移民送り出し国の便益から考える
3月22日の日経新聞で、「国際労働力移動と移民(5)」というタイトルの記事が掲載されました。人材が国外に移転して頭脳流出する場合の影響と、国外からの送金の効果について考察している内容です。
同記事の一部を抜粋してみます。
日本や他国において、国内人口の減少から、労働力人口確保を目的とした移民の受入制度についての検討・議論が盛んになってきています。そうした場面では当然ながら、受け入れ国としての便益や懸念、懸念への対策が論点の中心になります。言語をはじめたとした教育、ビザの資格付与や在住期間、治安の確保などです。それら以前に、そもそも移民先として目指したいと思える経済力があるのかという論点もあります。
そのうえで、視点を変えることでものの見え方が変わってくることを、同記事は示唆していると思います。すなわち、移民の送り出し国側の視点に立つと、人材が他国に渡ることで送り出す側にとっても便益を得られる可能性があるのが見えてくるということです。
同記事では、送り出し国にとって正負両面の影響の可能性を示唆しながら、正の影響の可能性としては主に次の点を便益として挙げています。
・人材流出が、受け入れ国の要求するスペックに合う人材を育成するニーズを高めることで、送り出し国の人的資本への投資・人材育成の成果を高める。
・流出した人材が送り出し国にもたらす技術やネットワークが、送り出し国の経済成長を促す要素になる。
・送り出し国への送金が増え、収益の一部となる。金融システムが改善する。
上記の視点に立つことで、移民受け入れが送り出し国に対する国際協力・貢献としての可能性もあると捉えることができるわけです。受け入れ国側の立場である日本も、この新しい視点に立つことで、移民受入れ制度の検討についての見え方が変わってくるのではないかと思います。
加えて、今後日本は移民の送り出し国としての性格も帯びてくることが想定されます。この1年の賃上げや物価上昇などで、ようやく他国並みの水準です。これが維持されないような状況なら、他国に対する日本の給与水準は引き続き地盤沈下していくためです。
既に一部の若手世代の間では、オーストラリアやカナダなどへ、ワーキングホリデー制度などを活用して出稼ぎに行く例も出てきています。オーストラリアのレストランで働き、月収40万円を得ながらなるべく節約してお金を貯める、といった記事も見ることがあります。
他国へ移民として渡ることが長期的に送り出し国の便益になり得る、という視点は、送り出し国に転じる日本としても意識しておいたほうがよいと思います。また、最大限の便益を得られるためにも、一度流出した人材が積極的に関わりたい、あるいは戻ってきたいと思える環境をつくることも大切だと思います。
そして、上記の視点は企業にも当てはまるのではないかと考えます。すなわち下記です。
・自社で雇用する人材の他社への流出は、自社の人的資本への投資・人材育成の成果を高めることにつながる。
・流出した人材が自社にもたらす技術やネットワークが、自社の事業拡大に寄与する要因の一角になり得る。
・(送金や金融システムはあまり関係ないと思いますが)流出した人材が事業や仕事の案件を自社に持ち込むことで、新たな収益機会となり得る。
内情は存じ上げませんが、例えば卒業生が活躍することで有名なリクルート社は、まさにこの構図が当てはまると言えるのかもしれません。
自社からの人材流出には、私たちはどうしてもネガティブな捉え方となります。そのうえで、前向きな退出であれば、自社にも便益があることが上記からは見えてきます。
理想論であり、難しいことだとは思いますが、自社からの人材流出についてもポジティブな視点がもっとあってよいのかもしれません。そのうえで、前提として、流出する人材から流出した後も関わりたいと感じられる組織にしておくべきです。
<まとめ>
人材を送り出す国や企業にも、人材流出は便益を得る機会となり得る。