バナナヨーグルト

リカちゃん人形とバナナヨーグルトとわたし

 兄弟…それは弱肉強食…。私にはそれが当たり前の日々だった…。


 それは私が小学生だか中学生の頃、同級生の家に遊びに行った時の事。そのあまりにもショッキングな出来事をここに記しておこうと思う。


 その時遊びに行ったお友達は女の子二人の姉妹で、お姉ちゃんがいた。


 私は友人にリカちゃん人形の遊び方についてレクチャーを受けていた。自慢ではないがお人形さんとの遊び方はまったくの素人だ。さっぱり意味がわからない。ひとまず友人のリカちゃんがお姫様役で私のジェニーちゃんが召使役との指示を受け、私はその通り言われるがまま実行にうつしていた。


 …ただの1ミリも面白くない。はてさて、一体お人形さん遊びの神髄とは…?やはり付け焼刃な仕事などたかが知れている、という事なのだろうか。



 どうやら話がそれてしまっていたようだ。私の悪い癖である。


 とにかくその苦行とも思われる時間を半ば放心状態で過ごしていた時の事。友人のお姉ちゃんが部屋に顔を出したのだ。


「これ食べる?」となにやらシャレオツなガラス食器を手渡してきた。私はそれを反射的に受け取った。



 ところで私には兄がいる。どういう訳が主要な友人の兄弟も兄ばかりで、どこに遊びに行っても兄ちゃんがいた。私の中で兄弟のイメージは「兄」で固定されているといっても過言ではなかった。


 兄弟とはすなわち奪い合いう存在だと思っていた。おやつにしろ、晩御飯のおかずにしろ、家族の愛情にしろ、どちらがより多くを得られるのか、仁義なき争いを産まれながらに宿命づけられた、そんな存在だ。私も二言目には「にーちゃんがー!!」と自分の哀れさを前面に押し出しては兄を悪者扱いして家族からの愛という名の美味しい蜜をすすろうと目論んだものだ。もちろん兄も当然そうした。


 …それまでは、それが兄弟だと、思っていた。



 友人のお姉ちゃんがくれた器の中にはヨーグルトが入っていたのだ。しかもバナナ入りで。



 私は驚愕した!驚愕して戦慄した!!


 まず第一にヨーグルトにバナナが入っている事。ヨーグルトにバナナが?は?ヨーグルトってお砂糖入れて食べるものだよね?え、フルーツ??そんなバナナ。


 ヨーグルトにバナナが入ってる事でここまで驚愕しているのを読むと「え?ひょっとして藤野さんちバナナ買えないくらい貧乏なの??」そう思った人もいるかもしれないが、単に我が家の流儀だっただけだろう。子供にとっては「我が家の流儀」は「世界の流儀」だ。井の中の蛙ヨーグルトなのだ。


 そして第二に「友達の兄弟が自分に食べ物を恵んで下さった」事。この出来事は天地がひっくり返るほどの衝撃を私に与えた。


「友達の兄弟がこのわたくしめに、このような高級な食べ物を??」わけがわからないよ!!


 友達の家に行ってお母さんやらお父さんやらが、おやつをくれる事はあった。でも兄弟が??ないよそんな事!あったらここまで驚愕してない!普通ポテトチップスの欠片さえ奪い合うのが兄弟なんじゃないの!?


 このお方は、神か!?仏か!?女神様か!?


 あああああああ、うちの兄と交換したい!うちの兄の良い所なんて「一緒にゲームができる」くらいだよ!ただのゲームのフレンドの一人だよ!やっこさんがゲームでヘマした時に心置きなく罵声を浴びせられるくらいのメリットしかないじゃないか!だけどどんなに口汚く罵った所で「てへぺろ☆」くらいの反応なんだよ!逆にストレスたまるわ!なんなんだよ、お前はよぉぉぉ!!



 私は嫉妬や羨望、妬み嫉みを感じたか感じてなったか定かではないが、震えていたか震えてなかったかどうか思い出すこともできない手で持ったスプーンでヨーグルトをすくった。実際には輪切りのバナナにまぶりついたヨーグルトだ。今、気になって調べたが「まぶりつく」とは方言だったのか、知らなった。「まとわりつく」の意である。


 そしてそれを口に運ぶ。のったりくったりとしたバナナの食感からヨーグルトに伝播する甘味……。


 私はそこで思い出していた。



「あ、そういえばバナナ好きじゃなかったわ」

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