人件費を費用ではなく投資として見る
2月29日の日経新聞で「〈物価を考える「好循環の胎動」を聞く〉人件費抑制、デフレを助長 元エーザイCFO 柳良平氏」というタイトルの記事が掲載されました。人件費や人的資本経営について考えるうえでの示唆的な内容だと思います。
同記事の一部を抜粋してみます。
上記から、2つポイントを挙げてみます。ひとつは、人的投資の効果は短期ではなく長期的に表れてくるということです。
普段いろいろな企業への訪問時に、人的投資に話題が及びます。時々飛び交うのは、人的投資における短期的な効果の追求の視点です。
例えば、「タレントマネジメントにこれだけのお金を投入したが、現場の生産性は実際に今年どの程度上がっていそうだと言えるのか」「昨年から賞与などで従業員に還元しているが、今期のパフォーマンスにはその効果が見て取れるのか」「社員研修によって今年何が変わったのか」といった具合です。
しかし、人への投資は、売上高、利益率など、最終的な財務上の指標になって表れるまでには時間がかかります。個人の能力・意識が変わり、行動が変わり(あるいは行動しながら能力や意識が変わり)、個人の成果となって表れるまでには、一定の時間を要します。
さらに個人の成果が組織の成果としてまとまるには、組織文化の変容、人材配置の適正化、適切な目標マネジメント、上司部下間の指揮命令系統下でのやり取り、会議体のあり方の変化なども含めた、さらなる変数が絡んできます。
よって、半年や1年といった短期間で変化となって表れる要素もあるかもしれませんが、多くの要素は長期間その人的投資を継続することで効果が確認できるものです。同記事にある「5、10年後に遅れて事後的に遅延浸透して効果を織り込む」からも、5~10年といった長期的視点で効果を確認していこうという視点をもつ必要があると考えられます。
「昨年度末と今年度末の組織サーベイの結果を比べても、あまり変わっていない」などの短期的視点での反応は、的を外すことになるのではないかという示唆だと思います。
もうひとつは、効果となって表れるのは長期間ながら、効果を確認するための指標を持っておくべきだということです。
企業での投資活動として行う以上、自社の価値を高めることにつながったのかどうかを判断するための指標を何らかもっておくことは必要です。その指標には、同記事のようにPBRなどの財務面で定量化したものから、従業員の意識など定性情報を定量化したものなど、いろいろありえます。
人的投資の効果を見る指標の定義に、決まったひとつの方法論があるわけでもありませんが、自社としての指標を持っておく必要があります。
「人的資本」という言葉を聞くことが増えましたが、以前は「人的資源」という言葉を聞くことのほうが多くありました。英語で言うと、人的資源=Human Resource、人的資本=Human Capitalという言葉で出てきます。
ResourceとCapitalを辞書で調べると、次の通りです。(英辞郎on the WEB Proより一部抜粋)
【Resource】
資金、要員、供給源
天然資源
〔会社の〕資産、財産
【capital】
〔生産要素の〕資本
〔会計の〕純資産、正味財産
〔役に立つ〕利点、長所、強み
これらも参考にすると、「人的資源」は、企業においてモノやカネなどと同様に、人材を「消費するもの」とみなすニュアンスが出てきそうです。かかる費用を、投資というより「コスト」と認識するイメージです。鉱山資源や原材料、設備のように、使えば使うだけなくなる・摩耗するという捉え方かもしれません。
「人的資本」のほうは、企業にとって「価値を高めるべき投資対象となるもの」というニュアンスが出てきそうです。その人が持っているスキルや経験値に加え、将来もたらしてくれる経済的な価値も含むと認識するイメージです。
私が見聞きしたり、検索したりした結果の範囲内ですが、「人的資源管理」「人的資本管理」のどちらも言葉としてはありますが、「人的資源管理」のほうがより多く聞く印象です。
一方で、「人的資本経営」という言葉は最近特によく聞きますが、「人的資源経営」という言葉はほとんど聞きません。
つまりは、人材を「資源」の視点で見た場合は管理すべきもの、「資本」の視点で見た場合は経営に積極的に参画させその潜在力を最大限引き出せるよう導いていくもの、と捉えられるのではないかと考えます。
人的資本経営の視点から人的投資を行っているか。振り返ってみたいポイントだと思います。
<まとめ>
「人的資本経営」の視点から、長期的視点で人的投資を行う。