フジコ・ヘミングがあこがれた、杖をついて歩く婦人とは
「金、権力、国家」と結婚した三姉妹?
最近見た映画
10月18日に公開された映画「恋するピアニスト フジコ・ヘミング」が、まだ上映されていたので見てきました。
フジコ・ヘミングの直近4年間を追ったドキュメンタリー映画で、途中にリサイタルでの演奏がちりばめられています。
映画のプロモーションとして、教会の礼拝堂で撮影されたリストの「ラ・カンパネラ」演奏シーンがあったのでリンクします。(再生約15秒、全体は1分30秒くらい)
「魂が入っているかどうか、それが問題」と言っていたフジコ・ヘミングの演奏、魂が伝わってきます。
映画は公開されてから、もう三週間くらいたつというのに、映画館に来ている人がわりと多くてフジコ・ヘミングは、いまだ人気です。
生活の場面
映画では東京・パリ・カリフォルニアの自宅で過ごす様子が映し出され、いつも周りに猫がいて、落ち込んだときには「猫を抱きながら、いい音楽を聴くと痛みがスゥーと引いていくの」とやさしく語ったていたところが印象的でした。
2024年4月にすい臓がんで亡くなる少し前ということもあり、もう既に「足の先には感覚がない」と言い、普段の生活は両手で4輪のカゴ付きカートみたいな歩行器を押して歩く生活となり。
フジコ・ヘミングのあこがれ
そういう身体が不自由な状態で、歩行器を押しながらさらっと出てきた言葉が・・・
「本当は、杖をついて歩きたいの」
「ソウ・ビレイみたいに」
「ショウ・カイセキの奥さん」
「年をとってもステキな人」
・・・と言っていました。
ピアノを弾く多くの女性があこがれ、ファンから愛されているフジコ・ヘミング。そのフジコ・ヘミングがあこがれていたのはソウ・ビレイだったとは。
ソウ・ビレイ?
まず、
宗家について
ピアノを中心に追っていきます。
昔々、中国にチャーリー宋 (1863?-1918) という裕福な実業家がおりまして、その妻は家庭でピアノを楽しむ中産階級のお嬢様 (1869-1931)。
二人は6人の子供に恵まれ、そのうちの3人が「宗家三姉妹」として中国・日本・アメリカにとって歴史上、とても重要な人物となります。
三姉妹とは、
長女アイレイ (1889-1973)
次女ケイレイ (1893-1981)
三女ビレイ (1898-2003)
三姉妹のうち、次女ケイレイと三女ビレイがピアノを弾き、次女ケイレイが弾いたピアノは今でも残っているらしく、日比谷松本楼というレストランに展示されているそうです。
もう少し説明を加えますと、
宗家三姉妹とは
三姉妹とも幼いころからアメリカへの留学を果たし、帰国後、長女アイレイは孫文 (1866-1925) の秘書となります。
ソン・ブンは世界各地を転々とし、近代中国を成立させるために疾走した人物で、一時期、日本にも滞在、そのとき秘書の長女アイレイも日本へ同行。
長女アイレイは日本滞在中に出会った大富豪と結婚。長女アイレイの結婚後、ソン・ブンの秘書を引き継いだのが次女ケイレイ。そして、ソン・ブンと次女ケイレイが結婚。
ソン・ブンの下で軍隊を近代化させたのが蒋介石 (1887-1975) 。それを実現できたのは、ショウ・カイセキが日本で軍隊の訓練を受けていたから。
ソン・ブンは近代革命あと一歩のところで病に倒れ、ショウ・カイセキが後継者となり。
ショウ・カイセキはかねてから恋愛関係にあった三女ビレイと結婚します。
ショウ・カイセキと結婚したので、
ソウ・ビレイは
当時の中国のファーストレディで、通訳で、スポークスマン。
1931年にはタイム誌の表紙となるくらいの名声を得ています。
さらに、ルーズベルト大統領と親しくし、アメリカ議会や野外音楽堂で演説し絶賛され、
そして宋美齢の放送がきっかけで、米国国民の対日感情が悪化し、それまで日本に友好的だった米国政府もついに対中支援へと大きく政策を転換したことにより、日本は一転して形勢不利になったと捉えたのである。
「宋美齢秘録『ドラゴン・レディ』
蔣介石夫人の栄光と挫折」より
というように、三女ビレイは日米対戦にまで影響を及ぼします。
そんな世界の大混乱の後に、
三女ビレイは75歳でアメリカへ渡りニューヨーク州のロングアイランドという高級住宅地に住み、さらに高齢になってマンハッタンのコンドミニアムへ引っ越し、ひっそりと暮らしたそうです。
さて、
残る謎
杖をついて歩くソウ・ビレイを、フジコ・ヘミングはどこで見たのでしょうか?
杖をついて歩くということは、高齢になってからのソウ・ビレイなので、アメリカへ渡った75歳以降と考えられます。
しかし、その頃、ビレイはもう公の場に現れず、インタビューなども断っていたようなので、テレビで見たとは思えません。
では、私的な交流でしょうか?
もしかして、ピアノを通してのお付き合い?
いろいろ推測できますが、謎です。
ところで、
中国人といえば
最近、活躍している中国人ピアニストのユジャ・ワンが「ラ・カンパネラ」を弾いている動画がYoutubeにありました。背景がポップな現代アートというステージです。
絵は英国人デイヴィッド・ホックニーの作品で、本人が聴いている姿もチラッと映ります。(再生約15秒、全体は約1分30秒)
フジコ・ヘミングの「ラ・カンパネラ」と好対照なユジャ・ワンの「ラ・カンパネラ」演奏、華やかですね。
これくらい演奏に違いがあれば、私にもそれぞれの特徴がよくわかります。
フジコ・ヘミングは映画の中で近頃のピアノ演奏は「氷のような弾き方をする」と表現していましたが、ユジャ・ワンの演奏も「氷」の部類でしょうか。
「氷」もいいですね。
まとめ
中国で「金、権力、国家」と結婚したといわれているのは「宗家三姉妹」のこと。
長女アイレイが金(大富豪)と結婚、
次女ケイレイが権力(孫文)と結婚、
三女ビレイが国家(蔣介石)と結婚。
読んでいただき、ありがとうございます。