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「ゆるブラック」と若手人材を考える

9月20日の日経新聞で、「「ゆるブラック」にご用心 残業や待遇を改善…若手なぜ辞める?」というタイトルの記事が掲載されました。待遇はいいが、仕事にやりがいがなくスキルアップできる環境が乏しいと感じてしまう「ゆるブラック企業」を辞めた若手人材との対話を取り上げた内容です。

同記事を抜粋してみます。

働き方を改革したのに「なぜか若手が辞める」と悩む企業は多い。残業は少ないが、スキルやキャリアを高めづらく、士気の低い職場を若手は「ゆるブラック」と呼ぶ。日本経済新聞がオープンワークの協力を得て、社員口コミサイトの6680社への投稿を分析すると、半数近くにこの傾向があった。新卒で入社した人気企業を去った20代に転職の本音を聞いた。

――前職でモヤモヤしたことは。
Aさん「待遇や社内の風通しは良かったが、人事評価が不満だった。はた目にはあまり仕事をしていない同僚が評価されていて、基準がわからなかった」
Bさん「私も最大の不満は人事評価。表向きはホワイトだが、実はパワハラ上司もいて『上司がちゃ』の当たり外れが大きい。希望部署に異動できず、社内政治で人事が決まり、実力で評価されづらいと感じた」
Dさん「待遇面は良かったが、希望する法人営業への異動には『最長10年間、振り出しの店舗スタッフで経験を積む必要がある』と言われた。20代をまるまる店舗スタッフに費やしたとき、30代の自分に何が残るのか不安になった。キャリアを考えると、成長できる経験を積むべきだ」

――なぜ転職の決意に至ったのですか。
Aさん「職場で中長期の戦略を提案したものの、上司の『足元のことをやれば十分。戦略は考えなくていい』の一言にとてもショックを受けた。5年以上ここにいて転職を逃すと、労働市場での価値がなくなると危機感が募った」
「転職先は脱炭素で変化が激しいエネルギー業界で、やりがいがあると感じた。社員レベルで中長期の目標をしっかり定める社風に引かれた」

――「危機感」を詳しく教えてください。
Bさん「新卒や若手の給料を上げている企業は多く、我々世代は恵まれている。ただ、中間層の30~40代になった時の上がり幅が小さく不安。『日本型雇用』は終わった。自分の市場価値を高めれば、転職時に年収はもっと上がる」
Cさん「キャリア構築への不安が大きい。活躍している同世代のSNS投稿を見て焦りが生まれた。体力がある20代で様々な経験をすれば、30代以降のキャリアで選択肢を増やせる」

――前職がどういう環境であれば、転職しませんでしたか。
Dさん「入社後のギャップが大きいと離職につながりやすい。就活時に『定期的な配置転換で希望部署にいきやすいよ』と言われたが、実際は異動までに5年以上かかると知った。あとトップダウンの指示が強すぎると現場の士気が下がる。現場から問題提起をし、話し合える場があればやりがいにつながった」
Aさん「若者は残業したがらないと言われるが、私は違う。意義がわからない仕事は苦痛だが、成長を感じる仕事は楽しく、いくらでもできる。若手の仕事の意義をもっと説明すべきだ。上層部の企業戦略に若手も巻き込む環境があれば転職を思いとどまった」
Cさん「同僚や上司との対面の仕事がもっとあれば考え直したかもしれない。新卒からコロナ禍を経験した世代で、オンライン会議は味気ない。転職先はあえて全日出社の企業に決めた」

――現在の職場をどう評価していますか。
Dさん「新卒一年目がチームリーダーとして活躍していて衝撃だった。『自分は今まで何をしていたのか』と焦る。前職より大変だが、成長を実感できてうれしい」
Aさん「仕事は山積みでマニュアルはなく、カオスだ。だけど組織をつくる段階で、文化祭前日の高揚感のような楽しさと充実がある」

以前の投稿で、「衛生要因」「動機づけ要因」から考える離職対策についてテーマにしました。株式会社カイラボ様の提唱する「早期離職のタイプ別 ナインボックス」に沿って自社の現状、目指すべきポジショニング、そのための取り組みを考えてみるということでした。

そして、会社としては例えば、社員のために衛生要因を高めようと取り組んでいることが逆に社員の不安感を高めることになっている、動機づけ要因を高めようとして社員の疲弊を大きくしているなど、会社の取り組みと社員に対する効果の間のずれについても考えました。冒頭の記事は、それらのことに通じる内容だと感じます。

ここでは、改めて4点考えてみます。ひとつは、働きがいを求めている人材は多いだろうということです。

「働き方改革」というスローガンが出てきて以降、労働時間の短縮や労働環境の整備が進んできました。そのこと自体は必要であり、評価されるべき動きでもありますが、一方で「仕事で負荷をかけない」「成果に至ってなくても定時が来たら仕事を終えさせる」といった、仕事や労働の本質からややずれた指導や監督が見られるようにもなったのは、各所で指摘されているところです。

「若い時の苦労は買ってでもせよ」という言葉にはいろいろな見方や意見があります。明らかに意味のないことや、それをやることでの効果が何も得られないとわかりきっている苦労は、する必要がないだろうというのが、個人的な意見です。一方で、意味や効果を得る途上にある苦難のプロセスや、意味や効果があるかどうかやってみるまで分からない苦労は、必要ではないかと思います。

同記事のように、働きがいを求めて残業をいとわないという人材も、相応にいるものと想定されます(もちろん、はじめから残業ありきではなく、効率や健康状態と両立する働き方の維持は大切です)。

会社としては、そのことも念頭に置いて、例えば「現状が「ゆるブラック」と想定される自社において、さらに衛生要因を手当てするが動機づけ要因は手当しない」など、的を外した施策に走らないことが大切だと思います。

2つ目は、成長できそうにないと思える環境は、若手世代の危機感を高めてしまう大きな要因になり得るということです。この点は、ミドルやベテラン層の想像以上なのだろうと思いますが、これは自然なことです。

かつては、人が就職した時点から定年するまでの約40年間よりも、就職できた時点からの企業の平均余命のほうが長いと想定できた時代もありました。しかし、両者は既に逆転して久しいと言われます。また、個人のキャリア自律が叫ばれるようになって久しくもなりました。

企業より自分は長生きする。会社内外からキャリア自律も促されている。今の若手世代はかつての若手世代以上に、どんな環境になっても生き抜いていけるための自身の人材力を高めることに執着しようとするのは、当然のことです。

自社が良いと感じる人材ほど、一般的にはキャリア自律の欲求、自己成長欲求が高いはずです。こうした人材に魅力的な環境が提供できそうかどうかを、組織づくりを主導する立場の側は、自分たちが若手だった頃の感覚以上の視点から考える必要があるのだと思います。

続きは、次回取り上げてみます。

<まとめ>
若手世代は年々、キャリア自律と成長欲求を高めていると想定する。


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