白昼百物語 二十七話目~黒い男
小学校四、五年生ごろ、いつもの通学路である。いつもの友人と学校から帰宅の途中、クラブの帰りだったのか、すでに空は夕方の気配を漂わせていた。あのころどれだけ話しても話し足りなかった。何をそれほど話しこんでいたのだろう。おかしくておかしくて仕方なかった。噂話やクラスであったこと、恋の話もしていただろう。今は友人と食事をするときは子供の話ばかりになる。しかし本質は変わっていない。内容なんて大した問題ではないのだ。ただしゃべることが楽しいのだ。きっともっとおばあちゃんになっても、私は誰かを捕まえておしゃべりをするだろう。話し相手がいるかぎり、まだ大丈夫だと思えるだろう。
そんなぺちゃくちゃとうるさい私たちの前、かなり離れたところを男の人が歩いていた。シルエットから、黒っぽい服装で、帽子をかぶっているのがわかった。私たちの歩みはかなり遅かったと思うのだが、その男の人との距離は一向縮まらなかった。なにか変な感じがしていた。男の人と私たちの間に人影はなかった。
男の人が立ち止まったように見えた。先ほどまで縮まらなかった距離は少しずつ縮まっていく。やはりなにか変なのである。しかし何が変なのか、わからない。
男の人がゆっくりと振り向いた。
その顔は影のように真っ暗だった。
私たちは慌てて後ずさり、横道に入って違う道から家に帰った。
大人になって、テレビで誰か芸能人が影のように顔のない真っ黒な人物を見たと言っていた。その人も帽子をかぶっていたようである。