公平な分配を考える
11月8日の日経新聞で「超富裕層に増税検討 所得数億円超、株売却など対象 「1億円の壁」」というタイトルの記事が掲載されました。所得の多い富裕層ほど税負担率が低くなる「逆転現象」があると言われていることについて、是正する動きがあるというものです。
同記事の一部を抜粋してみます。
約1年前の投稿「1億円の壁」で、この話題をテーマにしたことがあります。その際にも取り上げたことですが、このテーマについて考察するにあたっては、まず事実を押さえる必要があると思います。
事実として、富裕層が税制度で直接あからさまに優遇されているわけではありません。給与以外の株式や土地・建物の売却益の所得税率は一律で、富裕層もそうでない層も同じルールで支払っています。
また、富裕層ほどこれらの取引額が大きくなる結果、給与以外のこれらによる所得が大きくなるために、全所得を合算した時のトータルでの税率が低くなるということです。所得が増えた分、絶対額としてはより多くの税金を支払っているわけです。税金を回避できて得しているなどというわけではありません。
適当な例えですが、以下で3.の層はもっと税金を払うべきだとする意見という解釈もできます。
1.給与所得5,000万円で税金2,250万円(45%)を支払う、株式売却による所得なし
2.給与所得5,000万円で税金2,250万円(45%)を支払う、株式売却による所得5,000万円で税金750万円(15%)を支払う(税金トータル3,000万円)
3.給与所得5,000万円で税金2,250万円(45%)を支払う、株式売却による所得1億円で税金1,500万円(15%)を支払う(税金トータル3,750万円)
現状で3.の層を例えば、株式売却による所得1億円についても給与所得同様税金4,500万円(45%)でトータル6,750万円を支払うように求める、のようなイメージだとします。これは、公平さが高まる制度変更なのでしょうか。何をもって公平とみなすかの観点から、賛成と言う人も、違和感ありと言う人も、どちらもいると思います。
株式や土地・建物などの売却益が出るということは、なんらかのリスクをとって投資した結果です。上記1.の人はそのような行動をとっていません。加えて、損失を出した時に助けてくれるわけでもないでしょう。
リスクをとってうまくいかなかったらそれまで。うまくいったときには、うまくいった度合いに応じて負担率が上がっていく。社会の全体最適のためにはそれがあるべき姿である。これを公平と考えるかどうかはいろいろな意見があると思いますし、決まったひとつの答えはない問いです。
さらには、同日付の記事「「棚ぼた課税」は愚策か」で、少し違った視点から考えるヒントを見ることができます。一部抜粋してみます。
「せっかくのもうけに課税しては株主や企業の投資意欲をそぐ」という批判がありながらも、国際的には「棚からぼた餅」の超過利益に対しては通常以上に課税するのが妥当だという考え方が相応に支持されているというわけです。
給与所得以外の所得を「棚からぼた餅」と呼ぶべきかは議論の余地がありますが、冒頭の検討の背景からはそのようにみなしていく動きとも感じられます。そして、国際的にもその考え方は一定の支持を受けていると見ることができそうです。
このテーマに決まった正解はなく、冒頭のような税改正となるのも、現状維持のままとなるのも、どちらも結論としてありだと言えます。
そして、このことを自社の状況とも関連付けて考えることもできます。好業績を上げて会社に貢献する人に対して、(そうでない人との差分も見ながら)どのような環境下ならどのような還元まですることを自社の方針としてよしとするのか。何を公平性とみなすかという観点から考えてみると、応用として有意義だと思います。
<まとめ>
何が「棚からぼた餅」とみなすか、そのぼた餅に対してどう向き合うべきかを定義する。