんねんこれ
林:何が?
毛:どうやって終わらせんねん漫才
林:落ちてない?
毛:だから言うたやないか。途中でオチ言うてもうたら落ちないて
林:ほんまに申し訳ありませんでした
毛:何してくれてんねんお前は〜
林:ちゃんと謝ったやん。だから帰ろ
毛:帰れるかこんなんで
林:でも謝ったからね
毛:もう一回だけチャンスをあげるから
林:チャンス?
毛:この続きからちゃんと落としてもらわな帰られへん
林:いやいや今のオチもう一回言うても無理やて

毛:「それでも落とすのが漫才師や」言うたやないか
林:言うたけど

毛:ほんなら今のオチをもう一度大きな声で言うてみ
林:もう一回?
毛:それでも落とすのが漫才師なんやろ?
林:無理やて
毛:お前の脇腹目がけて槍を突いたつもり
林:うっ…やられた。脇腹から血がだくだく出たつもり。こんなにも聞きなれたオチを聞いてもオチを知らないつもりで聞いてくれる優しいお客さんがドッと笑ってくれて
◯◯◯◯◯◯

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あらゆるオチを誰よりも先に小噺化するプロジェクト『令和醒睡笑』過去の創作小噺を何回も何回も回すと"古典小噺"になる・・・はず・・・【小噺はフリー台本】