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リバースメンタリングという取り組み(3)

8月20日の日経新聞で、「支店長・部長、若手が逆指導 東京海上日動、職場づくり参画」というタイトルの記事が掲載されました。

経験年数の長い人が新人などのメンターになる一般的なメンター制度の逆で、若い世代が年配者のメンターとなる「リバースメンタリング(RM)」については、以前の投稿でも取り上げたことがありますが、その後も導入の動きが広がっている印象です。

同記事の一部を抜粋してみます。

東京海上日動火災保険は10月から、若手社員が直接関わりのない支店長や部長に逆指導する「リバースメンター」制度を始める。仕事への疑問や業務改善の意見をぶつけて日ごろの職場づくりに参画してもらい、新しいアイデアなどを生みやすい環境をつくる。

若手社員が役員や幹部社員の先生役になるリバースメンター制度は、資生堂や三菱マテリアル、一部の銀行などで導入が進んでいる。若手の問題意識や感性を吸い上げ、イノベーションが生まれやすい土台づくりに役立てているという。

東京海上日動は第1弾として、35歳以下の社員から先生役を募り、相対する上司を24年度の新任部長・支店長から選ぶ。これまで若手社員が他部署の部店長と直接話す機会は少なかった。

世代間の距離を近づけ、年次や経験にとらわれない意見を組織運営に生かせるようにする。

マッチングは、まず新任部長・支店長が自身の経歴や話してみたいテーマをまとめた自己紹介を社内の掲示板で共有する。それをみて若手社員が上司を選ぶが、直属の上司や過去に接点があった人物は選べない。事務局が応募理由などを踏まえて、最終的に決める。

話すテーマは部店運営に関する悩みなど、柔軟に変えられる。例えば若手目線でやりがいを感じられる働き方や人材育成の手法、人工知能(AI)、SNSを現場でどう活用するかといったアイデアなどを話す。得た知見を部店運営や業務に取り入れてもらう。

対面とオンラインを組み合わせ、月1回1時間を目安に面談する。全国から参加可能で、新入社員からの応募もきているという。来年度以降はすべての部長や支店長へ対象を広げることも念頭に置く。

こうしたリバースメンターの導入に踏み切ったのは、優秀な人材の確保に危機感があるからだ。ベテラン、中堅社員の固定観念にとらわれず、若手の発想を生かすことで世代を問わず働きやすい職場をつくる。

こうした環境改善により、一度退職した社員の再雇用制度にも本腰を入れる。今夏から通年で応募できるようにし、年2回だった入社時期も4回に増やす。退職のタイミングで専用サイトに登録してもらい、再び働くための情報収集をいつでもできるようにする。

「35歳以下の社員から先生役を募る」という手あげ制になっていて若手社員の主体性に基づいていること、事務局がマッチング機能を担っていることが、ポイントではないかと想像します。

いずれは全員を参加対象にできるのかもしれませんが、これまでになかったことで、かつ緊急性の低い組織活動は、いろいろな考えや思いをもって見ている人がいるものです。本テーマのように、若手社員が役員や幹部社員の指導役になるという新しい概念に対しては、一歩引いて見ている人も多いかもしれません。

社をあげての施策を方針とし、最初から全社員の参加を対象とするやり方もありますが、手あげ制にして主体性のある人のみを指導役にする範囲からまずはテストマーケティングしてみるというやり方は、理に適っていると思います。(指導する側と受ける側の人数調整など、マッチングの負荷は高まると思いますが)

本テーマのような活動で効果を上げるためのカギとなるのは、やはり指導を受け止める側の役員や幹部社員の意識だと考えます。

先日、知人でITの領域に明るい方にお話いただく機会がありました。その方によると、「年を重ねるほど学習能力が落ちる。だから今さらITに慣れるための勉強などやるのは非効率である」と捉えて、ITの領域の学習を敬遠するベテラン層は多いそうです。

確かに、記憶力など一部の認知機能は、若い頃にピークを迎え、その後徐々に低下する傾向があると言われています。しかしながら、年を重ねても脳の神経可塑性(脳が新しい情報を取り入れ、適応する能力)がなくなるわけではなく、年齢を重ねても脳は新しいことを学ぶ能力を持っているとされます。また、それまでに蓄積した経験や知識と新しい情報を関連付けるなどで、新しい物事についてより深く理解できる可能性があるということも言われています。

リバースメンタリングで、ITなどは取り組み項目になりやすいと思われますが、学ぶ側の学習ということに対するこうした姿勢を変える必要があると言えます。

加えて、同知人からは興味深いお話を聞きました。

「企業研修を実施しようとしても、管理職の人がなかなか研修に参加表明をしないことがある。ところが、まったく同じ趣旨・内容の研修でも、「管理職対象」とタイトルに一言入れて研修項目の見え方を少し変えた研修を別途で設置すると、展開がまったく変わり、管理職の人が別途設置したほうに次々と参加表明することも多い」ということです。

これは何を意味しているかというと、「非管理職の人に、そのテーマについて管理職である自分がわからないという姿を見られたくない」という心理です。

管理職の人が、すべての領域においてメンバーより知識・経験・考察力が優れている状態を目指す必要はありません。自分の不得意領域や知見の浅い領域は、若年層から素直に学ぼうとする姿勢も必要だと言えます。

同記事のような取り組みによって、組織内で小さな行動を増やし、成功事例を増やしていきながら、いずれは組織全体のベテラン勢の意識も変えていけるとよいと考えます。

なお、リバースメンタリングについて、もしよろしければ以前の投稿もご参考にしてくだされば幸いです。

<本日の一言>
リバースメンタリング成功のカギのひとつは、学ぶ側である年長者の意識の変化。

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