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最低賃金引き上げを考える

先日、ある企業様との打ち合わせの中で、アルバイト従業員の時給引き上げが話題になりました。(同社様に限りませんが)雇用契約時や契約更新時には、属する地域の最低賃金以上の条件となるようにしています。

10月から最低賃金の基準が改定されることに伴い、これまで同社様で下限としていた金額が地域の新基準に抵触してしまうため、数十円引き上げることになったというわけです。

最低賃金に関連して、10月4日の日経新聞で「日本の最低賃金「十分ではない」 審議会長、外国人材の獲得激化念頭」というタイトルの記事が掲載されました。一部抜粋してみます。

すべての労働者に適用する最低賃金の引き上げ額を話し合う中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)の藤村博之会長が3日、日経電子版のオンラインイベント「NIKKEI LIVE」に出演した。国際的にみた日本の最低賃金の水準について「差は縮まってきたが、まだ十分とはいえない」と語った。

経済協力開発機構(OECD)によると、23年のフルタイム労働者の賃金中央値に対する最低賃金の比率は日本が46%で、60%台のフランスと韓国、50%台の英国やドイツを下回る。藤村氏は「国際的な人材獲得競争が繰り広げられるなか、ある程度の金額を示さなければ、日本は外国人労働者から選ばれない国になる」と指摘した。

最低賃金は年に1度、国の審議会が示す「目安」をもとに、各都道府県の審議会を経て引き上げ額を決めている。24年度は時給ベースで51円引き上げ、全国平均1055円となった。引き上げ額は過去最大だ。10月1日から順次適用が始まっている。

当初、国が示した目安は全都道府県で一律50円上げだったが、結果的に半数を超える27県で目安を上回る引き上げ額となった。例えば徳島県は84円、岩手県と愛媛県は59円の引き上げを決めた。人手不足や隣県との競争意識が背景にある。「地方の審議会が自主性を発揮した。結果として(都市部との)金額の差が縮まりつつある」と評価した。

最低賃金を巡っては、石破茂首相が20年代のうちに全国平均1500円まで引き上げる目標を打ち出した。かつての岸田文雄政権では30年代半ばの達成を目指しており、時期を前倒しした。藤村氏は「単純計算で毎年90円上げる必要があり、ハードルは高い」と述べた。

同記事では、賃金平均値ではなく賃金中央値が検討材料として提示されています。

平均値と中央値の違いは、次の通りです。

平均値:データの合計を個数で割ったもの
中央値:すべての値を小さいほう(あるいは大きいほう)から順に並べたときの、ちょうど真ん中の値

平均値をもとに比較した場合、収入が多い少ないなど賃金格差の大きな国とそうでない国との間で、比較結果に歪みが出やすくなります。同記事では中央値(その国でちょうど真ん中の順位の人が得ている賃金)に対しての比較です。よって、同記事の%の割り出しによる示唆は、その国でちょうど真ん中の順位の人が得ている賃金に対して、法定の最低賃金がどのくらいの格差水準なのか、ということになります。

日本の46%とは、日本でちょうど真ん中の順位の人が得ている賃金に対して、最低賃金が半分以下の46%ということを意味します。この値が、他国と比べて見劣りするという問題提起です。

最低賃金は、非正社員の雇用形態の従業員を雇用する場合に、最低限上回る必要のある金額として意識することの多いデータです。また、同記事の示唆する通り、最低賃金は外国人従業員を雇用する際にも意識されやすいデータになります。

日本の賃金は、他国と比べて相対的に年々地盤沈下が続いていることが、各所で指摘されています。そのうえで、賃金中央値に対する最低賃金の水準も低いということからは、正社員でない従業員の賃金水準は、なおさら地盤沈下が進んでいると言えそうです。この値が上がってこないと、労働力人口のフル活用にはなりませんし、外国人人材の惹きつけもうまくいかなくなります。

そうした観点からは、これまで以上のペースで最低賃金を引き上げていくという、国の方針や社会の流れは、一定の妥当性があると考えられそうです。

また、最低賃金の引き上げは、長期的には正社員の賃金水準の引き上げにつながるはずです。わざわざ正社員としてその人材の労働時間を丸抱えするわけですので、雇われる側の視点としては、最低賃金から一定程度高い賃金支払いを求めます。正社員の受け取る賃金と最低賃金の差が縮まってくれば、正社員の不満要因となります。雇用側としては、賃金を引き上げていくしかありません。

雇用側としてはその代わりに、正社員に一層の付加価値を求めることになります。仮に正社員がアルバイト従業員に任せている仕事とまったく同じパフォーマンスであれば、アルバイト従業員を雇うほうが合理的だからです。よって、最低賃金の引き上げは、間接的に正社員の生産性向上にもつながると考えることができます

最低賃金の引き上げは、企業にとって大きな負担です。時給数十円×時間数×人数の人件費増となります。その分の利益を新たに確保するのは、容易ではありません。そのうえで、世界経済が発展し賃金水準が上がり続けることを踏まえると、自社だけ賃金を据え置いたままというわけにもいきません。

最低賃金引き上げ水準をひとつの契機、世界経済からのアラートと考えて、自社なりに対応し適応していくことが、自社の競争力を維持向上させるうえでも不可欠なのだと、改めて認識し臨むべきなのだと思います。

<まとめ>
これまで以上のペースでの最低賃金引き上げ要請は、所与のものとしてとらえる。

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