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「思い出資産」という持ち家の観点

「持ち家女子はじめます 人生に「いいこと」が起こるおうちの買い方」(石岡茜氏著)という書籍を読みました。「家と向き合うと人生が変わる」ということについて説明されていて、たいへん興味深い内容でした。

単身の持ち家率は、男性よりも女性のほうが2割近く高いそうです。このことからも、家を買うことに対して男性以上に女性のほうが敷居の高さを感じているということが言えそうです。

夫婦で住む2人以上の世帯の場合、所有者の名義になっているのはだいたい夫か、夫と妻の共同名義です。妻が単独で所有者の名義になっている例はあまり聞きません。「家を買うのは男性」という価値観が、どことなく根付いている結果だと思います。

同書は、家を自己所有するという概念がない層に対して、人生を変える力の一助となる「家の所有」を選択肢として知ってほしいという想いで書かれています。テーマは女性になっていますが、同書の視点は男性にも当てはまると思います。

印象に残った言葉を3つ挙げてみます。

「思い出資産」が貯まる:持ち家から引っ越す人から、「思い出が詰まった家を手放すのがつらい」と聞くことがあるそうです。一方で、借家から引っ越す人が「思い出が詰まった家を退去するのがつらい」とは言わないそうです。「借家はいつか出ていくもの」という意識の中で生活しているからではないかと、著者は指摘します。

私たちを取り巻く日常は、目まぐるしい環境変化の中にあります。そうした環境下で、「なんでもないんだけど温かな思い出」が貯まっていく持ち家での生活は、人生を支える存在になるかもしれません。

不動産には、魔力と魅力がある。魔力とは、不動産でよく連想される資産価値や投資価値のこと。魅力とは、家がもつ、安らぎの効果:魔力が悪いというわけではありません。そのうえで、魔力と魅力を混同させてしまうと、家選びに失敗するし、家の自己所有へのハードルを不必要に高めてしまいます。

住居として選ぶのであれば、「魅力」の観点で考える。そして、どんな住居が自分にとって「魅力」となるのかを考えるべきだという著者の説明は、不動産という存在に対して頭の整理をする上で有効です。

家を借りることは箱から始まり、家を買うことは人から始まる:家を借りる場合は、出来上がった箱から条件に合う箱を選んで住むことになります。一方で、家を買うことは、自分がどういう暮らしをしたいかを考えて、自分仕様にカスタマイズするという自分(=人)から始まることになります。

その結果、年収・年齢・勤続先など、どの属性でも、持ち家の場合のほうが住宅満足度が総じて高まり、借家では低下するという調査結果があるようです。家に対する満足度が高まることで、仕事もうまくいき始めるなど別の波及効果もあるのなら、その潜在的な価値はさらに高く評価できそうです。

そうした背景から、不動産業を営む著者が、「家を買って本当に良かった」という報告は聞くが、「家を買わなければよかった」という報告を受けたことはないと言います。

家を買ううえで真っ先に論点にあがるのは、土地や家屋の価値に関する財務的な資産の観点です。しかし、思い出としての資産の価値は、プライスレスと言えます。

もちろん、借家には借家のメリットがあります。持ち家がいいのか借家がいいのかについては、ひとつの正解はなく、個人の価値観やライフスタイルによります。自分にとってのメリット・デメリット、損得の判断のうえで決めることです。

そのうえで、判断材料として、目につきやすい財務的な要素だけでなく、直接は見えにくいメリットについても考えるとよいという視点は、参考になります。

このことは、家選びに限らず、仕事や生活での幅広い意志決定の場面で応用できる考え方だと思います。

<まとめ>
非財務の資産価値も考慮する。

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