日生劇場で井上ひさし作の展覧豪華・祝祭音楽劇を鑑賞しました

 「現実は演劇 演劇が現実」

近頃は、どんな役を演じていますか?

今から約50年前のこと、劇作家の井上ひさし(1934-2010)さんが、壮大なスケールの戯曲を書き上げました。

その元となる話のひとつは、講談として語り継がれてきた「天保てんぽう水滸伝すいこでん」、天保15年(1844年)頃に千葉県の北西部で、侠客きょうかく(やくざ者)たちが実際に起こした抗争がベースとなっています。

後に講談は浪曲となり、歌舞伎でも演じられ、様々な趣向を凝らして何度も映画化され、昔々に大ヒットした物語です。

東庄とうのしょう町のウェブサイトで浮世絵を用いて解説しています。もし、興味があれば参照してみてください。


そして、井上ひさしさんが書いた壮大なスケールの戯曲を編み物に例えるなら、縦糸がこの「天保水滸伝」、横糸となるのがシェイクスピア(1564-1616)の作品です。

シェイクスピアのどの作品が横糸になるのかというと、シェイクスピアの全作品、数でいうと37作品です。

この壮大なスケールの戯曲のタイトルは「天保十二年のシェイクスピア」。

なぜ十二年なのかというと「天保水滸伝」よりも少し前の「天保の改革」が天保12年(1841年)なので、それに合わせたのでしょう。(未確認)

こうして出来上がったのが「天保十二年のシェイクスピア」という戯曲です。

舞台で演じられた音楽劇「天保十二年のシェイクスピア」の初演は1974年、その後、2002年、2005年に再演され、最新は2020年なのですが、コロナ禍で公演は中止されます。

そして、2024〜2025年にかけて再開された機会で、私もチケットを手に入れることができたので見に行ってきました。2024年12月27日、東京日比谷の日生劇場13時の公演です。

過去3回の公演と今回の公演の大きな違いは演出と音楽。

パンフレットによると演出のテーマは「死者の言葉、墓場からの歌。」それを「お祭り」のように、過去の3公演よりも絢爛けんらん豪華ごうかな祝祭音楽劇として、人生のはかなさ、こわさ、楽しさ、を表現しているそうです。

オープニングナンバー「もしも、シェイクスピアがいなかったら」の動画が公開されていたのでリンクします。木場勝己さんによる講談風の前口上から、ハーモニーが素敵な歌と芝居と踊りへと移り変わるステージの雰囲気がわかっていただけるかと思います。動画は約3分。

と、オープニングのすばらしい曲の中で歌詞が気になります。

「シェイクスピアはノースペア」
「あの方に身代りはいないのさ」

井上ひさしさんはシェイクスピア別人説を否定していたのですね、英文学者、河合祥一郎さんの著書「謎解きシェイクスピア」でも、習作とか、共同執筆はあるものの、別人説をはっきり否定しています。

ただし、謎は多くて、

シェイクスピアは正確には生年月日も不明、洗礼を受けた日は記録に残っていて1564年4月26日、学校へ通った記録もなく、18歳で8歳年上のアン・ハサウェイと結婚、20歳の頃には3人の子どもの父親だった。と、作家デビュー前の記録はこれで全部。

ちなみに、洗礼を受ける3日前が誕生日という慣例に従うと4月23日が誕生日で、かつ、亡くなった日も1616年の4月23日であることから、毎年4月23日は「シェイクスピアの日」。

ついでに、最近の研究によるとシェイクスピアの作品数も37から3つ増えて全部で40作品だそうです。

音楽劇「天保十二年のシェイクスピア」に話を戻して、

見どころが沢山ある中で、私の印象に残ったことといえば、

シェイクスピアの「リチャード三世」には、夫が(演出によっては目の前で)殺され、犯人(リチャード三世)にその場で口説かれて、夫を失ったばかりの妻が犯人の味方になってしまうという一幕があります。

原作では、殺しの後、長いセリフをまくしたて、自分の立場と、殺しの言い訳から、少しずつ気持ちを分かってほしい、力を貸してほしいという懇願へ変化していくやり取りで、価値観が180度回転してしまうような言葉の力を感じる部分だったと思います。

その場面が「天保十二年のシェイクスピア」にもありました。それが、長いセリフをスマートにまくしたてるのか、と思いきや・・・短いセリフで、どちらかというとどろくさい、何かちゅうちょしているような、どっちつかずの表現で・・・迫真の演技で、なんだか、現実的でした、感動です。

はい、うまく説明できませんでした。
私には言葉の力がないようです。

最後に、

「マクベス」の有名なセリフ「きれいはきたない きたないはきれい」を井上ひさしさんがどう表現したか引用して終わります。

安全は危険 危険は安全
便利は不便 不便は便利
地獄は極楽 極楽は地獄
きれいはきたない きたないはきれい
すべての値打ちをごちゃまぜにする
そのときはじめておれは生きられる

井上ひさし著 こまつ座編「せりふ集」
「天保十二年のシェイクスピア」より


読んでいただき、ありがとうございます。


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