人材育成に投資する
7日7日の日経新聞で、「キヤノン、工場従業員にDX教育 成長職種へ配置転換」という記事が掲載されました。同記事の一部を抜粋します。
~~事業構造改革に向けて社員にデジタル関連などの再教育をする企業が増えてきた。キヤノンは工場従業員を含む1500人にクラウドや人工知能(AI)の研修を実施する。医療関連への配置転換などを通じ成長につなげる。三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)はグループ従業員5万人にデジタル教育を進める。デジタル技術の進化に対応した「リスキリング(学び直し)」に世界各国が取り組むなか、政策の後押しも課題になる。
キヤノンは就業時間を使い、半年程度の専門教育をする。プログラム言語やセキュリティーなど、デジタル知識のレベルごとに14系統の190講座を用意した。必要に応じ統計や解析、代数などの基礎知識も学べるようにして、幅広い人材の職種転換を後押しする。
日本政府も支援を拡充しているが、まだ遅れており、企業は主体的に内部での再教育に踏み切る。ただ、中堅・中小企業にできることは限られる。講師の育成なども含め、学び直しを支援する公的な仕組みの拡充が必要だ。~~
同記事では、キヤノン以外にも下記の事例が紹介されています。
・日立製作所:国内の全16万人にデジタル教育
・サントリーホールディングス:40歳以上の国内主要グループ社員3900人に資格取得支援
・三井住友フィナンシャルグループ:従業員5万人に取引先のDX支援などを教えるプログラム
「リスキリング(学び直し)(Reskilling)」とは、最近使われ始めた言葉です。「日本の人事部」によると、次のように説明されています。
~~職業能力の再開発、再教育のことを意味します。近年では、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略において、社内で新たに必要となる業務に人材が順応できるようにする再教育という意味でも使われることが増えています。技術進歩によって衰退する産業がある一方、新たに生み出され、必要性が高まる業種・職種もあります。2020年11月に日本経済団体連合会(経団連)が発表した「新成長戦略」においても、失われる雇用から新たに生まれる雇用へと円滑に労働力を移動できるよう、企業が従業員のリスキリングを推し進めることを推奨しています。~~
コロナ禍によってさらに環境変化が早まり、事業戦略もこれまで以上に速いスピードで見直しが求められます。事業の担い手となる人材の学び直しは、ますます重要になるでしょう。上記の記事内容からも、人材育成投資に積極的な動きをする企業の様子が伺えます。
一方で、学びに対する全体的な傾向としては他国と比べても低調なことが示唆されています。サイト「Business Insider」を参照すると、2016年から続く約5万人を対象にした調査で、社会人の「学び」については状況が悪化したと説明されています。
同調査の5つの大項目のうち、「就業の安定」「生計の自立」「ワークライフバランス」「ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」の4つは、2016年と2020年の結果を比べるとスコアが上昇しています。しかし、「学習・訓練」についてはスコアが悪化しています。このことも含めて、下記のように説明されています(一部抜粋)。
~~コロナ禍で、日本人の勉強嫌いはさらに深刻化している。そんな傾向を示す調査結果を、リクルートワークス研究所が2021年7月5日に発表した。リクルートワークス研究所では、2016年から約5万人を対象にしたアンケート調査「全国就業実態パネル調査」を実施し、分析結果をまとめた。
調査は同一の人物を2016年から毎年追跡調査しており、同一個人を追跡するパネル調査としては「国内最大規模」という。
調査の結果、2016年に比べて、日本の働き方は多くの面で改善されていることが分かった。特に「労働時間の短縮化」「非正規の待遇改善」「女性とシニアの就業安定化」の面では改善がみられている。一方で、「学び」に関する数値は悪化していた。アンケートでは以下の点を調査。
・難易度の高い、多様なタスクを任されているか。
・仕事を通じて学ぶOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の機会があるか。
・企業らが提供する講習や勉強会などOff-JT(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)の機会があるか。
・自己啓発に取り組んでいるか。
アンケートの回答を、最も良い状態を100としてポイントに換算したところ、2020年はすべての項目で、2019年を下回っていた。企業からの働きかけではなく、個人が自発的に学んだかを質問した「自己啓発」についても、2019年には27.0ポイントだったのが、2020年は26.1ポイントに急落した。
2018年にリクルートワークス研究所発表した分析によると、自己学習をしている人の割合は全体の33%。約7割が自ら学ぶということをしていない。
日本は人材育成にかける費用が、諸外国に比べて低いことは長く指摘されてきた。経済産業省の資料によると、「25歳以上の大学型高等教育機関の入学率」(学び直し)は、OECDの平均は18.1%だが、日本はわずか1.9%。人材育成投資(OJT以外)がGDPに占める割合でみても、アメリカは1.41%なのに対して、日本は0.23%しかない。そもそも、自主的に学ぶことが少なかったうえに、コロナが追い打ちをかけたのが現状だ。~~
企業活動での人材育成投資は、費用とみなされて、安定した予算化をしにくい分野です。しかし、諸外国と比較しても相対的に人材育成投資は低いのが現状という認識をもって、競争力向上のために計画的な予算化と実行をすることが望まれます。
また、個人の視点としても、オンラインによって学びの選択肢が広がっていることを活用して、個人でできる学びを習慣化させていくことも必要でしょう。
<まとめ>
成人の学び直しは、改善の余地が大きい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?