ブランディングの罠😅(意見集約と心理的安全性の問題は雑談力で解決!)〜みんなゲーム化プロジェクト6〜
コンセプトや試作段階では面白かった商品が、ブランディングや一般販売段階で急に面白くなくなったということはないでしょうか?
特に大きい企業の場合は、その会社や商品ブランドに共通する鋳型ともいうべき"イメージ群"があり、その鋳型に、それまでほぼ個人ベースで作られていたコンセプトや試作品が流し込まれ、結局今までのイメージ群から大きく変わらない商品になってしまう。
こんな流れが起こっているのではないかと勝手に想像します。
面白い試作品が出来てきた
10人強の小さな印刷会社の私たちは、「みんなゲーム化プロジェクト」として、印刷の技術や知識にゲーム制作の手法を掛け合わせて、あそび心のある紙文具を創ろう!という取り組みをしています。
そして2年目のこの取り組みも半年強が経ち、個性的な試作品も出来てきました。
これは初年度に、個人個人でアナログゲームをつくるプロジェクトをしていた時にも感じていたことですが、普段あまり前に出ない性格の方のほうが、面白いアイデアをカタチにしてくれている気がします。
ブランディングの罠
ここまでは、言わば面白いコンセプトカーが出来た段階です。企業としては、ここから個々のアイデアを一つのブランドとして一気に製造販売していきたいところです。
ブランディングについては、以前noteにも書いたように企業と商品と伝え方の3つの視点で、まずは「あそび」をテーマにした紙文具をつくる商品開発を優先的に行ってきました。
次は企業としてどのように社会に貢献していくかという宣言(ステートメント)と、個々でつくってきた商品群を繋げて、多くの人に伝わる共通イメージを作っていく段階になります。
ここで折角なのでこの仕事を、私たちの基本ルールの一つである「YES andの精神で」を活かして、トップダウンではなく、今まで商品をつくってきたみんながボトムアップ方式で共通のブランド名を考えるという試みを行うことにしました。
しかし、ここで大きな問題が起こりました。
それは「個々の意見の集約」と「心理的安全性」の問題です。
YES andとYES butの違いが鍵🔑だった。
まずはじめに取り組んだのが、個々で作った試作品をみんなで見せ合い、それらの構成要素と企業イメージ、さらに個人個人の興味関心があることを壁一面にキーワードとして貼ってもらい、そこからYES andの精神で雑談を行って、ブランド名の面白い切り口を探る手法です。
この手法は、プロジェクトのテキストとしてみんなに配布している、米光一成さんの「仕事を100倍楽しくするプロジェクト攻略本」を参考に、心理的安全性を確保しながら、議論ではなく、より面白いアイデアで対話しながら自然に結論に至ることを目指して考案しました。
ところがやってみると、キーワードの書き出しは沢山出たものの、雑談はうながしても盛り上がりません。そして時間が経ち、そろそろブランド名を4〜5人のグループで発表してもらうことにしたところ、議論になってしまい、心理的安全性の確保が難しい状況になってしまいました。
どうして、このような状況になったのか?
ヒントになったのは、五百田達成さんの「超雑談力」です。
今まで「雑談形式で話す」ことは、結論を求めない四方山話というような意味で無意識に行われてきました。しかし後でヒアリングしてみると、雑談やYES andの精神についてきちんと定義づけしていなかったため、声が大きい人が主導権を握ったり、アイデアに良かれと思って意見することで、発言の芽を摘んでしまったりするケースがしばしばあったことが分かってきました。
では、本来の「YES andの精神の雑談」とはどんなものなのでしょうか?
それは、気のおけない友達とのおしゃべりでもなく、仕事で結論を求められる会話でもない、そんなに親しくない人とコミュニケーションを深めるための「第3の会話」です。これを本では
相手に「結論やオチを求めず」、ひたすら「会話のラリーを続け」、「相手が気持ちを話すよう」に持っていくということ(五百田達成「超雑談力」P37)
と定義しています。そして、そんな雑談をするために絶対にしてはならない2つが、
①その気はなくても、相手の発言を否定・訂正する。 ②よかれと思って、アドバイスをする。 (五百田達成「超雑談力」P38)
つまり「否定」と「アドバイス」です。
仕事のディベートではよくYES butが基本とされますが、これは議論によってある結論を導くことが目的だからです。
しかし私たちが目的としているのは、
みんなが居心地よく会話のラリーを続けるなかで(心理的安全性の確保)、個人の好みや感情を伴った、独自の切り口の会話がみんなの固定観念を壊し、より面白く深いアイデアが生まれること
です。そのために、基本ルールとして「YES and」の他に、「まとめない」「リーダーをつくらない」という項目を加えていました。
にも関わらず、私たちは無意識のうちにYES butとYES andを混同して、仲間の会話に冷や水を掛け続けていたのです。
出来るだけ個人でやりたいことをやる
こうして、雑談でアイデアを対話させて面白い結論を導くという試みは頓挫してしまいました。
しかし、得たものは大きいものです。
これまでグループで商品開発をしてきましたが、それからはこれまで作ってきたもの+個人で作りたいもの全ての中から、1つの試作品を3分でプレゼンするという形式に変更しました。
この変更によって、同じ試作品でもそれぞれ個人でどう感じ、どう伝えるか?を考えて、カタチにしなければなりません。
しかし、個人で考えてカタチにするので、人と議論する必要はなくなります。そのため、2日に1回の雑談ミーティングでもYES butの否定やアドバイスが出なくなり、人の話をただ聞くことで、自分の試作の見方を多角的にすることが出来るような仕組みになりました。
では、最終的にどうやって結論を出すのか?
このヒントは、会社のテキストにさせていただいている「仕事を100倍楽しくするプロジェクト攻略本」の著者 米光一成さんにいただきました。
それは、
出来るだけ個人でやりたいことをカタチにして、3〜4人のグループで見せ合い、雑談する。そうするなかで、自分でどうしても出来ないことが出てきても、雑談でコミュニケーションが取れていれば、お互いに協力できる。そして最終的に個人個人が各々やりたいことをカタチにして、それらを組織のトップやその道の専門家など、参加者が納得でき、それなら仕方ないと思える人に商品化などの重要な判断をしてもらう。
というやり方です。
本当に面白いものを作ろうとすると、みんなで集まって意見集約しても、どこか妥協したものにしかなりません。
それならいっそのこと最初から最後まで一人でやりきって、それをしかるべき人に判断してもらった方が面白いものが出来るのではないでしょうか?
そして今、技術的にも環境的にもそれが出来る時代になってきたと感じています。
会社としてもプロジェクトは、こうして多様な試作発表を経て、その道のプロに審査していただくステップを迎えています。
結果はどうなるかわかりませんが、どんな結果でもこのやり方なら創造的な活動を続けていける感触があります。
この1ヶ月でこのような流れを経て、今では結論を求めない勇気が、個人が個性を発揮する環境を作る。そして、ブランディングも一階部分を強い個性の柱で支えてこそ、人に伝える二階部分が成り立つのだと思えるようになりました。
これからもどんな個性がカタチになっていくのか、楽しみながら「みんなゲーム化プロジェクト」を進めていこうと思います!