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労働時間管理を考える

6月2日の日経新聞で、「みずほ、働き方「見える化」裁量労働制やめ慣行見直し やりがいと生産性両立」という記事が掲載されました。

同記事の一部を抜粋してみます。

みずほフィナンシャルグループは働き方改革の一環で、10月から企画の職場で裁量労働制を廃止する。あらかじめ労使で決めた労働時間を働いたとみなす労働の自由度を高める働き方だったが、一人ひとりの労働時間が見えにくく、過重労働を招く懸念が指摘されていた。実態を検証して働きがいを感じてもらう環境づくりを進めるため、仕切り直しが必要と判断した。
 
みずほは約20年前から企画職を中心に裁量労働を適用してきた。他の大手行も企画系などで裁量労働を採用している。裁量労働は実質的に際限なく残業ができてしまう。業務量に見合った残業代が支払われていないと不満を抱く社員もいる。長時間労働の温床になっている可能性もある。
 
みずほは社員に働きがいを感じてもらいやすいよう制度の見直しを進めている。今回の裁量労働の廃止もその一環で、いびつな労働慣行をゼロベースで見直す狙いもある。今回の廃止は働き過ぎていた社員の一時的な賃上げにつながる可能性があるものの、誰がどのくらい働いているか「見える化」できると考えた。

 裁量労働とは、実際の労働時間でなく、労使で合意した時間を働いたとみなす制度です。例えば「この仕事を1日8時間で行うとみなす」と決めれば、仮に8時間以上かかってもかからなくても、8時間労働とみなすわけです。「専門業務型」と「企画業務型」があり、みずほでは企画業務型(事業企画、立案、調査分析などで使用者が具体的指示をしない業務)のほうを対象としていたものと思われます。

 各社の人事制度見直しに同席する機会がありますが、同記事のように裁量労働制を見直してシンプルな労務管理(「1週間40時間、1日8時間」を超えたら残業扱い)に戻す例が散見されます。裁量労働以外にも、固定残業制(例えば20時間など、一定の時間枠分を定額の「みなし残業代」として払い、時間枠内の残業時間は新たな残業代支給対象としない)をやめてシンプルな労務管理に戻す例も多いです。

 (固定残業制はまた別として)裁量労働制がうまくいくかどうかは、それを導入したいと考える本質的な理由(仕事のやり方や時間の使い方はメンバーに委ねて、成果や役割の発揮度合いでマネジメントしたい)に立ち返って考えると自ずと見えてくるのではないかと思います。すなわち、次の通りです。

 ・仕事のやり方や時間の使い方はメンバーに委ねて、評価の対象にしない。
・評価の対象は、結果としての成果や役割の発揮度合いとする。
・方向性の明示や仕事の進捗確認、必要なアドバイスなどは行うが、仕事のプロセスには直接介入しない。

 逆に、仕事のやり方や時間の使い方に細かく介入したり、実態の労働時間が長い人が評価されたりする(あるいは効率的に仕事をして労働時間を短くしている人が、周囲に気をつかわなければならない)ような環境では、うまくいかないでしょう。ましてや、経営側が残業代を払いたくないがために便宜上裁量労働の形を取るだけなのは、論外です。こうしたマネジメントの準備ができていない職場、あるいはそれが適していない職場であれば、上記例のようにシンプルな労務管理にしたほうがよいと言えそうです。

 一方の従業員の側も、仕事の自律性で成熟していることが求められます。やることを個別具体的に指示してもらいたい、成果に関係なく一定の労働時間以上働きたくない、成果が上がってなくても投入している労働時間に対して対価をもらいたい、などの考え方であれば、裁量労働は不向きでしょう。労使の双方に運用責任があると言えると思います。

 ところで、私たちは労働時間の短縮を求めているのでしょうか。この問いに対する回答として当然すぎると思いますが、それは人によって異なるのだと思います。

 5月12日付日経新聞によると、2012~21年の9年間で平均残業時間は半分になったそうです。社員口コミサイト運営のオープンワークの調べでは、「21年の残業時間は全業種平均で月24時間で、12年の46時間から半減した」ということです。いわゆる働き方改革の進展と、コロナ下での営業時間短縮の影響などが要因として想定されます。

 他方で、昨今副業の社会的な広がりが見られます。パーソル総合研究所による「副業に関する調査結果(個人編)」(2021年8月13日発表)によると、対象者(従業員数10人以上の企業に勤務する20~59歳の男女3万4,824人)のうち、1か月あたりの「副業にかける時間」は次の通りとなったそうです。

 ・副業労働日数:平均9.0日
・副業総労働時間:平均29.5時間
・平日の副業労働時間:平均2.56時間
・休日の副業労働時間:平均4.48時間

株式会社ワークポートによる、全国の20~40代のビジネスパーソン539人を対象とした「副業経験」についてのアンケート調査(2022年2月)では、以下の通りとなっています。

 ・副業経験がある人:32.7%
・副業経験があり、かつ現在副業中の人:18%

副業経験がある人は全体の中ではまだ少数派ですが、社会的な流れとしては今後増えていくと想定されます。(両調査は対象者も異なりますので単純比較はできませんが、傾向の概観として)全体の1/3程度の人が労働時間を増やす選択をしたとみなすことができるかもしれません。9年間で正社員としての残業が22時間減った(46-24=22)一方、副業に29.5時間投入しているからです。

 以上のことから、次のように考えてみました。

 ・子育てや介護その他の事情で、労働時間の制約が必要な人材がいる。一方で、労働時間を積極的に増やしたいという意思のある人材もいる。これらの人材を一律の労務管理に当てはめるのではなく、個々に応じて選択肢があると理想的ではないか。

 ・労働時間を積極的に増やして貢献領域やキャリアを広げたいといった意欲のある人材に対して、労働時間の制約を課して意欲をそぐのは、非生産的ではないか。(健康維持に必要な休憩休日を確保するのは前提のうえで)

 ・労働時間を増やす意思のある人材に対して、そもそも副業先の探索以前に、本業で没頭したいと思える環境を提供できれば(あるいは、本業で複数の異なるキャリア経験が積める)、なお理想的ではないか。

 副業は有力な働き方のひとつですし、様々な効果を見込んで組織的に取り組む意義はあります。多様な労務管理のやり方を含む働き方改革も必要なことだと言えます。そのうえで、ある施策を推進しようとする際には、本質的な観点からなぜそれを推進したいのか、そして、マーケティング活動と同じで、顧客層(この場合の労働者)がそもそもそのことを求めているのか、それは組織や社会の全体最適に合っているのか、を整理する必要があると考えます。

 <まとめ>
労働時間管理を、生産性と個人の自律性や志向性の観点から考えてみる。

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