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白昼百物語 三十三話目~日傘のひと

娘はまだ小さく、私は娘の下校時間に合わせて途中まで迎えにいっている。家から学校までけっこうな距離があるため、めんどうだという気持ちもあるが、私を見つけて満面の笑みで駆け寄ってくる娘を見るのはいいものだ。
冬の降雪時もつらいが、夏のほうがやはりつらい。ネッククーラーを持って日傘を差して歩いていく。それでも家に帰りついたときは全身汗びっしょりである。最近は汗をかくのはサウナくらいなものだから、それもまた楽しいと言えば楽しい。
私が小学生のときは、家が近かったこともあって特に母が迎えに来るということはなかった。時代もあるだろう。母親はどんどん心配症になっているような気がする。
しかしよく日傘を差して道端に立ってこちらを見ている女の人がいた。母ではない。知らない人だが、日傘の影になって顔はよく見えなかった。母くらいの歳に見えた。その人は毎日ではないが、日傘を差してじっと立っていたのだ。季節は憶えていないが、夏に多かったような気がしている。
今思えば誰かの母親で、下校する子供を待っていたのだろうか。引っ込み思案な私は挨拶もしなかったと思う。黒い日傘を差し、黒いズボンをはいていた。
あれから三十年して、私は黒い日傘と黒いズボンで、今日も娘を待っている。

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