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ねじの豆知識 植込みボルト(スタッドボルト)第1回 植込みボルトとは 形状と規格



様々な接合を実現するため、ファスナーは驚くほど多様な発展を遂げてきました。今回の「ねじの豆知識」は一般にスタッドボルトと呼ばれる「植込みボルト」に焦点を当ててみます。

ねじの豆知識 植込みボルト(スタッドボルト)
第1回 植込みボルトとは 形状と規格
第2回 植込みボルトの挿入と引抜 頭のないファスナー達(近日公開)


頭部のないねじ 植込みボルト(スタッドボルト)


「ねじ」や「ボルト」と言われて浮かんでくるイメージは、おそらく六角ボルトやなべ小ねじと思います。

六角ボルト
なべ頭小ねじ すり割り(-)

共通しているのは「頭」があり十字穴やすり割り、六角穴のようなリセス(駆動溝)を持っていることでしょう。この形を私たちは「ザ・ねじ」と思います。

今度はこちらの写真をご覧ください。タイヤ交換でよく見かけるこれ。皆さんも見覚えがありませんか?

自動車のホイールハブ

タイヤホイールを取り付けるために飛び出しているこのねじ。これは「スタッドボルト(stud bolt)」と呼ばれるねじが埋め込まれており、日本語ではこのボルトの名称は「植込みボルト」です。植込まれる前の姿はこのようになっています。

植込みボルト(スタッドボルト)

この通り、植込みボルトは丸棒の両端にねじを切った“頭部がない”姿をしています。「スタッドボルト」だけでなく「両端ねじ」とも呼ばれます。「植込みボルト」は厚みのある金属母材のねじ穴に植込み側(端部が平先形)にねじ込み、反対側(こちらはナット側と言われます 丸先形状です)へ締結物をナットによって締結します。自動車のハブボルトやエンジンなどのさまざまな機械や製品で使用されます。

植込みボルト(スタッドボルト)の規格


各メーカーが独自規格で製造しているスタッドボルトもありますが、ここからは植込みボルト(スタッドボルト)について、「JIS B 1173植込みボルト」を基にしてもう少し詳しく見ていきましょう。

植込みボルト

両端にねじを切られている植込みボルトは、一見どちらを植込んでも問題ないように思えるかもしれません。でも、ちゃんと「植込み側」と「ナット側」があります。「植込み側」は母材にしっかりと嵌まり込み容易に抜けないようになっています。どちらが植込み側でどちらがナット側かは先端部により見分けることができます。ナット側は丸先、植込み側の先端は面取り先になっています。

ナット側のねじは、メートル並目ねじ又はメートル細目ねじ、公差は6gです。これは六角ボルト等の一般的なねじと同じです。それに対して植込み側のピッチはメートル並目ねじ又はメートル細目ねじですが、径がプラス公差になっています。こうすることで、ボルトを埋め込んだ際に“しまりばめ”となり、ナット側でナットを締め付けたり緩めたりしても、植込みボルトがワークから緩むことがない仕様になっています。プラス公差のため、植込み側のねじ部にはナットが入らない場合があります

左:植込み側 面取り先  右;ナット側 丸先


通常、ねじ・ボルト類のサイズ(寸法)の径と長さは切りの良い寸法に丸められた呼び径(d)と呼び長さ(l)を用い、販売の際もサイズは呼び径と呼び長さを用います。一般に呼び径はおねじのねじ山の一番外側の直径、呼び長さはねじ込まれた際に埋め込まれてしまう部分の長さを指します。

なべ小ねじ
なべ小ねじ等の呼び長さLは首下 頭部は露出します


皿小ねじ
皿小ねじは頭部を埋め込むので、呼び長さLは全長と同じ


これに対してちょっと特殊に感じるのが植込みボルトの呼び長さです。植込みボルトの呼び長さは全長から植込み側のねじ部(不完全ねじ部も含む 図面でbm)を引いた長さで、ワークにボルトを埋め込んだ際に露出する部分の長さです。

植込みボルトの形状・寸法
不完全ねじ部のアップ


ただし、植込みボルトの場合、販売されている「長さ」は呼び長さではなくねじの全長(l+bm)で販売されている場合が多いので、購入の際には「長さ」がどこを指しているのかを確認する必要があります。

また、似た形状の頭のない「両ねじのボルト」や「片ねじのボルト」、「全ねじの植込みボルト」の場合も「植込みボルト」の「呼び長さ」と異なります。混乱しますよね。

頭のない「両ねじのボルト」「片ねじのボルト」「全ねじの植込みボルト」の呼び長さ


「植込みボルト」の規格には、呼び径は並目では4㎜から20㎜、細目は8㎜から20㎜が載載せられています。そして、呼び長さは呼び径M4の並目は12㎜から40㎜、M20では35㎜から160㎜までが規格に示されています。

植込み側のねじ部の長さ(bm)は鋼(鋳鋼品及び鍛鋼品を含む)又は鋳鉄用の1種と2種、そしてアルミニウム等の軽合金に植え込むための3種が規定されています。それぞれ1種は1.25d(呼び径の1.25倍)、2種は1.5d、3種は2dとされ、等しいかこれに近い値にするように定められています。

植込みボルトの機械的強度区分と材質はJIS B1051「炭素鋼及び合金鋼製締結用部品の機械的性質− 強度区分を規定したボルト,小ねじ及び 植込みボルト−並目ねじ及び細目ねじ」に基づきます(舌を噛みそうな長い名称ですね(笑))。それでJIS B 1173の「植込みボルト」は炭素鋼(SCM)及び合金鋼製(S45C、S55C)などで強度が高く、耐久性があります。また、市場のニーズに合わせて同じ形状でステンレス製等の「植込みボルト」も流通しています。

左から 炭素鋼(SCM) ステンレス鋼  合金鋼(S45C)


また、ねじの呼び径や強度区分により、製造業者識別記号と強度区分の表示記号、又は代用表示記号の刻印を施す必要があることをJISは記載しています。

植込みボルトに対する表示の例


大変似ている“スタッドボルト”でも、これまで見た「JIS B 1173 植込みボルト」とは異なる形状、材質のものが多数あります。例えば植込み側とナット側の公差が同じ6g(通常の公差のため植込んでもしまりばめにならない)、ボルトの先端の両側が丸先であったり逆に両面取り先であったり、植込み側とナット側の異径であったり。これらはJIS B 1173「植込みボルト」の規格からは外れますが、様々なニーズにかなうように設計・製造されています。そして専用品、つまり限られた製品のための専用スタッドボルトも存在しています。こうしたJIS B 1173通りではない形状の良く似た「スタッドボルト」あるいは「両ねじボルト」もニーズに適するなら、よく製品を理解して安全に使用できます。

植込みボルト(スタッドボルト)の利点

植込みボルトは頭のある一般的なボルトよりも軸方向の引っ張りに強いといわれています。

頭部がある一般的なボルトでは応力(物体内部に発生する力)が、頭部の下の部分(首下と呼びます)やナット座面に最も近いねじ山に集中します(軸の途中からねじ山の始まる“半ねじ”の場合は、ねじ山の始まる不完全ねじ部にも)。そのためボルトの破断の多くがこの部分で生じています。

ボルトの疲労破壊しやすい場所

頭部のないスタッドボルトは、植込み側においては応力を均等に分散して受けるため、軸方向の引っ張りに対する強度に優れるというわけです。

また、ねじ山は主に転造で作られるためファイバーフローが切断させておらず、材料も炭素鋼や合金鋼製などで強度が高く耐久性があります。摩耗に強く曲げ強度も高く、かつ、高い真直度を保って製造されているので、高耐久で組立後の精度も高く保たれます。

切削と圧造のファイバーフロー比較

植込みボルトは組立性を向上させるガイドにもなります。部品の取り付け位置におねじが突出するため正確に素早く取り付けることができます。そして、植込み側がプラスの公差のため植込みボルト自身は緩みにくく、ナットを使用して締結した部品の着脱が何度でもできます。ホイールにあけられた穴にボルトを通しホイールナットで締め付ける国産車のタイヤの固定方法は、植込みボルトのこの特徴を生かしています。

ホイールハブ再び(笑)

工作機械、金型等の繰り返しの組み立てが行われる耐久性の必要な個所で植込みボルトがよく用いられているのには、こうした理由によります。

第2回では頭やリセスのない植え込みボルトの挿入・引抜の方法について、その際にあると便利な専用工具もご紹介します。また「頭部がない」という特徴を持ったいくつかのファスナーについても簡単に触れます。

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