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人事評価とモチベーションを考える

先日、企業の経営者様から問いかけがありました。同社様では、社内の仕組みの見直しの中で、人事評価制度のルール改定も行っているということです。

問いかけは次のような内容でした。

「人事評価制度を見直して新制度にし、各社員等級の期待役割や求められる要件を明確にした。それらの基準に照らし合わせると、旧制度で適用されている社員等級や役職が、新制度では見合わないという人材も出てくる。前々から周りもそう思っていて、本人もうすうす感じていたことが、改めて見える化されるということ。

そうした人材に対して、ストレートに新制度を適用させて例えば等級ダウンなどの結果になった場合、本人のモチベーションに影響が出るだろう。是々非々で制度運用していくのは良いが、その点が気になっている」

人事評価制度を見直す際に出てきやすい話です。

一言で制度見直しと言っても、見直しの内容や各社各様の事情などもありますので、対応方法も一概には言えないものがあります。

また、同社様ではいきなり新制度へ移行するのではなく、一定の猶予期間をとるようです。猶予期間中に新制度で求められる要件を満たしたと評価されれば、等級ダウンにはならずステイとなるようです。猶予期間という考え方と設定も、一般的によく見られることです。その会社にとって妥当なやり方とみなすかどうかは、この猶予期間の運用方法次第の面もあります。

そのうえで、上記の問いかけに関連し基本的な考え方にすべきは、次の3つではないかと思います。

・評価項目に関する現在の評価であり、将来の評価や人間性の評価ではない
・「モチベーション」は目的ではなくて、結果である
・個人のモチベーションより、組織全体のモチベーションをとる

評価は、現在の状態がどうなのかが対象です。過去に会社が求めていた基準に合致するものを発揮していたとしても、現在求めている基準に足りていない部分があれば、その部分は足りていないという評価にするべきです。

現在に対する評価結果が、未来永劫踏襲されていくものでもありません。例えば、本人が望んでいる等級や役職に対して今何か足りない要素があり今はそれらに達していないと評価されるとしても、これからその要素を満たしていくための取り組みをすることで、将来のどこかの時点で充足という評価になり得ます。充足したとみなされれば、相応のポジションに割り当てればよいわけです。

また、評価は、仕事の成果、成果を生み出すための行動、行動に必要となる知識・技能・仕事の取り組み姿勢など、その会社が定める評価要素に関して行うものです。本人の人格や人間性そのものを対象に「良い人・悪い人」「十分・不十分」などと言うものではありません

私たちは、往々にして、低評価された(低評価する)=人物否定された(人物否定する)のようにとらえがちな面がありますが、両者は切り分けて捉える必要があります。相手の人物そのものが良い悪いと評価するのではなく、各評価要素についての現状を評価するということ、そしてその評価結果も今後変わりうるものだと捉えるべきです。

次に、評価はモチベーションを上げるために行うものではありません現状を可視化して、あるべき姿・目指したい姿とのギャップを明らかにし、実現したい成果創出や能力開発のためにどんなことを行うべきかの課題形成につなげる、加えて適切な処遇を行うために実施するものです。

モチベーションは、課題に取り組んでいった結果、パフォーマンスが上がったり自己成長できたりすることで、結果的についてくるものと捉えるのが適切なはずです。

会社や評価者が評価結果を伝える際に、本人にとって価値ある、有意義なフィードバックを行う必要がありますが、それを受けてモチベーションにどう向き合うのかは本人のほうの責任です。評価の本来の目的が、「相手にモチベーションをあげてもらう」といった別のものと入れ替わると、評価や人材マネジメントが歪むきっかけとなります。

上司や評価者の腕の見せ所は、今後につながるような価値ある、有意義なフィードバックをいかに行えるか、それを受けて今後何に取り組むかをいかに対話するかにあるのではないかと考えます。

仮に評価結果を操作して相手を持ち上げたりして、当該個人のモチベーションが上がったとして、組織全体ではどうでしょうか。評価結果を操作して特定個人を優遇しているというようなことに、周りは何となく勘づくものです。そうなると、「是々非々で評価すると言ってはいるが、結局やってもやらなくても会社からのリターンは同じ」「優遇されるかどうかは人による」など、周り全体のモチベーションが下がりかねません。

1月26日の日経新聞で、「〈直言〉森保一氏「モノ言う部下は大歓迎」」というタイトルの記事が掲載されました。サッカー日本代表監督によるチームマネジメントの考え方を紹介した内容です。その中から一部、印象に残った部分の抜粋です。

ピッチに11人がいて、1人がみんなを不快にさせたり機能性を失わせたりすることがあるなら、私は10人の方を取ると選手には伝えている。存在や活動がチームのフィロソフィーに沿わないのなら、結果を出していても外す、とも

モチベーションという観点で考える場合に、1人のモチベーションと周囲全員のモチベーションと、組織としてどっちをとるべきか。答えは明白だと思います。

未来永劫の烙印を押すわけではなく、現状を見える化する。評価を適切な課題形成につなげて、課題達成して結果的にモチベーションも高まっていく。

おさえておきたいポイントだと思います。

<まとめ>
評価はあるべき姿と現状のギャップの可視化であり、そのことによるモチベーションの上がり下がりは結果。

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