富士山自然図鑑⑪「植物たちの富士登山?!」【ラジオ原稿】※無料
Green&Brownをお聴きの皆さん、こんにちは。「富士山五合目図鑑」を担当します富士山ネイチャーツアーズの岩崎です。
富士登山シーズンもあと少しで終わりを迎えます。今年も沢山の皆様と夏の富士登山を楽しむことが出来ました!皆さんはこの夏、富士山に登りましたか?
さて、今日はそんな「富士登山」のお話しです。といっても人間の富士登山ではなく、植物たちの富士登山についてです。
明治35年、今から122年前に撮影された村山道標高2400m付近のモノクロ写真に当時の山室が写っていました。山室は木材ではなく、周辺の岩石を積み上げる形で作られたいわゆる岩室です。周辺に樹木は殆ど生えておらず、辺り一面に落ちている溶岩石を手っ取り早く建材に使用したことは理にかなっています。森林限界以上の山小屋では今でも建材に周辺の溶岩石が壁などの補強に使われています。
しかし、この写真を見て、私が驚いたのは、現在そこと同じ場所は多くの木々に覆われた亜高山帯の森になっているということです。現在富士山の森林限界は2600m前後とされています。つまり122年の歳月を経て森林限界がおよそ200m上昇したことになるのです。植物は動かないというイメージがありますが、1年に1.6m以上のスピードで森が拡大していったのです。もちろん植物そのものが動いたわけではありませんが、富士山の厳しい自然環境に耐えて生息域を広げていく植物たちの拡大スピードにはとても驚きます。
砂と岩の山である富士山で植物が根付くことは容易ではありません。崩れる砂礫の大地に太い根を杭のように成長させ、大きな群落を作り生息域を拡大していくオンタデやイタドリ。しかし、この群落が大きくなりすぎると、根が過密になり、酸欠状態となった中心部分がドーナツ状に枯れていきます。こうして無機質だった砂礫の大地に枯葉などの有機物が誕生し、そこに樹木が侵出します。
現在、森林限界の最先端で最も優位な地位を獲得している樹木はカラマツです。彼らは風速20mを越える厳冬期の爆風を凌ぐため、上に向かって成長することをあきらめ、地面を這うように風下に向かって横に成長します。カラマツが風の盾となると、その根元にミヤマヤナギなどが入り込み、徐々に森林が広がっていくのです。ミヤマヤナギの種子は綿毛であるため、2015年には風に乗って富士山頂で芽を出したという記録もあります。
幾度となくこうしたトライアル&エラーを繰り返し、強いストレスに耐えられた種だけが厳しい富士山の環境で生き延びてきたのです。100年後、200年後にはあの宝永山にですら緑が根付いている可能性だってないわけではないんです。植物たちの122年の足跡を知ることで、彼らを見る目も少し変わってくるのではないでしょうか?
植物たちの富士登山への挑戦、いかがでしたか?
それではまたお会いしましょう。
富士山ネイチャーツアーズ岩崎でした。