「ねじの豆知識」 六角ボルトの基礎知識 Vol.2 ねじ山 編
藤本産業は締結資材「ねじ」の専門商社です。身近な「ねじ」ですがとても奥深い世界が広がっています。このコラムを通してねじの世界に興味を抱いていただけたら嬉しいです。
今回は「六角ボルトの基礎知識Vol.2」として「ねじ山」についてです。現在のねじ山規格にたどり着くまでのお話や並目・細目についての豆知識です。
前回の「ねじ」の豆知識 「六角ボルトの基礎知識 Vol.1 六角ボルトとは」編はこちらからご覧いただけます。
Vol.1 六角ボルトの基礎知識
Vol.2 六角ボルトの ねじ山
Vol.3 強度区分
Vol.4 「本体規格品」と「附属書品」
Vol.5 締結・用途・バラエティー
六角ボルトのねじ山は三角ねじ
ねじ山の形状は、その使用目的によって「台形ねじ」「角ねじ」「鋸刃ねじ」「丸ねじ」いろいろな種類があります。六角ボルトに刻まれているのは「三角ねじ」です。
三角ねじは断面形が正三角形に近いねじ山の総称です。加工が容易で精密にでき、また緩みにくいという特徴が有ります。
メートルねじ・ユニファイねじ・ウィットねじ
六角ボルトとして現在メートルねじとインチねじのユニファイねじ、ウィットねじが流通しています。
その歴史を少し振り返っておきます。
インチねじの変遷
標準ねじとして史上初めてつくられたねじ規格は産業革命期の1841年に考案されたインチねじ規格「ウィットウォースねじ」でイギリスのウィットウォースによります。
それまではねじ製造業者が独自のねじ山やねじピッチを持つボルト・ナットを製造し元々組まれていた雄ねじ(ボルト)・めねじ(ナット)の以外では使用できず融通が利きませんでした。ウィットウォースは流通しているねじを調査してねじ山角度55°の三角ねじ、ピッチを1インチ当たりのねじ山数を呼び径ごとに規定するインチねじとして標準化しました。
この規格を採用することによりこれまで一点ものだったボルト・ナットが互換性を持ち、大変使い勝手の良いものとなり世界各国に広まりました。そしてウィット規格は1885年にイギリス規格として正式に決定されました。
その後1868年にアメリカのウィリアム・セラーズが「ウィットウォースねじ」を改良した「セラーズねじ」を発表し、「アメリカねじ」としてアメリカ規格に正式に採用されます。ねじ山角度は60°となっています。
そして軍需品の互換性を図るためにインチねじの「ユニファイねじ」規格がアメリカ・カナダ・イギリスの共通ネジ規格として定められました。1943年のことです。この規格は軍需品だけでなく民需品でも採用され広がりました。
メートルねじの変遷
1898年にフランス、スイス、ドイツが協議し国際規格「SIねじ」を採用しました。こちらは1799年にフランスが採用したメートル法に基づく「SFねじ」規格のメートルねじとなります。ねじの呼び径やピッチはmmにて規定され、ねじ山角度は60°とされました。
そしてこの規格がさらに発展を遂げ「ISAメートルねじ」として万国規格統一協会によって定められます。1940年のことです。この時ドイツ、フランス、スイス、ソ連、スエーデン等が参加しています。
現在のねじ規格 ISOメートルねじ・ISOインチねじ
第2次大戦後1947年に設立されたISO(国際標準化機構)で、国際的に互換性のあるねじ系列の確立をめざした結果、1957年の会議において、国際規格として「ISOメートルねじ」と「ユニファイねじ(ISOインチねじ)」を採用することに決定しました。
これに伴い、ウィット規格は国際的な規格ではなくなりました。
日本でのねじ規格の推移
日本でのねじ規格の標準化事業は1921年に設立された「工業品規格統一会」により本格化し1924年にメートルねじ第1号が日本標準規格JESとして制定されました。それ以降ねじ部品規格は旧JES( 日本標準規格 1921年~)、臨JES( 臨時日本標準規格 1939年~)、新JES( 日本規格 1945年~)、そして現在のJIS( 日本工業規格 1949年~)へと至ります。
1965年 日本工業規格(JIS)が改正時に、国際化にふさわしい「ISOメートルねじ」を主に使用し、航空機の様に特に必要な場合にのみ「ISOユニファイねじ」を使用することと定められました。
ウィット規格は1968年3月にJIS規格としては廃止されました。しかしながら今でも建築・給排水などの分野や、古い機械で一部使用されています。
並目・細目
JISで規格化されているメートルねじには標準のねじ山ピッチの並目とねじ山ピッチの詰まった細目があり、JISのユニファイねじにも同様にピッチの異なる並目(UNC)と細目(UNF)があります。
細目
細目はピッチが細かくなることで微調整が効きく、リード角が小さくなり小さな力で力強く締め付けることができ緩み難くなる、ねじ山が小さくなることでねじの有効径が大きくなるので締結強度が増す、などのメリットがあります。反面、並目より締め付けるために多く廻す必要がある為に締め付け・取り外しに時間が掛かる、流通量が限られるためにボルト自体がコスト高というデメリットがあります。
それで細目は経済性よりも組立後の緩みによる危険防止が優先する場合や、雄ねじの外径を抑えながら高い締め付け力とねじの強さが必要な場合に用いられます。
並目
一方、並目は細目より経済性・作業性が優れます。またねじの締め戻しが頻繁に繰り返され摩耗によるねじの変形が予想される場合などには積極的に選択されます。
六角ボルトで用いられている「ねじ山」を概観した「ねじの豆知識 六角ボルト Vol.2」はお楽しみいただけましたか?
次回Vol.3のテーマは「強度」です。六角ボルトの頭部にある刻印の意味やねじの強度の規格についてお伝えします。