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初任給引き上げの動きを考える

10月18日の日経新聞で、「ノジマ、7%賃上げ 初任給30万円、小売り最高水準に」というタイトルの記事が掲載されました。人材確保の環境もより厳しくなっていく中で、給与水準の引き上げでさらなる高みを目指し、より早めに就活者へ示す取り組みについて取り上げた内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

家電量販店大手のノジマは、販売員ら従業員の約9割の賃金を平均7%引き上げる。まず2025年1月に全社員を対象に2%のベースアップ(ベア)を実施し、4月には現場手当を新設する。

ベアは全従業員約3000人を対象に基本給を月1万円引き上げる。24年の賃上げはベア3%を23年12月に表明していたが、25年については1カ月半ほど早く決めた。従業員の生活支援を急ぐ姿勢を鮮明にするほか、他社に先駆けた決定で人材確保につなげる。

25年4月には店舗や倉庫で働く社員向けに最大月額2万5千円の現場手当を新設する。店舗の販売員のほか、コールセンターの社員など全体の9割にあたる約2600人が支給対象となる。ベアの引き上げを含めると、平均7.4%の賃上げとなる。

25年4月入社の新入社員の大卒の基本給は27万5000円で、全員が店舗に配属されるため現場手当の支給対象となり、初任給は30万円となる。ヤマダホールディングスの一律手当を含む21万9000円~23万7500円を上回り、家電量販業界では最高水準になる。

日本経済新聞社がまとめた採用計画調査によると、小売業の24年春入社の初任給平均は前年度比3%増の22万8801円で、ノジマの30万円はファストリと同水準となり、薬剤師資格などが求められるアイングループの37万円に次ぐ高さとなる。

ノジマは足元の堅調な業績も受けて大幅な賃上げに踏み切る。エアコンやスマートフォン販売が好調で24年4~6月期の連結売上高は前年同期比10%増の1890億円、純利益は69%増の55億円だった。25年3月期の純利益は5%増の210億円を見込む。ベアや現場手当の新設で人件費は年間で約10億円の増加になる。

24年の春季労使交渉では急激な物価上昇などを踏まえ、ビックカメラやワークマンなど早々に賃上げ方針を決める小売企業が相次いだ。

25年の春季交渉ではサントリーホールディングスがベアを含む7%程度の賃上げを目指すと表明しているほか、連合がベアと定期昇給(定昇)を合わせた賃上げ目標について「5%以上」とする方針を固めていた。物価高や人材の取り合いも続くなか、賃上げを早々に表明する動きが今期も広まる可能性がある。

同記事からは、賃上げの実施は所与のものとして経営していく必要があることを、改めて認識します。

普段いろいろな企業様と打ち合わせしていると、「今期は賃上げを行う。来期はわからない、状況次第」というニュアンスのお話を聞くことがあります。もちろん、最終的にはそうなのですが、賃上げを継続的に行うことが人材マネジメントの前提であり、行わないのを例外とするべきだと考えます。

物価と賃金が上がっていくことが経済活動の基本的な流れであり、2020年頃までの日本で例外が長く続いたということです。そのことによる弊害と、例外から脱出する環境になってきていることが、各所で言われています。改めて、そのことを認識するべきなのだと考えられます。自社に対してはもちろん、仕入れ先などの関連会社のコストを考えるにあたっても、改めて必要な視点だと言えます。

賃上げを行うには、相応の収益を上げ続けなければなりません。

同記事で紹介されているノジマも、賃上げを行う源泉となる収益活動で、精力的な成果を上げていることがうかがえます。

そして、賃金についての企業間の差が激しくなっていることが指摘できそうです。

家電量販店で初任給30万円越えなど、同業界では群を抜いています。少し前までは想像できなかった水準ではないでしょうか。

以前は、就活生にとって「同業界ならどの会社も初任給は似たり寄ったり」のようなイメージでした。今では、同じ小売業と言っても会社によって差が大きくなり、就職先選定の判断要素としてもますます大きくなっていることがうかがえます。

また、賃金提示での企業間の差が開くということは、業界を超えて会社選びをしようとする誘引も大きくなることにつながります。業界内他社だけではなく、他業界の賃上げの動きにもますます敏感になることが必要だと言えそうです。

ところで、こうした動きを見ていると、「106万円の壁」問題などは、このまま制度が変わらなければ、そのうち自然消滅するのかもしれないと感じます。

投資などで使われることのある「70の法則」があります。70を年利(複利)の利率で割って得られる値を年数にすれば、元本が2倍になるまでにかかる年数の概算ができるというものです。年利が1%であれば、約70年で投資した元本が2倍になります。借金もまた70年で2倍です。(投資の積み増しや元本の返済などをしなければ)

3%であれば約23年、5%であれば約14年です。これを物価上昇に当てはめて考えると、3%の物価増が続く場合、23年後に今の100万円は今の50万円分の価値しかなくなるということになります。家計を底上げするための収入として、年間106万円はもはやあまりに小さな規模になっていきます

同日付の日経新聞別記事「労働力不足、35年384万人 パーソル・中大推計 短時間労働拡大で」では、短時間労働の割合が高まることも一因となって、2035年時点の日本の労働力不足が23年の2倍の384万人に達するという推計を紹介しています。

年収の壁を超えると目先の手取りの現金は減るものの、社会保険に加入することで得られる厚生の充実や、将来受け取れる年金が増えるなど、トータルで考えると損するものではないと言われています。このあたりへの理解も深めて、労働力の活性化を図っていくことも大切だと思います。

<まとめ>
企業間による初任給の開きが広がっている。

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