見出し画像

オフィス設計を若手人材が発案するという事例

12月27日の日経新聞で、「YOUTH FINANCE(12)オフィス、若手が発案 住友・第一生命、幹部に直言」というタイトルの記事が掲載されました。これからのオフィスのあり方を検討し提案することをプロジェクトとし、若手社員にプロジェクトメンバーとして活動してもらい、形にする事例を取り上げた内容です。

同記事の抜粋です。

金融機関が新たなオフィスを設計する際に若手社員のアイデアを重視する動きが広がっている。人材確保の難しさが増すなか、社員の働きがいを高めるだけでなく、採用でのプラス効果を期待する意味合いもある。

「新しい本社でどういう価値を生み出すのか検討してもらいたい」。2023年2月に東京ミッドタウン八重洲(東京・中央)に東京本社を移転した住友生命保険。その3年前、若手プロジェクトチームのメンバーに高田幸徳社長は呼びかけた。

チームは入社10年前後の約30人。まず職場環境の課題と、理想とする働き方が何かを話し合った。「組織が階層構造で、末端のアイデアの芽が出にくい」「組織間で大きな壁があり情報共有できていない」

部長たちが口にするのをはばかりそうなリアルな意見を基に、それを解決するための提言を経営会議でプレゼンした。

新オフィスには、ふらっと立ち寄って交流しやすいコミュニケーションエリアを5カ所つくった。デザインのイメージは大学のキャンパスやキャンプ場などだ。

24年の社内調査でオフィスの満足度を10点満点で聞くと、8点以上が回答の61%に上った。22年から約50ポイント高まった。

かつて終戦後にGHQ(連合国軍総司令部)が本部を置いた第一生命日比谷ファースト(東京・千代田)。23年8月までのリノベーションで第一生命保険のオフィスには、フロアの中央を突き抜ける「アイデアの交差点」と呼ばれる道ができた。

誕生のきっかけは、新オフィス検討のために選ばれた若手中堅社員18人の提言だ。コミュニケーションを増やそうと経営陣に提案した。移転後の23年10月の調査では、1人あたりのコミュニケーション時間は全フロアで前年より増えた。

オフィスは現役社員のつなぎとめにとどまらず、少子高齢化などを背景に「売り手市場」になりつつある採用現場の競争力も左右する。

日経リサーチとCBRE(東京・千代田)が経営層129人に7月聞いた調査では、オフィスを変更したり面積を増やしたりした理由や背景について37%が「従業員のエンゲージメント向上」と回答した。29%が「人材の採用強化・つなぎとめ」を挙げた。

もちろん、働きがいの向上にはオフィス環境の改善だけではなく、自由に意見が言える風通しのよさといった組織そのものの風土も重要だ。若手の意見から生まれた交流スペースは、その環境づくりにもつながる。

いかに意欲的で、優秀な人材を確保するかが企業の競争力に直結するようになった今、オフィスの環境改善は企業の成長に向けた重要なツールの一つになっている。

同記事からは、3つのことを考えました。ひとつは、オフィスの役割が変わっているという点です。

コロナ禍という出来事もあり、テレワークという就業形態が広がりました。テレワークという就業形態が可能な事業や職種とそうでないものとがありますが、以前はほぼ無条件に仕事=出社という概念だったのが、今では「出社は仕事の手段」という概念に変わったことは確かです。

そうであるなら、オフィスという要素に改めてどんな機能をもたせるべきなのか、再定義する必要もあります。どのように再定義するとよいかは、一般論から導き出される一定の要素もあると思いますが、各社の理念や価値観、ビジネスモデルなどで創造性豊かに設計してよい領域だと思います。

2つめは、若手社員に裁量権を与えて委ねることの意義です。

なんでもかんでも若手社員にアイデアの発案を委ねる、ボトムアップするのがよいとは限りませんが、本テーマは委ねるのが有効な領域かもしれないと感じます。

なぜなら、同記事中にある(おそらく新卒の)「入社10年前後の約30人」のような層は、働き始めてからの大半をコロナ禍の環境下で四苦八苦した方々で(マネジメント層はマネジメント層の四苦八苦ももちろんあったはずですが)、かつオンラインを含めた次世代インフラへの感度も高いと(ベテラン社員に比べて比較的)想定される層だからです。

長年、従来のオフィスという環境に慣れ親しんだ人材層は、コロナ禍も終わり、今後の就業形態・オフィスのあり方を考えようとすると、どうしても「従来型に戻す」イメージにとらわれかねません。そうした「従来型」の呪縛のない人材層が発案することが、より優位性を発揮しやすいかもしれません。テーマとキャスティングの合致の観点から、参考になりそうな組み合わせだと感じます。

3つ目は、小さなプロジェクトマネジメントを体得する経験になるという点です。

こうした小さなプロジェクトであっても、その成功のためには、オフィス設計の目的を明確にする、その目的を浸透させる、目的に合った目標の設定とPDCAを遂行する、関係者を巻き込む、利害関係を調整する、といった、プロジェクトマネジメントの諸要素を含んでいます。よって、オフィス設計というプロジェクトを通じて、プロジェクトマネジメントの素養を高める一助になるのではないかと思います。

また、プロジェクトがうまくいかなくても、お客さまには直接の迷惑がかかりません(仮にオフィスレイアウトの変更が大きなパフォーマンス低下を招いてしまうなどになれば、間接的に迷惑がかかる可能性があり、それは避けるべきですが)。うまくいかなければ、元に戻したり、再度リニューアルしたりして、社内ごとでやりかえればいいだけです。

将来的にマネジメントを担えるようになるうえで、案外こういう小さなプロジェクトの試行錯誤や成功体験の蓄積があるかないかは、気づくと大きな差を生み出していくのではないかと想定されます。

とれるリスクをとって任せてみるという観点から、参考になる事例ではないかと思います。

<まとめ>
テーマに合ったキャスティングで、小さなプロジェクトマネジメントを体得する機会をつくる。

いいなと思ったら応援しよう!